山都でしか

[出品者情報]

山都でしか
熊本県上益城郡山都町

[商品]

  • 桜咲鱒(さくらさきます)

山都町でしかできないものづくり、ものがたり。

口に入れそっと噛んでみるとパンッと身が弾ける。プチプチと弾けて染みでる味は、肉厚な噛みごたえとともに、濃厚なうま味となって溶けていった。スプーンですくって見ると、ルビーのような透きとおった朱色が美しい。形も、色合いも、ひと粒ひと粒が微妙に異なる。それが天然の宝石のようで、思わず見とれてしまう。独特の弾力となめらかで繊細な風味。案内人岸さんのいう「山のキャビア」の表現に納得する。

イクラと聞くと鮭を思い浮かべる人が多いかもしれないが、実はこれ、「サクラマス」のイクラだ。鱒(ます)は鮭と同じサケ科だが、卵の違いは鮭より少し小粒で、独特の甘みが特徴といわれる。ただ、サクラマスと聞いてピンとくる人も少ないだろう。サクラマスは、ヤマメがさらに大きく成長したもの。一般的にヤマメは河川で暮らすものと海に降りるものがいるが、サクラマスは、その降海型のヤマメのことを指す。熊本県上益城郡山都町にある「松本養魚所」は、主に寒冷地でとれる幻の高級魚・サクラマスを、南国・熊本で養殖することに成功した。しかも海ではなく陸上養殖で。今回は、これから山の都の新たな特産品を目指す、「桜咲鱒」の開発ストーリーを紹介する。

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熊本県上益城郡山都町は、九州の真ん中、いわゆる“九州のへそ”に位置する。「松本養魚所」から車で5分くらいのこちらは、緑川と内大臣川の支流がひとつになった景勝地。豪快に流れる水しぶきが圧巻!

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山の奥にある養魚場は、時に会話をさえぎるほど大きなポンプ音が響き渡る。その音にかき消されまいと、自然と声のボリュームも大きくなった。

海水でなく淡水で一生育てる完全淡水養殖のサクラマス。

熊本県上益城郡山都町。町の北部は阿蘇南外輪山、南部は九州脊梁の山々が連なり、これらを水源とする2つの主要河川が東西に流れている。そんな山の都の、さらに奥深く。目丸(めまる)と呼ばれる地区にある松本養魚所が、サクラマスを養殖で育てている。山都町の有志が集まり、このサクラマスを使った商品開発の取り組みがスタートした。その第1号として完成したのがこの「桜咲鱒」(山都さくらますの生イクラの醤油漬け)だ。プロジェクトの中心は、「山都でしかできないこと」をテーマに町おこしをすすめる会社「山都でしか」のメンバーと、同養魚所の3代目である松本竜哉さんだ。

山都町の観光名所である「通潤橋」から南下。うねうねとしたピンカーブが続く、険しい山道を下ること約30分。途中、小さいトンネルを2つ抜けると、秘境の色合いが一気に強まった。松本養魚所は、松本さんのお祖父さんの代から続く歴史ある養魚場。異業種で仕事をしていた竜哉さんだが、2代目であるお父さんが若くして亡くなり、帰郷する。現在はヤマメ、ニジマス、イワナの3種類の魚種育て九州内に卸すほか、球磨川や緑川に放流する稚魚を年間15万匹ほど出しているという。ところが、2016年に発生した熊本地震の被害が水の流れに影響を及ぼした。養魚場の規模を縮小せざるを得ない状況下で、設備の建て替えを来春に控えていると話してくれた。「益城町や美里町に顧客を持っていたので、その影響はありました。地震後に飲食店を辞められるところも多く、経営者の高齢化もすすんでいます」と現状を語る。

そんな中、松本さんは5〜6年前から着手した山都さくらますの養殖に新たな活路を見出している。電照をかけるなど、独自に編み出した生育条件を整えて、ヤマメをゆっくり大きく太らせて育てる山都さくらます。短期間で急激に成長させると味の質が落ちると、松本養魚所では、時間をかけてじっくり育てる。海で養殖する事業者もあるが、松本養魚所は、淡水で一生育てる完全淡水養殖。身も卵も繊細な味、香り、食感になる。「淡水で時間をかけて育てた山都さくらますは、程よく脂がのり、締めた次の日もビシッと身が引き締まっているんです」と語りつつも、まだ現状に納得してはいないという。「もっといいものができるはず」と考え、研究を重ね、さらなる高みを目指している。

