土地ごとの個性あふれる野菜を集めて

[出品者情報]

ひのさん
大分県玖珠町

[商品]

  • 農産物
  • 乾物(加工品)

土地ごとの個性あふれる野菜を集めて

長細く小ぶりで芳醇な香りの「網干メロン」、宝石のような筋が特徴の「ブラッシュタイガートマト」、一際目を引くのは黒く輝くトマト。スーパーではほとんど見かけない野菜や果物がたわわと実るのは、「ひのさん」こと日野克哉さんの畑だ。大分県玖珠郡九重町の山間部で、市場にほとんど出回ることのない珍しい品種の野菜や米など、年間で約100種を育てる。
作物はすべて、土や植物の生命力をできるかぎり引き出しながら育てる自然栽培。作物の合間には、ハーブやニラなど香りの強い植物を植えて虫を寄せつけないようにしたり、作物によってはハウスの力を借り、水分を減らして旨みをぐっと高める手助けをしたりすることもある。

「ひのさん」の畑のもうひとつの特徴は、すべて「固定種」作物であること。品種改良により発芽や生育が均一で、効率よく生産しやすいが一代限りの「F1種」に比べると、成長過程や味は不揃いだが自然栽培しやすく、種を代々受け継ぐことができる。「スーパーで見かけるのは、どこでも同じ形と味のトマト、ナス、きゅうり……。でもそれってほんの一部で、世界中には土地ごとに根ざすユニークな野菜が山のようにあるんです」と言う日野さんは、固定種の米7品種、ナス6品種、トマトだけでも10品種近くを育てる。
今回の「皿の上の九州」では、天日干しで育った米や旬の固定種野菜、その野菜を地元温泉の地熱を利用して仕上げたドライフルーツやベジタブルなどの加工品が登場する予定だ。日野さんが育てるのは、見た目だけでなく味わいも個性あふれるものばかり。作物が本来持っている力強さを味わい、その種を取っておいて小さなプランターで育ててみるのもまた一興かもしれない。

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できるだけ自然のままに作物を育てる日野さんの畑では、除草剤も使わない。必要に応じて刈り取った草も足元に寝かせて土に還す。手に持った小ぶりの「網干メロン」は、九州で栽培されるのは珍しい

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ハウスの中でもひときわ目を引く黒いトマトは、スパイスのような味がある。肉厚で甘みが強くサラダで食べたい

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晴れが続く日を狙い、黄金色の稲穂も稲刈りを待つばかり。自然の風と太陽の恵みをじっくりと受ける天日干し米は、リピーターも多い。白米のほか、赤米、緑米、黒米などの古代米も栽培する

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固定種野菜のドライ商品は、鉄輪温泉の地熱を利用して仕上げるこだわりぶり。フルーツは凝縮された旨みが口の中に広がる。野菜はスープに入れたり、水戻しして炒めものにするのもおすすめ

トマトの種を取って育てていた少年時代

日野さんが九重の地に戻ってきて農業を始めたのは8年前。大学卒業後、いったんは福岡市内でサービス業に従事したものの、農家だった父親の病気をきっかけに帰郷し、あとを継いだ。
幼い頃から野菜が身近にあった影響で、「おいしいトマトをかじったら種を取って育てていた」という日野さん。一方で「同じ野菜なのに、人参はかじっても種がないことが不思議だった」と、種への興味は物心ついた頃から。「自然と人間に優しい農業をしたい」と自然栽培に転向するとともに固定種に特化したのは、自然な流れでもあった。

固定種の特性は何よりも、採取した種を次世代につないでいけることにある。F1種=一代交配種はその名の通り、かけ合わせた両親の優れた形や質は一代限りで終わってしまうため毎年新しい種を買わなければならない。かつては固定種が当たり前だった農家も、大量生産・流通に不向きなため現在は激減。安定生産・供給に適したF1種が主流になった。日野さんはこの現状に、「その土地に根を張ってきた自然の野菜がなくなりつつある」と危機感を抱く。
そんな日野さんを二人三脚で支えるのが、妻の枝里さんだ。大手IT企業を経て農業の世界に転じ、現在は日野さんとともに種の大切さを伝える取り組みを行う。季節ごとに開催する農業イベントの参加者に、固定種とF1種の違いを知ってもらい種を残すことの意義を伝えたり、となり町の湯布院で枝里さんが営む宿では、日野さんの育てた固定種野菜を使った食事を提供したりと、その活動は幅広い。

「種には、育たない種(F1種)もある。育つ種(固定種)の存在を知ることは、自分で食べものを作れる、つまり自分の力で生きていけることに気付けるということ」と語る日野夫妻。畑に種を蒔いて自分で野菜を育てることより、どこかの農家が育てた野菜をスーパーで買うことのほうが当たり前になった現代。種までさかのぼって考えを巡らせてみることは、自分たちの生についてあらためて見直すきっかけを与えてくれるかもしれない。

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関東地方で古くから栽培されてきた「のらぼう菜」の固定種。日本各地はもとより、海外の固定種を取り寄せては、野谷の地に合うものを育てる

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採れた野菜は地元を中心に販売も。小さな車の荷台が店に早変わりする

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農業は日野さんメイン、その野菜を外に向けて発信するのは枝里さん。色々な意味でバランスのとれた二人だからこそ成り立つのが「ひのさん」だ

種からはじまる村の物語

温泉地としても名高く、日本一の地熱発電の集積地もある大分県の九重町。東は由布、南西は熊本県阿蘇郡に隣接し、九州の名峰・九重連山に囲まれる自然豊かな野矢(のや)と呼ばれる集落に、「ひのさん」の畑はある。
「固定種野菜を村の農産物にすることで、村がまるごと自給自足できるようにしたい」と、今後の集落に思いを馳せる日野夫妻。農業体験者の休憩所として開放している「種の家」では、多様な固定種を実際に見てもらいながら、農業や種に関する勉強会や、固定種野菜を使用した食事会なども実施。明治期に建てられたという隣の日本家屋は、地域内外のトライアル滞在施設として年内には改修が完了する予定だ。

1年前には、野矢の未来を考えるプロジェクト「Noya Village」を発足。40〜80代の地元農家を講師として迎え、大豆収穫と味噌・豆腐づくり、梅収穫と梅干しづくりなど、季節ごとの農業体験イベントを毎月開催中だ。「野矢の固定種野菜に触れてもらいながら、この地に住み続けてきた人々と新しい人との出会いも大切にしたい」という夫妻の思いが形になりつつある。
「魅力的な村になれば、住みたいと思う人が出てくる。そうしてこの村が活性化することで、美しいこの里山を残していければ」と日野夫妻。日本全国の里山の現状に向けた切実な思いにも通じる。終始二人の口からこぼれ落ちるように出てきた「種をつなぐことは、命をつなぐこと」という言葉のとおり、種がつないでいく野谷の物語は、まだ始まったばかりだ。

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柔らかな物腰で、農業のこと、種こと、野谷のことについて淡々と語る日野さん

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日野さんの「日」、お日さまの「日」を、“人間が残してきた”象形文字でかたどった「ひのさん」のロゴ。ずっと残ってきた「種」の意味も込めて

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