宮崎県北の魅力を伝える地域商社で地方を元気にしたい

[出品者情報]

合同会社TABERU(たべる)
宮崎県日向市

[商品]

  • 立石いらかぶマスタード(加工品)
  • キャビア塩(調味料)
  • 細島いわがきのオイル漬け(加工品)

宮崎県北の魅力を伝える地域商社で地方を元気にしたい

地域の特産品はもちろん、観光資源も含めて丸ごと国内外に売り込む「地域商社」が、全国各地で立ち上がり、これまでになかった経済循環が生まれつつある。宮崎県内にも5社ほどの商社が立ち上がる中、奥日向を含む宮崎県北地域の魅力を伝える地域商社として9月9日に「合同会社TABERU」が設立された。その代表社員を務めるのが、林幸広さんだ。林さんはこれまで、福祉施設の職員や美容師などの経歴をもつ異色の存在。福祉施設の利用者の仕事創出にならないかと、地域性を生かした商品を開発する中で、利用者と一緒に開発した「立石いらかぶマスタード」という商品をもっと販路拡大ができないかと、日向市にある産業支援施設「ひむかBiz」に足を運び相談していた。そこで出会ったのが、自分たちの住む地域をもう少し活性化させたいという同じような悩みを持つ、鈴木宏明さんや弓削龍生さんなど、後にTABERUのメンバーとなる人たちだ。鈴木さんは椎葉村で土木関係と乾燥キノコやチョウザメなどを販売し、是沢さんは日向市で養殖されるカキやヒオウギ貝の加工品を製造販売、弓削さんは美郷町の栗を使ったお菓子を製造販売する「日向利久庵」の代表を務めている。

「TABERUのメンバーは、個人でも事業を起こしている実力のある人ばかりです。会って話すうちに、地元の高齢化は進むのに地域の若者は減少していく現状などに直面し、自分の愛する地域を元気にしたいという同じ思いを持っていると感じたんです」と林さん。そこで、一緒に地域商社を立ち上げないかと声を掛けたのだ。メンバーは5人の異色の顔ぶれがそろう「合同会社TABERU」。「このメンバーなら社会的インパクトのあることができると思うんです。楽しいことが起きるはず」と林さんは新たなはじまりに期待を込めた。今後TABERUは、3つの事業を柱に地域経済を循環させたいと考えている。1つは地域の生産者が作る産物をブランディングし、付加価値をつけること。2つ目は、規格外品を無駄にしない仕組みを作り、飲食店への卸し、自社運営の飲食店で活用をすること。3つ目はフードバンクとして食べ物を必要とする人に必要な分を届ける仕組みを作ること。まだ立ち上がったばかりの「合同会社TABERU」が、皿の上の九州で紹介する3つの商品を紹介していただいた。

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日向市にあるひむかBizで、打ち合わせを行っているTABERUのメンバー。林さんをはじめ(株)森のめぐみ専務の鈴木宏明さん、日向利休庵の代表取締役・弓削龍生さん、会計アドバイザーの黒木博之さん。

地域の在来作物「いらかぶ」と純米酢、天然塩で作るマスタード

柔らかな酸味とつぶつぶ感の後、ほどよい辛味と爽やかさが残る。すべて国産の、しかも宮崎県の材料で作るマスタードとはどんなものか? 林さんから初めて「いらかぶ」のことを聞いた時から関心は高まるばかりだった。日向市から耳川沿いに中央山地に向かって30分ほど車を走らせると見えてくる美郷町西郷区。この地域の伝統野菜「いらかぶ」の種を使ってマスタードは作られる。同じく東諸県郡綾町の「大山食品」が醸造する純米酢と、日向市の「宮崎サン・ソルト」が日向灘の満潮時の海水のみで作る塩で味付け。素材自体の珍しさに加えて、使う調味料は宮崎産の自然派調味料のみと、味も素材もごまかしのきかない潔さだ。2種類のうちあらびきは、まろやかな酸味のなかに、時々辛さがピリリとくるコクのある一品。一方、粒マスタードは、辛みよりつぶつぶとした食感が抜群。あらびきは、ソーセージなど肉の脂分と一緒に食べて、さっぱりさを楽しみ、粒は野菜のマリネなどの味付けに使い、つぶつぶした感じを食材のように味わいたい。

