赤ちゃんにも食べさせたい、豆腐の味噌漬け

[出品者情報]

豆腐工房 ぬくもり畑
福岡県朝倉市

[商品]

  • 豆腐の味噌漬
  • 豆乳ドレッシング
  • ほか

赤ちゃんにも食べさせたい、豆腐の味噌漬け

サイコロ状にカットしたら楊枝で刺して口の中へ。舌に残る柔らかいチーズのようなねっとり感と、味噌の芳醇な風味が口いっぱいに広がる。ついつい日本酒をかたむけたくなるその正体は、朝倉市にある豆腐工房「ぬくもり畑」の豆腐の味噌漬けだ。豆腐の味噌漬けは、もともと熊本地方の伝統食。鎌倉時代、平家の落武者が生き延びるために保存食として作られたのが始まりだと言われ、以降800年もの間、熊本の東南部を中心に受け継がれてきた。
ぬくもり畑では、大豆や味噌など材料のほとんどに地元・福岡産のものを使用。「赤ちゃんでも安心して食べられる味噌漬け」を基本に、減塩だが、化学調味料・着色料・保存料などを一切使わず、伝統的な作り方を踏襲する。時間をかけてじっくりと熟成させることで生まれる本来の旨みを追究する、日本で数少ない豆腐の味噌漬けメーカーだ。

にがりの量を微調整して作った味噌漬け専用の豆腐生地に重石をして一晩水切りさせたらカットし、ひとつずつ丁寧にサラシで巻いていく。それを特製味噌にしっかりと漬け込むこと約ひと月。気候の変化や湿度で微妙に変化し続ける熟成の頃合いを見極めたら、熱処理して発酵を止め、完成だ。熟成させた豆腐はクリームチーズのような食感に変化し、深みを増した味噌の味わいと相まって、およそ豆腐とは思えぬような新しい食べ物に生まれ変わる。「熟成具合を見極めるのが何よりも難しい。ちょっとした変化が予測できないことも多くて、まるで子どもを育てているよう」と、ぬくもり畑の中村康治さん・富美夏さん夫妻は笑いながら話す。

スタンダードな「プレーン」をはじめ、ピリリと辛い大人の「唐辛子」、香り高い「柚子」と「生姜」、熟成が進んだ豆腐を瞬間冷凍させた「極生プレミアム」など、味噌漬けのラインナップも個性豊か。古くからの日本の伝統食を巧みに組み合わせた豆腐の味噌漬けは、保存食を超えて、新たな食の楽しみ方を提案してくれる知恵と文化なのだと気づかせてくれる逸品だ。

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一晩水切りした豆腐をカットするのは、「ぬくもり畑」の代表・康治さんの仕事。包丁の動きを止めず、勢いよく3/4丁のサイズに切り分けていく

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カットした豆腐は、従業員の西暁子さんが手際よくサラシで包み、ひとつひとつ丁寧に味噌を漬けて容器に並べていく。「1日3時間。この作業があるからよく眠れる」と笑いながら話す

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材料の産地も選び抜いた豆腐用の味噌は、康治さんの母・澄子さんが仕込む。豆腐を漬ける際にこの味噌に配合するのは、清酒ときび砂糖のみ

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味噌漬けのほかにも、無添加の豆乳ドレッシングも「皿の上の九州」で販売予定。サラダ以外にステーキなどの料理にもよく合う

前例のない味噌漬けづくりへの挑戦

「熊本の知人からもらって食べた豆腐の味噌漬けが忘れられなかったんです」と振り返るのは、夫婦で豆腐工房を営む康治さん。その美味しさに驚くも、地元福岡では手に入らないことを知り、「曲がりなりにも自分たちも豆腐屋。作ってみればいい」と思い立ったのが始まりだ。
思わぬ壁となったのは、無添加への挑戦だった。当時3歳だった息子は重度のアトピー。富美夏さんが元幼稚園の教諭という経験もあり、健康への関心は人一倍あったが、食品添加物を使わず豆腐の味噌漬けを作っているメーカーは見当たらず、見本もマニュアルもない状況。「添加物を使えば熟成も安定するし、長期保存もできる。味にもバラツキが出ない」という大きなメリットはあったが、「赤ちゃんでも食べられるような豆腐の味噌漬けを作ろう」と、無添加を貫くことを決意した。

