何の手も加えない、花の香り漂う天然はちみつ
舌にのせるとすっきりとした甘さが口いっぱいに広がり、とびきりの幸福感に包み込まれる。ふんわりと花の香りが鼻を抜けていく。れんげ畑を飛び交うミツバチが集めたままの、混じりっけのないれんげ花のはちみつだ。「次はこちらを。これは今年採れた貴重なはちみつですよ」と嬉しそうに勧めてくださった桜のはちみつをいただいた。品のある香気と濃厚な甘み、桜餅のような後味が広がり、花によってこんなにも味わいが違うものかと驚かされた。
訪ねたのは、川崎町の自然の中でミツバチと共に生活をしている、「蜂屋なべとう」の鍋藤修治さん。養蜂家のみなさんは、ミツバチにすべて任せてのんびりと過ごしているのかと思いきや、「とんでもない!」と鍋籐さんは笑い飛ばす。
「今はすごく大切な時期。春先から11月ごろまでは、休みなしで働いているんですよ。蜂と一緒に暮らし、蜂が越冬する時季に一緒に休む。働き蜂と同じくらい、私も毎日働きづくめです」。採蜜をするのはレンゲなどが咲いている春だけだが、次の春へ向けて、健康な蜂を絶やさぬよう巣箱を見回り、管理し続けなればならないのだ。特に秋はスズメバチとの戦いのシーズン。巣箱に侵入されれば、あっという間にミツバチを全滅させてしまう厄介な存在だ。「生き物相手だから、一日たりとも気が抜けない」と、スズメバチ退治にも余念がない。冬が近づくと、無事に越冬できるよう巣箱を整えて回り、蜂たちの様子を見守りながら春を待つ。その間にも、ビニールハウスのいちご農家さんなどに蜂を貸し出し、受粉のお手伝いをしているという。
春、1年分のはちみつを採蜜する。「れんげは有機肥料になるので、お米農家さんが種を蒔いてくださるんです。昔は日本中でれんげ農法がおこなわれていたのですが、今も残っているのは少数だと思います」。町内の田んぼが一面紫色の絨毯で染まる様子は、川崎町の春の風物詩だ。れんげの咲く時季に採れたものが「れんげはちみつ」、桜の時季に採れたものが「さくらはちみつ」となる。いろいろな春の花の蜜を集めたものが「百花はちみつ」だ。
採蜜したものはタンクに保管され、そのまま何も手を加えずに瓶詰めする。その年によって、蜜の色や味わいが違っているのも自然のままだからこそだ。「今年は久しぶりに納得できる完璧な蜂づくりができた。来年はすごくいいはちみつが採れるはず!」と、鍋籐さんから今年のはちみつ超えの爆弾予言も飛び出した。