マスタードの主原料となるいらかぶは、西郷区の立石地区で、自家菜園などで細々と栽培されていた野菜。林さんが、福祉施設の職員として働いていたときに、中山間地域コーディネーターの高妻孝光さんに、障がい者でもできる仕事は何かないかと相談したことが「いらかぶ」と出合ったきっかけだ。高妻さんから、立石には「いらかぶ」という珍しい地域作物があり、試しにマスタードを作ったらおいしかったという話を聞いたことを発端に、食べてみたいと思い立った。すりつぶしていない状態で食べてみると、知っているマスタードの味とは少し違い、素材そのものがおいしいと感じた林さん。そこで、いらかぶを手に入れようと現地に足を運んでみると、畑で育てている人がいないという現状に直面する。せっかくの伝統野菜を地域に残すことから始めようと、いらかぶを育ててマスタードを作り、いらかぶの栽培を復活させるという「いらかぶ復活プロジェクト」を立ち上げた。「いらかぶは、勝手に種が落ちて、植物自身のタイミングで芽を出す。人間が管理しようとするとまったく芽を出さなかったりする難しい野菜なんです」と林さんは語る。現在は、毎月100瓶を製造販売する予定を立てているが、昨年は収穫量が予想よりも少なかったため、年間800瓶だけの製造となった。「いらかぶ復活プロジェクト」を立ち上げてから3年が経過した今、商品が確立し流通もスタートしている。

「いらかぶは立石だけでしか生産できない伝統野菜として希少価値を高めて、西郷区の新たな産業として地域経済の底上げをしたい」と語る林さん。付加価値のある商品をつくり、地域経済の循環を目指すTABERUの原点が、いらかぶマスタードには詰まっている。

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立石いらかぶマスタードの材料の1つが大山食品(株)の純米酢。「麹と綾の照葉樹林の伏流水で米を発酵させて酒をつくり、そこからさらに3カ月かけて酢を作る。時間をかけて発酵させるから、ツンとした匂いがなくマイルドなんです」と営業部の川越純子さん。

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マスタードのもう一つの材料『満潮の塩』を作る宮崎サン・ソルト(株)の代表取締役・児玉麿士(きよし)さん。『満潮の塩』は、日向市お倉が浜の南端から、満潮時に汲む海水を釜で炊いて作る。「満潮時は海水がいきいきしているような気がしてこだわっています」と児玉さんは語る。

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美郷町西郷区の立石地区にあった伝統野菜「いらかぶ」。種まき会やベビーリーフの試食会を行い、立石の地域の仕事として定着させたいと考えている。

出荷できないキャビアを有効利用するために生み出した塩

次に向かったのは、椎葉村。宮崎県の北西、九州中央山地に位置し、村の面積の96%が森林で占められるという緑豊かな村。日本農業遺産にも認定された伝統ある農業を守り続けている地域でもある。椎葉村で、水産加工ときのこの栽培と販売を行っている(株)森のめぐみ専務の鈴木宏明さんは、地域の産業を活性化したいと自社ブランドのキャビアの立ち上げなどをひむかBizに相談。フードロスにも関心が高いなど、林さんと同じような考えを持つことで意気投合し、TABERU立ち上げに関わった。

自社ブランドの『平家キャビア』は、水のきれいな椎葉の養魚場で育ったチョウザメから獲れるため、生臭さがないと高い評判も得ているほど。そのキャビアを製造する際に、全体の10%ほどは身がやぶれて出荷できないものが出るという。出荷できないキャビアを廃棄せずに、なんとか別の製品として出せないかと考えてできたのが『平家キャビア塩』だ。「当社では乾燥シイタケやヤマメの燻製などの製造販売も行っていることもあり、乾燥機や燻製機を持っていました。そこで、つぶれたキャビアを乾燥機にかけてドライキャビアを作ってみたんです」と鈴木さんは語る。ドライキャビアを作ってみたときにそのまま食べてもおいしかったが、商品にするほどは量がないこともあり、トリュフ塩のように塩に混ぜてみたら風味がつくのではと考えたのが、キャビア塩ができたきっかけだ。