塩分、水分、湿度、温度……と、多くの要素が微妙に作用し合うがゆえに、当初は熟成具合を見極められずに豆腐を腐らせるなど、豆腐に合う味噌の味に調整を重ねるだけで、年月だけがすぎていく日々。最後は舌の記憶を頼りに試行錯誤を繰り返し、ようやく商品化にこぎつけたのは、試作を始めてから6年の歳月が経っていた。「今でも失敗することはあります。豆腐と味噌が“おりこうさん”に育てば万々歳」と笑顔で話す中村夫妻。”おりこうさん”というその言葉から、味噌漬けへの溢れんばかりの愛情が伝わってくる。

現在は、味噌づくりを担当する康治さんの母も含む4人のスタッフで、繁忙期には週に1600個の豆腐の味噌漬けを作る。3年前には、直売所の横に飲食スペースをオープン。ぬくもり畑の名物・ざる豆腐を堪能できるランチは、地元の女性客を中心に人気を集めている。全ての基本は「体に優しいものを」。豆腐一筋に突き進む夫妻の思いは、子どもから大人まで、多くの人を笑顔にする元になっている。

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若い頃はバンドマンだった康治さんは、東京で音楽活動に明け暮れる日々もあったとか。そんな多様な経験が、固定概念に縛られることのない味噌漬けづくりに繋がっているのかもしれない

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妻の富美夏さんは、ぬくもり畑の営業統括マネージャー。約ひと月漬けた豆腐の熟成具合をチェックしながら「今回は“おりこうさん”のようですね」と笑いながら見せてくれた

豪雨から1年。豆腐がつなぐ地域の輪

福岡県中南部、九州一の大河・筑後川が流れ、肥沃な土壌と豊かな水に恵まれた朝倉市は、豊かな自然環境に加えて昼夜の気温差が大きく、一年を通して豊富な果物や野菜が採れる地域でもある。
そんな朝倉市と聞けば、昨年(2017)7月の九州北部豪雨を思い起こす人もいるだろう。ぬくもり畑の店舗兼工房も、かろうじて浸水を免れたものの、目の前の道路は濁流で通行止になり、ランチの予約は全てキャンセル。3ヶ月にわたり来客がほぼゼロの状態が続いた。「豆腐を作ってもお客さんが来ない。ならばこっちから出向いて、困っている人に食べさせたいと思った」と話す中村夫妻。店が再び軌道に乗り始めるまでの期間、作りたてのざる豆腐を紙コップに入れて避難所をたびたびまわり、豆腐を差し入れ続けた。

このときの支援がきっかけで、復興イベントの開催に関わることになった。現在はぬくもり畑の店舗をイベント会場として提供したり、運営の窓口業務を取り仕切ったりするまでに。イベントの中には、筑後地方を中心に約100の企業・団体が集まっての大規模なものもある。「きっかけを作ってくれた豆腐を通して、朝倉全体を元気にしていきたい」と、笑顔で今後の展望を語る。
まだまだ珍しい豆腐の味噌漬けの普及にも力を入れていきたい中村夫妻。「いつか日本中で当たり前に豆腐の味噌漬けが食べられるようになったら嬉しい」と意気込む。豆腐と味噌という日本の伝統的な食材から生まれた豆腐の味噌漬け。長年受け継がれてきた変わらぬ良さを残しつつ、そこに新しさをたずさえた食として、朝倉から広がっていくことだろう。

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終始笑顔で暖かく話してくれた中村夫妻。天気の良い日は、店舗「ぬくもり畑」のそばのテラス席でランチをいただくのもおすすめ

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