【ゲスト紹介06】
福岡県糸島市で、4月13日(土)・14日(日)の2日間に渡り開催される”発酵”をテーマにした『発酵フェス糸島 Vol.01』。アナバナ編集部は主催の「発酵フェス実行委員会」のみなさまと共に、イベントの広報に参加しています。
フェスは、発酵職人・約40店舗が出店するマルシェ、実際に菌を使用して発酵食品を手作りする体験ワークショップ、トークイベント、映画上映もありと、発酵三昧の盛りだくさんな内容です。発酵食品を堪能しつつ、普段はなかなか聞けない専門的な”菌と発酵”に触れることができるんです。
中でもメインイベントの「発酵トークショー」は、10名もの発酵にまつわるプロフェッショナル達のお話が聞けるということもあって、一体どんな方々が登壇されるのでしょうか?
アナバナではゲストのみなさまへのインタビューを試み、どんな発酵の専門家なのか? どのような思いで活動されているのか? などをご紹介していきます。イベント前にチェックすると、当日の楽しみ方が広がりますよ!
今回は、13日(土)のトークショー(14時00分~15時30分)にご登壇される、金澤晋二郎さんのもとへお話を伺ってきました。
[登壇者のご紹介]
金澤晋二郎(カナザワ シンジロウ)さんは、元九州大学教授で株式会社 金澤バイオ研究所所長。「土の薬膳®」という発酵肥料を開発・研究・販売しておられます。
「土の薬膳®」の素材はすべて天然素材、90度以上の熱を発する特殊な超高熱細菌で発酵しているため、大腸菌や病原菌、回虫の卵や雑草種子がないクリーンで安全な完熟のオーガニック肥料として、一貫して人の手で製造されています。
「土をいかに健康にするのか?」これが環境の要(かなめ)
黄色のタンクには「味の素」の文字。昔は商品に必要とされるグルタミン酸を取り出したあとアスパラギン酸などたっぷり栄養が残っているにもかかわらず、活用されず廃棄されていたのです。それらは高濃度なので、浸透圧の関係で腐らないとのこと。
原料となる廃棄物には、栄養がたくさん!この段階では、ニオイがありますが、しっかり完全に発酵が済み、完熟すると無臭になるのだそうです。
アナバナ 肥料には臭いイメージがあったのですが?
金澤先生 嫌気性発酵だと臭くなるんだよね。炭酸ガスになる前が臭い。完全に発酵するとニオイはなくなるんだ。
いいかい?ニオイが残っているということは肥料として完成されていないということ。土にまいて水をふくんだとたん、ニオイが出る。これが発酵が未熟な証拠でね。こんな未熟な肥料を使うと土が弱くなり、逆効果なんだ。
アナバナ ダメじゃないですか。なんで、完成しないまま売られるんですか?
金澤先生 発酵が終わったふうに乾燥させるのが、簡単だからだよ。
水分が30%以下になると、腐敗菌が活動できないから臭気が発生しなくなるんだ。魚の干物と同じ原理だね。ニオイのある肥料はキチンと下処理をされないまま、乾かしただけで肥料にされてしまう。 大量の家畜糞尿がどんどんどんどん、溜まっていくから。
” Time is money “ってこと。 じゃあ、なんでそれでも植物が育つか、わかるかい?
アナバナ えっと…。
金澤先生 ヒント。病気になったら、どうしてる?
アナバナ 薬を飲んで、治してる…?
金澤先生 そう!農薬を使う。ただ良い菌も一緒に死んじゃうんだよ。で、栄養のバランスが崩れているから化学肥料を使う。でもさ、それだと本当においしいものは出来ないんだ。植物は自分の根っこのまわりに養分を出すんだ。それは、多種多様な酵素を持つ微生物を呼ぶためでね。微生物が栄養を吸収できる形に分解してくれるんだよ。 そしてそれを自分の中に吸収して人間の健康に必要な成分を持ったおいしい野菜になってくれるんだよ。
1グラムに地球の人口以上の微生物がいる。土の良し悪しは微生物の種類の質
アナバナ そもそも発酵肥料の研究を始められたきっかけは、なんだったんですか?
金澤先生 有機性廃棄物はもったいないし、かわいそうじゃない? 廃棄物の資源化を考えたとき農学部で土壌学分野の研究していたから、微生物の働きで地球全体を昔のように緑にあふれた姿に戻したいと思ったんだ。例えば、1グラムの土に50億から100億、日本の人口の50から100倍の微生物がいるからね。
もともと微生物は40億年前、海の底200度から300度の高温の中、ミネラル(金属も含む)たっぷりの中で生まれて環境に合わせて、すばやく遺伝子を組み換えて、自分を変化させていくんだ。放射能の中でも(宇宙の)成層圏の中でも生きられる種類がいるんだよ。
アナバナ そうなんですか!