ドライキャビアと塩をそのまま混ぜただけでは、塩が水を呼び乾燥させたキャビアがもとに戻ってしまう。そこで、ドライキャビアと塩を混ぜた後に、焼いて水分をしっかり飛ばすことで解消した。「塩は、日向市のサン・ソルトが作っている『満潮の塩』を使っています」と鈴木さん。ドライキャビアと塩を一緒に焼いて作っているからか、魚介の香りと味が立っているため、そのまま舐めても魚介系の旨みを感じるが、野菜の天ぷらなどにつけて食べても、風味がプラスされておいしそうだ。
まだ考案したばかりということもあり、キャビア塩の使い方は試行錯誤中でもある。しかし、フードロスを削減でき、高価なキャビアを気軽に利用できるという点が大きな魅力だ。

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満潮の塩にキャビアの潰れエキスを塩に混ぜ、焼いて水分をしっかり飛ばし、さらにドライキャビアを混ぜた「キャビア塩」。魚介系の旨み、磯の香りを感じる、少し贅沢な塩だ。

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「椎葉の手つかずの山から流れる天然水で育てるチョウザメのキャビアは、生臭さがないと、築地などでも評価が高いんですよ」と鈴木さん。水槽の清掃などもこまめに行い、上質な水質を保って育てている。

海山の栄養詰まった細島岩ガキ。規格外品を加工し、地域の新商品に。

最後に訪れたのは、日向市の細島商業港でカキなどの加工品を製造販売する「(株)ゆめひなた」だ。細島岩ガキの規格外品を使って、しょう油とさとうでほんのり甘く味付けし、ピュアオリーブオイルに漬けた『かきのオイル漬け』を完成させたばかりだ。代表の是沢彰吾さんは、林さんの県北地域を活性化したいという思いや、規格外品を加工して付加価値をつけることで、生産者を守りたいという理念に賛同しTABERUに商品を卸すことを決めた。

是沢さんがカキのオイル漬けに使っている細島岩ガキは、平成23年から地元の漁業者が中心となって試験養殖が始まった逸品。天然の岩ガキの多くは外海に面した海で5年ほどかけて成長するが、細島岩ガキは3年ほどで出荷が可能になる。岩ガキが養殖されている細島商業港は、牧島山から流れ込む栄養豊富な山水と海水が混ざるところに養殖いかだがあるため、植物性プランクトンが豊富で早く身が太る。築地市場などでも「身入りがいい」と評判だ。養殖が始まって5年ほどしか経っていないため、宮崎県民でさえ知らない人も多く、3月下旬から8月頃までしか出荷されない季節限定商品だ。

細島岩ガキの150g以下は規格外品として養殖カゴに戻される。そうすると通常よりも何倍も手間がかかるため、養殖業者にとってやっかいな存在だった。カキの加工場があれば、規格外品に付加価値をつけて販売でき、1年中細島岩ガキを味わえる商品が生まれるため、細島のためにも必要だと感じて是沢さんは一念発起で加工会社を立ち上げた。「加工品を通じてカキの売り先も広がるといいと思ったんです」。
関東方面での販売展開を見据えて、甘みの強い九州のしょう油ではなく、群馬県で作られる正田しょう油を使用した『かきのオイル漬け』。これに上白糖で甘みを加え、地元でも受け入れられる味でありながら、関東などでも食べてもらえる味を目指した。オイル漬けを1つ、口に入れると、凝縮されたカキの旨味がオリーブオイルとともにじゅわっと広がる。味付けされたカキを漬け込んでいたオリーブオイルには旨みと香りが移っており、バケットにつけて食べてもいいし、パスタなどにからめてもうまい。規格外品で小さい身を使っているとはいえ、味の濃厚さを感じられ細島岩ガキの魅力を存分に伝える逸品に仕上がっている。

細島商業港は、マグロ漁船の発着でも有名だ。しかし、マグロ漁船を辞めた人や若い人が始める仕事としても岩カキ養殖は注目されている。「細島岩ガキの知名度が上がることで、雇用増えますし、地域の活性化につながると考えています」と是沢さんは力を込める。立場も専門分野も多様なメンバーで立ち上げた「合同会社TABERU」の活動が、地域に小さく力強い循環を生み出そうとしている。

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是沢さんは、出荷規定に満たない形がいびつなものや、殻に穴が開いたもの、150g以下の小さいものを使ってオイル漬けにしている。

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使うしょう油は、群馬県産のもの。販売先を関東圏に定めているからこそ、あえて地元の甘いしょう油ではなくさっぱりとした関東方面のしょう油を使用した。

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