筑後川沿いのサラサラ土が生み出す純白のかぶ

[出品者情報]

根菜人
福岡県久留米市

[商品]

  • かぶ(青果)

筑後川沿いのサラサラ土が生み出す純白のかぶ

真っ白で大きくてまんまる。搗きたての餅のようにキメのあるハリとツヤを放つ「根菜人(こんさいびと)」のかぶは、まずその見た目が心をつかむ。切るとみずみずしく、生で食べるとシャクシャク甘く、煮込めばさらに甘くやわらかい、その味は舌を唸らせる。

ツルンとした美しいかぶには「土が柔かくサラサラしていることが条件」と話すのは、「根菜人」の森光健太さん。筑後川沿いの土は、土壌の奥まで砂のようにキメが細かく水はけもいいため、野菜がへこんだり傷ついたりしにくく、いわゆる根菜類には最適。畑に生える雑草をある程度残しておくことも、かぶの日焼けを防ぎ、白さを保つ一翼を担う。
根菜類に欠かせない窒素を豊富に含んだ土壌を作るために、種まきの前には、畑に隣接する畜産農家から分けてもらう牛糞を土の中に混ぜて耕すことを繰り返し、年々身のしまった純白のかぶができあがる。
収穫したかぶは、その美肌を守るためにブラシを使わず水圧のみで洗浄し、新鮮なうちに選別・箱詰め・出荷される。現在は国内の農協や飲食店に卸すほか、福岡県内のイベント等で手に入れることが可能だ。

森光さんが育てているのは、直径約10センチを超える、いわゆる「中かぶ」。スーパーでよく見る手のひらサイズのかぶの2倍ほどの大きさがある。その理由は、「厚めに皮をむいても満足して食べられるように」。ちなみに森光さんのおすすめは、厚めに皮をむいたら1センチほどの幅にスライスし、明太子をつけてそのままカプリ。「かぶの甘みとみずみずしさがそのまま味わえる」大胆な食べ方だ。
煮るもよし、炒めるもよし、生で食べるもまた一興。普段あまりかぶを買うことがないという人にこそ食べてほしい。きっと新しいかぶの一面に触れられるはずだ。

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真っ白でツヤのある根菜人のかぶ。収穫時期になると、1日約2000個のかぶを出荷するという森光さん。トラクターで運ぶときも、箱詰めも、きれいに重ね合わせるように並べてなるべく傷をつけないように細心の注意を払う

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筑後川沿いの土は粘度が低くサラサラしているため、野菜がへこんだり傷がついたりしにくい。この土に牛糞を混ぜて肥沃な土壌を作る。牛糞は、自分が育てた米の稲わらと物々交換して手に入れる

大根農家とかぶの運命的な出会い

「何代目か数えたこともない」。それほど長く、この地で農業を営んできた家系に生まれ育った森光さんが、最初に就職したのは建築業の設備士。「農業以外の世界も見てみたい」という思いに駆られての選択だった。だがいつしか自分の中に芽生えたのは「根菜作りを途絶えさせてはいけない」という、後継者としての使命感。代々続く農家を継ぐことを決心したのは12年前、28歳の時だった。しばらくは大根を中心に育てていた森光さんが、かぶとの運命的な出会いを果たしたのは、就農3年が経った頃。地元のかぶ農家で、その個性的な見た目に心をうばわれた。「ツルンと真っ白で、かわいいハート型。見ているだけでなんとも幸せな気持ちになるんですよ」と、屈託のない笑顔でかぶを語る。

この出会いをきっかけに、迷いなくかぶの栽培を決意した森光さん。天候や自然災害に左右されることはあるが、栽培に手ごたえを感じ、今では大根の2倍近くを栽培するまでの主力商品となった。
とはいえ、当初はかぶの地味な印象から、その魅力をどう伝えるか思い悩んだという森光さん。そこで力を入れたのが、イベント出店だった。「根菜人」というシンプルかつイメージしやすい屋号を掲げて活動をスタートし、現在は福岡県内外のイベントで、青果としてのかぶはもちろん、かぶを使ったコース料理やデザートまで、かぶの新しい魅力を振る舞う。

「かぶって思った以上に色々な食べ方ができる。その使い道をもっと広めたい」と話す森光さんを見て感じるのは、一農家としてのかぶへの思いというよりも、「かぶの新しい魅力をどう伝えるか」というイノベイティブな姿勢。そこに森光さんという朗らかな人柄が加わることで、根菜人のかぶはますます人の心と舌を魅了するに違いない。

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かぶ以外には、大根、米、オクラを栽培している森光さん。現在は、母親(中央)と、社員の川添さん(左)と3人で農作業に勤しむ。「若い川添くんから新しい気づきをもらうことも多いです」と森光さん

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アナバナが毎月開催する『穴バー』のゲストとして登場してくださった森光さん。スイーツプランナー山口真理氏とタッグを組み、あたらしいかぶの食べ方を提案する夜となった。写真は「かぶの彩りサラダパフェ」。生ハム、アボカド、チーズに生クリーム、そしてかぶという絶妙な組み合わせで、その名の通り彩りも美しい

かぶを通した新しい出会いを求めて

福岡県久留米市。九州一の大河・筑後川と肥沃な筑後平野は、全国有数の野菜の産地として知られる。森光さんのかぶ畑があるのは、東西約30キロに渡って連なる耳納連山を目の前にしたこの平野部だ。
古くから大根づくりが盛んなこの地域だが、ハウスの設置や収穫時の作業負担が大きい「重量野菜」と呼ばれる根菜類は、作付けそのものが嫌厭されがちな上、高齢化が拍車をかけて、根菜農家は減る一方だと森光さんは懸念を抱く。「それでもこの土地だからこそ、質の良い大根やかぶが出来るんです。その美味しさをまずは知ってもらうことからはじめようと思った」。

かぶ栽培をはじめた頃から地元の若手農家と親交を深める中で誕生した「アグリオールスターズ」もその一環。筑後地方を中心に活動する米、柿、梨、水菜などの農家から、畜豚、酪農、そして料理家やデザイナーまで、幅広い分野の面々が揃う集団だ。それぞれ旬の野菜の生産者が主役となり、収穫時期になると、旬の食材を使った料理会が不定期に催されている。
「自分だけだったら農業に対する不安もあったかもしれませんが、仲間と出会うことでそれが楽しさになる」という彼の軽やかな言葉からは、農業の危機的な未来ではなく、むしろ明るい可能性が漂ってくる。

現在はかぶと大根を栽培しながら、イベントを中心にかぶの魅力を伝える活動を続ける森光さん。そのエネルギーの源となるのは、「農業以外の人との出会い、野菜以外のものとの出会いがとにかく楽しい」という気持ち。かぶを通して広がる「根菜人」の出会いの輪は、今後もますます広がっていくことだろう。

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朗らかにかぶへの愛を語る森光さん。この人柄が多様な出会いをもたらしてくれるのだろう

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