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「松本養魚所」では隣接する水力発電設備の水を利用することで、九州山脈奥地の水を使用してきたが、2016年に発生した熊本地震により、既存の設備が大きな被害を受けた。地震から3年経った現在も復旧作業中である。飼育量を回復を目指し奮闘している。

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3代目の松本竜哉さん。もちろん魚の味には厳しく、「海で育つサクラマスの味にがっかりした」という自身の経験から、完全淡水養殖にふみ出すことを決意した。山都町という豊かな自然環境をベースに置きながら、その特性を活かしつつ、研究を続けている。

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魚体はヤマメ本来のパーマーク(ヤマメ独特の模様)が薄れ、薄桜色を側面に纏う。完全淡水で養殖される山都さくらますは、海水養殖するものよりも程よい脂と上質なうま味が特徴だ。

いつか“山のキャビア”と言われるように。

松本養魚所の山都さくらますの生イクラを使って“醤油漬け”を完成させたのが、山都町の浜町商店街にある老舗郷土料理店『本さつま屋』を営む岸本竜彦さんだ。岸本さんは、「山都でしか」の主要メンバーの一人。「株式会社山都でしか」は、その名のとおり「“山都町でしか”できない価値」で町おこしをはかる会社で、特に主要産業である農業と観光をつなげることを目的としている。会社は地元の若手農家や飲食店オーナー、経営コンサルタントなどのメンバーで2017年2月に設立された。これまで山都町の農業の魅力を伝える「畑のコンシェルジュ」事業や町の交流イベント・食育体験などをとおして町の資源を活かしたさまざまな事業を手がけてきたが、本格的な商品開発は初めてという。

料理人である岸本さんは、この山都さくらますを「山都町のポテンシャルを最大限に活かした魚」と賞賛する。「伊勢海老とかあわびとか、海の食材ってやっぱり派手だからね。それに負けじと、どうにか山の食材の魅力を発掘したいと思っていたときに、こんな山奥にすごいものが潜んでたから驚いた。これは是非使うべきだと思って、秋に出てくるイクラがほしいと2年前に相談しに行ったんです。そしたらもともと希少ないくらなので値段がとっても高くて参った。だったら次の年は頑張ってみましょうと話をして、商品開発にこぎつけました。山都さくらますは、今後、山都町の価値ある大事な食材になってくると思いますよ」。

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「本さつまや」の岸本竜彦さんは「山都でしか」のメンバー。「誰かに委託するばかりではなく、自分たちが住む町を自分たちの力で盛り上げるという気持ちが何より大切だと思う」という言葉が印象的だった。

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今回の取材コーディネートをしてくれた岸寛さん(写真左)は、現在の奥さまとともに関東から移住した方。山都農泊協議会の事務局として、山都町で農泊ができる体制づくりを整えている最中だ。

この土地で生まれ育った朱色の宝石。

本さつまやでは、すでに『鮭のイクラの醤油漬け』がある。この“鮭のいくら”を“山都さくらますのいくら”に変えたのが今回の「桜咲鱒 YAMATO RED CAVIA」というわけだ。調理方法はいたってシンプルで、山都さくらますの腹から出た生の筋子に、酒、みりん、薄口醤油で味付けをして3日間漬け込むのみ。「いわゆる鮭のものと比べると、口当たりがさらっとしているのが特徴です。あとは何といっても、口のなかで弾け飛ぶような弾力感がアクセント」と岸本さん。たとえば和食・洋食問わず、前菜として華やかに楽しむのもいいし、今日は特別とご飯にかけて豪快にいただくのも最高だ!もちろん、酒のあてとしてのポテンシャルも抜群である。

山都町の資源を活かして生まれた商品は、これから外の人々と中の人々の間に架かる橋渡しになってくれる事だろう。

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朱色に輝く“山のキャビア”。ひと粒ひと粒の輪郭がはっきりして、まるで宝石のよう。松本さんと岸本さんの知恵と手間、探究心。そして「山都でしか」のふるさとへの思いが、山都町の新たな宝ものを産んだ。

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