農事組合法人きつき茶生産組合

[出品者情報]

農事組合法人きつき茶生産組合
大分県杵築市

[商品]

  • 芽吹きのかをり きつきの抹茶(紹介のみ)
  • 芽吹きのかをり きつきの抹茶入りかぼすゼリー
  • きつき茶 煎茶八十八夜
  • きつき茶 煎茶潤い ティーバッグ

いのち芽吹く丘から、抹茶のお便り

今回の舞台は、大分県杵築市。実は2年前の「皿の上の九州2017秋」でも、杵築市の名産を集めたブランドきつきのきづきを紹介している。海と山のめぐみがもたらす豊富な資源を生かしたさまざまな産品がある中で、取材班が特にその生産風景に心を奪われたのが、「きつき紅茶」だった。

静岡や鹿児島など、お茶の生産に適した地形には、特徴がある。それは、年間を通した温暖な気候と、水はけの良い傾斜地であること。中でも杵築は、伊予灘から駆け上がる丘陵に茶畑があり、畑から眺める光景は、さながら展望台から見たかのよう。面前の鮮やかな緑、眼下に広がる城下町、遠くに見える山並みと、いつまでも眺めていたくなる景色が広がっている。

そんな環境を運よく譲り受け、この場所から新たに抹茶生産を手がけているのが、今回取材させていただいた農事組合法人きつき茶生産組合の代表、佐藤和明さんだ。

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この景色に惚れ込み、20数年前にこの茶畑を買い取った佐藤さん

手をかければかけただけ、いいものができる

杵築の地に生まれた佐藤さん。小さい頃から、祖父の仕事だったお茶づくりを手伝っていたという。大学を卒業して関東で働くも、1年半で地元に戻り、農協に就職。その後30年間にわたって勤務する傍ら、兼業農家として自分もまた緑茶づくりを続けた。伝統的なお茶づくりを受け継ぎながら、それには飽き足らず、いかにして生産量をあげるか、効率的な管理をするか、試行錯誤の日々を続けてきた。

「1990年代当時、杵築はすでにお茶の産地として大分県内では広く知られていて、生産農家も70〜80名はいました。私も娘が生まれて、より仕事に精を出すようになった頃で。手をかければかけただけ、いいものができる。そんなお茶づくりに夢中になりましたね」

しかし、時代の変化は容赦なく訪れた。この頃よりペットボトル入りの緑茶が多く出回り始め、お茶を淹れて飲むという文化自体が廃れていく。

かつて杵築は、紅茶生産の地として名高く、1965年には農林水産大臣賞のグランプリを受賞したこともある。しかしその後、紅茶の輸入自由化によって、安価な輸入紅茶が大量に出回り、杵築の紅茶農家は緑茶生産に鞍替えを余儀なくされた。そして、ペットボトルの台頭が、今度は緑茶生産を圧迫。祖父の頃からお茶生産の現場を知り、その苦労もよく理解している佐藤さんは、ここで一念発起。自ら先頭に立ち、お茶づくりの可能性を探ることになった。

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佐藤さんは、2018年に長年勤めた農協を辞め、きつき茶生産組合の代表としてお茶づくりに専念することにした

初心に帰って抹茶づくり

緑茶が苦境に立たされる中、佐藤さんが注目したのが抹茶だ。抹茶は、インバウンド需要もあり、近年需要が高まっている。和菓子だけでなくケーキやチョコレートにも、抹茶は味展開の定番となりつつある。化学肥料を一切使わない有機栽培は、手間ひまはかかるが、その分市場価値も高い。これから注力していくなら抹茶だと、佐藤さんは考えたのだ。

「玉露や煎茶はある程度やってきましたが、抹茶生産に関してはまだまだこれから。今はまだ一年生の気持ちで、少しずつよくしていけたらと思います」

そんな佐藤さんが始めた、抹茶生産の現場も見学させてもらった。まず、無農薬で育てたお茶園に4月頃から被覆を始め、一ヶ月近く日光を遮断する。これにより、お茶の香りが強まり、色づきもよくなる。そして、茶葉を摘み取り、蒸してから乾燥させる。煎茶であれば「揉む」という工程を経ることで、成分がよく抽出されるようになるが、抹茶の原料となる碾茶は、揉まずに乾燥へと入る。その後に石臼で挽くことで、より細かいお茶の粒子を作り、そこで口当たりや味わいが引き立つようにするためだ。できあがった抹茶からは、香ばしい香りが漂ってくる。

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この色合いと香りに、まず魅せられる。抹茶は城下町・杵築の風情によく似合う

杵築の名産をかけ合わせて

2019年より出荷を始めたきつき抹茶。早速反響があり、飲料用の他、抹茶ケーキなど業務用にも引き合いがあるという。特に大分県内のお菓子屋さんが、地元で採れた原料を使うことにこだわり、消費者の関心も高い。秋以降、大口の取引も控えているという。そして、皿の上の九州2019に合わせて開発した新商品もお目見えした。地元・杵築のメーカー「オレンジ農園」ですでに人気の高い商品「かぼすゼリー」に、抹茶を混ぜ合わせた「抹茶かぼすゼリー」だ。杵築のめぐみをぎゅっと封じ込めた味わいとなった。

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口に入れると、かぼすの香りが立ち上がり、後から抹茶の苦味も適度に感じる

最後に佐藤さんに、今後の展開について聞いてみた。
「杵築のお茶生産は、長い歴史を持っているにも関わらず、大分県内にしか知られていません。京都の宇治のように、抹茶といえば杵築と言われる存在まで引き上げていきたい。先は長いですが、負けず嫌いの性格なので、地道に努力を続けていきたいと思っています」

歴史を引き継ぎ、アップデートさせる佐藤さんのチャレンジ。その成果の一端を、ぜひ皿の上の九州で味わってみてほしい。

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