金澤先生 大学農学部の研究って人類の食糧生産を確保することが命題。
知ってるかい? 食べたものの数%しか体に吸収されない。残りはほとんどが排泄物になるんだ。ヒトも、動物もね。当たり前だけど、そうなると食べたもののほとんどが糞尿として排泄されるわけだよね。
江戸から昭和30年代まで、こやし=糞と書いたんだよ。馬一頭飼っていれば、その糞尿で自分の畑の約1町歩分(1ha)の肥料になった。「あそこの野菜はおいしい」って評判にもなるし。戦後昭和40年以降、機械化で大きく変わったがね。弥生時代から江戸時代まで、特に鎖国時代の知恵はすごいよ! 日本には土壌や肥料発酵、農業に関する貴重な資料がたくさん残ってるんだ。
一本の電車が、運命を変えた
アナバナ 農学部に進んだのは?昔から興味があったんですか?
金澤先生 いや、たまたま。本当は文系だったんだよ。物理も科学もやってなくて数算もやってなくて。東大3年の集中講義のとき、「いま世間は浮かれてる。今から半年、本気で頑張ればトップ取れるぞ」と聞いて真剣に勉強したんだ。そしたら、おもしろくなって。北海道出身だし、地元・北海道大学の獣医学部の大学院に進もうと思ってたんだ。で、実家が小樽なんだけど、受験の日、電車が遅れて試験が受けられなかったんだ。
アナバナ えーーー!
金澤先生 どうしたもんかと思ってたら東大の友達が心配して「東大大学院受けろよ」って下宿まで準備してくれて。勉強してた甲斐があって結構いい成績で受かったんだよ。そのころ、旧・帝大(東大、京大など)はドクターまで行くと官庁に無試験で入れたから「将来はキャリアかな」と。実際「農水省に」なんて声もいただいたしね。
アナバナ でも、研究の道に残られた?
金澤先生 修士課程終わったとき大学に残れと言われて。東大に残ったけど、のんびりした性格だったからメインからはずれて世渡りベタで。まわりが心配してくれてね。
アナバナ そのあと鹿児島大学で教授に?
金澤先生 鹿児島大から2年後に教授で来てくれと要請があって、行きますと答えて。そのあと実家に近い北陸の大学からも声がかかったけれど、先に返事をした義理があるので鹿児島に行くことにしたんだ。
アナバナ 北海道から東京経由で九州・鹿児島へ。どうでしたか?
金澤先生 九州の人はみんな面白いね。自分も高校・大学・大学院と、いろいろ遊んでいろいろ経験しているので話が合った。そのうち鹿児島大総長のブレーンから「鹿児島の7大学・短大の教員1000人を世の中のために使いたい。何かアイディア出してくれ」と持ちかけられた。おもしろい、のった!と、企画書にして出したんだ。驚いたことに、そのアイディアをもとに鹿児島県全体が動いた。旗振り役が入ると一丸となる。明治維新はこんな風だったのかと感動したよ。
アナバナ まさに明治維新の鹿児島を体感なさったんですね!
金澤先生 「鹿児島から環境革命」だよ。苦労し甲斐があった、研究を続けてきて良かったと思ったねぇ。県・各教育機関・農業の現場が一体となり、農業改革を推し進めた。今でもその時の企画書が残されているんだよ。
過去、現在、未来、そして宇宙へ
アナバナ 先生は今どんな研究をしてらっしゃるんですか?
金澤先生 土をいかに健康にするか。そして、おいしくて健康なものを提供したいね。良い土には、1グラムの土に日本人の100倍=100億も微生物がいるんだ。ミネラルを蓄える土がいい。有機物が必要。化学肥料じゃダメなんだ。農薬も化学肥料も発がん性物質。人間にとっては毒。体内で分解されず溜まっていく。
アナバナ 困りますね
金澤先生 土の富栄養化が問題でね。栄養があると、病原菌は栄養が好きだから、土壌を病原菌に侵されてしまう。それに、農薬が効かない病気も発生しているでしょ?佐賀県の玉ねぎのベト病とか。病原菌が自らら遺伝子の組み換えを行い、農薬が効かなくなるんだ。いろいろ相談受けるんだよ。
今まで捨てていたものも、きちんとした製造工程を踏むと宝物になるんだ。
最近、福岡のマヌコーヒーさんとコーヒーかすのを再利用したバイオ肥料「マヌア」を協働開発したんだ。 「今どきの若いもんは・・・」なんて言うけどね、スタッフが月に2回ほど市内の全店舗からコーヒーかすを集めて糸島の工場まで運んで来るんだ。製造現場もみんなで手伝ってくれてね。こういう活動がもっと増えるといいよね。
コーヒーかすはそのまま土に入れると害があるんだけど、しっかり発酵することで土にとっても植物にもいいものになるんだ。これでコーヒーの木を育てよう、なんて計画も出始めてるんだ。
> 大量の湯気が迫力! 高温発酵中の製造風景はコチラ
病原菌を食べてくれる「天敵の微生物」を増殖するシステム
微生物同士で自然界で駆逐するシステムをつくりたい
金澤先生 実は江戸時代の日本、鎖国時代に、そんな「天敵の微生物」を増殖する施策があったんだよ。農業先進国日本として、昔の知恵を伝えていくのはもちろん、さらに、現代・未来の課題を解決するものを作っていかないとね。
アナバナ 現代・未来の課題、具体的には、どんなことがありますか?
