一流の料理人は、畑で育つ

[出品者情報]

ホテル日航福岡 糸島ファーム
福岡県糸島市

[商品]

  • 糸島ファームの野菜を使用したパン

総料理長念願の直営農園がスタート

ホテル日航福岡の総料理長として、グループ内のレストランと宴会を統括する中橋義幸さん。1989年の開業と同時に赴任し、以後、ホテル日航福岡の“味”を作ってきた名シェフだ。年に2回、レストラン「レ・セレブリテ」にて開催される創作フレンチフルコース「中橋義幸の食卓」は、常に予約で完売。一皿の完成度もさることながら、総料理長の気さくな人柄に惹かれてこの日を心待ちにしている人も多いとか。

そんな中橋総料理長が10年近い歳月をかけた準備の末、ようやく実現したのが、ホテル日航福岡の直営農園「糸島ファーム」。玄界灘と豊かな大地が広がる糸島に、2017年1月より2000㎡の農地を借り、近隣の農家に指導をいただきスタート。25品目以上に及ぶ野菜や果物類を、季節に合わせて多品種少量生産している。

取材に伺った時期は、猛暑が続いた8月の下旬。昨年より生産量が落ちたとはいえ、ゴーヤやパプリカ、オクラ、唐辛子などが元気に実をつけ、収穫を待っていた。一口食べさせてもらうと、みずみずしさが口の中に広がり、ジューシーな夏野菜らしい味わい。過酷な環境下にもかかわらず、すくすくと育つ野菜たちの力強さを感じた。

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畑に着くとすぐ、生育状況を確認する中橋さん。野菜は生のまま、もいで、口に含んで、自分の舌で確かめる。「これはすぐ収穫しよう」。決断も早い。

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委託される形で、ここでの毎日の畑仕事を請け負っている、柴田さん。ほがらかな笑顔に、日焼けした肌がよく似合う。

キッチンからは得られない体験

ホテルが直営の農地を持つ意味とはなんだろう。まず頭に浮かぶのは、新鮮な食材の調達や、食材の安定供給。自分たちで育てた“顔の見える”食材を使えることは、大きなメリットになるはず。しかし、「糸島ファーム」の狙いはそれだけではない。なにせ、ホテル日航福岡にあるレストランは中華、フレンチ、和食、鉄板焼など店の形態もさまざまで、バーやカフェを含めれば総席数は500席以上。毎日使う食材のすべてを賄うことなんて、とてもできない。中橋総料理長の狙いは、もっとずっと先にあった。

「ここは、単なる食材の調達所ではありません。むしろ、本物の料理人になるための学びの場として、この場所が必要だったんです」
その想いは、こうだ。曰く、料理人はキッチンにこもっていては、感性が磨かれない。土を触り、陽の光を浴び、その季節に吹く風を知る。そこで育つものの味を、知る。そうすれば、一皿に表現できる厚みが変わってくる。作り手と話をし、作物について謙虚に学び、大地の恵みであるその実を生かし切ることを考えれば、料理はもっと良くなる。中橋さんは言う。

「例えば、小さすぎて市場には出回らない人参を、この畑で早めに収穫して、そのままの姿でグラッセにするんです。お客様は、愛らしい人参がそのお皿に乗っている姿を見て『あぁ、春が来た』と感じ、口に入れてさらに春の味を楽しむ。そんな体験を提供できるのが、私たちが畑を持っていることの贅沢だと思うんです」
畑に通い、野菜が育っていく過程を熟知していれば、成長に合わせてもっとも旬な形で、お客様に料理を提供できる。それは、料理を作る人間にとっての醍醐味だ。

モノが溢れる時代に育った若いスタッフたち。彼らに葉っぱ一枚の大切さや成長の感動を伝えるには、この場所がなくてはならない。調理をしないサービススタッフだったとしても、自分で収穫を手伝った野菜なら、お客様にサーブする際の説明にも力が入る。「料理は畑から」と長年、中橋さんが伝えてきた通り、ここは料理に携わる人にとっての、教育の実践場でもあるのだ。

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看板のイラストは、中橋さんの手書き。現在でも、特別ディナーのメニューには、総料理長自ら水彩画でイラストを添えるという。これもセンス。

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おくらの花がパンジーのように可憐で美しいこと、知ってましたか? 畑に来ないと得られない経験が、料理人のみならず、ホテルで働く人の感性を刺激する。

食の豊かさを次世代に伝えるために

中橋総料理長は、奈良に生まれ、大阪で料理のいろはを学んだ後、福岡にやってきた。九州が持つ食の豊かさに、今でも驚くことが多いという。
「九州は食のアイランドだと思います。例えば海域を見ても、九州をぐるりと取り囲むあらゆる海で、季節に応じた魚介類が豊富に穫れる。料理人にとって、こんなにいい環境はないですよ。だからこそ、料理人は学ぶことがたくさんある」
取材当日も、午後からはホテル日航福岡の各レストランのシェフがこの農園を訪れる予定になっていた。野菜の状態を確認し、収穫作業を手伝うという。和洋中それぞれのシェフが、この畑で採れた野菜を元に、次の一皿を考えていく。このように、立ち上げから1年半にして「糸島ファーム」はレストラングループの中で確かな存在感を確立している。そして調理部だけでなく、ホテル日航福岡の社員全体の福利厚生としても利用され、自由に畑を訪れて収穫し、持ち帰ることもできるとか。さらに、お客様を招いて農園を開放するイベントも、開催予定。ここは、ホテル日航福岡と関わりを持つすべての人の畑なのだ。「必要以上の利益を追求しなくていい。持っていることで得られる、別の価値こそ大切なものです」

今も現役で腕を振るいつつ、後進の育成にも力を入れている中橋総料理長。最後に、これからの展望を聞いてみた。
「まだまだ荒削りですが、ようやくこの畑を持つことができて、いわば総合的な食育の道をひとつ、示すことができました。これを次の世代が引き継ぎ、発展させ、我々のホテルだけでなく、食の豊かさそのものを次世代に伝えていってほしいですね」
中橋さんは、厳しくも優しい眼差しで未来を見つめる。

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気さくで話しかけやすい雰囲気の総料理長。素材を選ぶ眼は真剣だが、笑顔も多い。「コック服を着てると偉そうに見えちゃいますけど、ホテルの外に出たらただのおじさんですから」。いつも謙虚さを忘れない。

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「皿の上の九州2018秋」では、収穫したばかりのピーナッツやさつまいもを展示予定。また、ホテル日航福岡内のレストラン「セリーナ」では朝食やランチビュッフェ、そしてその他の各レストランで糸島ファームから収穫した野菜や果物を味わうことができる。

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