金澤先生 有機栽培やオーガニック扱うところが増えたよね。意識が高い人が増えてるのは、いいこと。ただ、堆積期間が短く未熟な有機肥料を使うと回虫が発生するんだよ。回虫は土の中で3年は生きるんだ。特に、食にこだわる富裕層が危ない。回虫をお腹に飼っている人が多いんだ。
アナバナ あ!昭和時代に途絶えた「回虫病」がまた発生ってニュースで聞きました。
金澤先生 そうそう。ここ数十年、発生してなかったから、回虫症を治療できる医師がいない。いま、大学では、回虫研究が緊急課題なんだ。 しっかり完全に発酵した肥料を使って健康な土を作り、本当に安心・安全で健康なものを食べられる社会にしたいね。
アナバナ 「健康な土づくり」ですね。どこで、そんな健康な野菜は買えるんですか?
金澤先生 農地を持って自給するのがいいよ。年金が減る未来にも対応できるし、安心安全な食料確保は必須。世界を見渡しても、第二次世界対戦敗戦国ドイツはじめ、終戦後のヨーロッパ各国も郊外に農地を配布して自給率アップしている。日本人も、考えないと。
土は、要(かなめ)
金澤先生 地球全体を考えても、炭素の循環がスムーズに行くように土壌による有機物の分解を進めるには、土が最も大切なんだ。
アナバナ 地球と、炭素?
金澤先生 地球温暖化だよ。化石燃料(過去の炭素化合物:石炭・石油))を使うことによって、空中に炭酸ガスが増えてすごい勢いで古代の地球の炭酸ガス濃度に戻っている。このまま放っておくと、7年で人類が住めなくなる。
地中に炭素をどうやって戻すか。これも研究課題。それも、緊急のね。世界各地で大規模な実験がなされているんだよ。
宇宙へ 金澤バイオ研究所のバイオ技術は、JAXA の基本技術に生かされている。
金澤先生 微生物は、40億年前、海の底200℃~300℃の高温の中で生まれて、環境に対応させながら生きてきた。微生物は、放射能のなかで生きる種類もいるし、空気のない宇宙で生きる種類だって、いるんだ。
アナバナ 宇宙ですか!
金澤先生 僕のバイオ技術は、JAXA の基本技術に使われてるんだ。火星で美味しい農作物をつくるプロジェクトが進んでいるよ。
アナバナ わくわくしますね!
金澤先生のもとには、たくさんの方から、相談や依頼が入ります。この日の取材も、実は病院の院長先生とのダブルブッキングでしたが先約のわたしたちを優先してくださいました。 ありがとうございます。この義理堅さ、温かさ、そして微生物から人類、地球環境へのあふれる思い。すっかりファンになりました。
多くの方から頼りにされる先生。移転完了したばかりの九州大学伊都キャンパス、桜植樹計画にも、知恵と技術を伝授なさったとのこと。数年後の春が楽しみです。
『発酵フェス糸島 Vol.01』の概要
- 期間:2019年4月13日(土)〜14日(日)2日間
- 時間:10:00〜16:00
- 場所:深江海水浴場の海の家 SAIKAI
〒819-1601 福岡県糸島市二丈深江2129-12(MAP)
※13日(土)のトークショー(14時00分~15時30分)にご登壇頂きます。
- 主催:発酵フェス実行委員会
※各種イベント詳細につきましては、facebookをチェックしてください!
■内容
- マルシェ:40店鋪(予定)
- 体験ブース:8種の発酵体験ワークショップ|味噌、醤油、稲魂(=緑麹)から作る種麹、ベジキムチ、魚醤、みりん、草木染め2種
- トークイベント:登壇者10名、2日間全3回にわたるトークセッション
- 映画上映:「千年の一滴 だし しょうゆ」①10:00~ ②12:00~ ③14:00~ (100分)
(両日3回公開予定)
※本イベントは終了いたしました。