【ゲスト紹介04】
福岡県糸島市で、4月13日(土)・14日(日)の2日間に渡り開催される”発酵”をテーマにした『発酵フェス糸島 Vol.01』。アナバナ編集部は主催の「発酵フェス実行委員会」のみなさまと共に、イベントの広報に参加しています。
フェスは、発酵職人・約40店舗が出店するマルシェ、実際に菌を使用して発酵食品を手作りする体験ワークショップ、トークイベント、映画上映もありと、発酵三昧の盛りだくさんな内容です。発酵食品を堪能しつつ、普段はなかなか聞けない専門的な”菌と発酵”に触れることができるんです。
中でもメインイベントの「発酵トークショー」は、10名もの発酵にまつわるプロフェッショナル達のお話が聞けるということもあって、一体どんな方々が登壇されるのでしょうか?
アナバナではゲストのみなさまへのインタビューを試み、どんな発酵の専門家なのか? どのような思いで活動されているのか? などをご紹介していきます。イベント前にチェックすると、当日の楽しみ方が広がりますよ!
醤油といえば、日本の食卓に登場する発酵食品の代表選手です。
今回は、13日(土)には「醤油造りワークショップ」の講師を、そして14日(日)にはトークセッションにご登壇いただくカネヨシ醤油四代目、奥田桂三さんを、創業から100年続く醸造元に訪ね、醤油造りの現場を見学させていただきながら、つくり手の想い、そして将来への展望をたっぷりうかがってきました!
[登壇者のご紹介]
奥田桂三さんはカネヨシ醤油醸造元、四代目。1986年福岡で生まれ、大学では観光産業を専攻され地域活性化やグリーンツーリズムについて学びます。途中大学を休学し、オーストラリアでバックパッカーを経験。心理学・哲学・芸術などに感心を持ち、卒業後は沖縄ヤンバルの自然で暮らします。そこで、食や命の大切さを再確認し、福岡に戻り自然農の畑や米づくりを学び実践。働きの質の向上を考え再度大学に入りバイオ ・発酵・醸造などを専門的に勉強し、卒業後に家業の醤油屋を継ぎ四代目に。今までよりも美味しく、そして身体にも環境にも良い醤油造りを目指し、日々精進しています。目標は、なんと醤油屋を活かして世界平和!
桂三さんこだわりの醤油はこちらからも購入できます!
> カネヨシ醤油製造元ホームページ
> カネヨシ醤油製造元オンラインセレクトショップ
四代目への道と志
アナバナ すぐに家業を継がずに30代になってから家業の醤油屋を継ぐ決心をした、きっかけは何だったのでしょうか?
桂三さん 大学2年生くらいの頃から人生について色々考えるようになって、旅に出たりして生きる意味のようなものがやっと見つかったんです。 その表現方法を探しながら勉強したり沖縄に移住したり、自然農やったり、いろいろやってみたんですね。それで、結局醤油屋が自分に合っていると気づいたんです。3.11の後に発酵食品が見直されたことも大きくて、醤油ってとても大切だし、今の時代だからこそやりがいがあるな、と思ったんです。
桂三さんが、醤油屋を継ぐ決意をしたのが6年前、本格的に家業に専念できるようになったのはつい2年前。自分の表現方法をじっくりと模索し、もがくなかで、行き着いたのは原点である “醤油” でした。
その静かな語り口の中にのぞく意志の硬さには、職人気質の雰囲気が漂います。3代目である彼のお父さんの先代はとても厳しく、「醤油屋を継ぐのは当たり前」と、育てられました。だからこそ、桂三さんのお父さんは、「継ぐのは自由意志」と尊重してくれました。「押し付けられていたら継がなかったと思います」 自分の意思で醤油屋を継ぐことを決心した桂三さんだからこそ、ものづくりにも妥協がありません。
●カネヨシ醤油醸造元
稲作にまつわる地名が多く残り、炭鉱の街として戦後の日本を支えた筑豊の地(現、飯塚市)で百年もの時、絶え間なく麹から醤油を醸造してきた醸造元。命を懸け発酵する微生物たちと共に、炭鉱(ヤマ)で命を懸け働く人々と共に、代々続く伝統と精神を受け継いできた老舗です。
美味しいお醤油ができるまでの作業工程のお話と製造風景
今回の取材日はタイミングよく、製麹(せいきく)の工程の三日目を見学させていただけました。
温度や湿度がしっかりと管理されたカビ付けの機械の中で仕込み作業をする桂三さん。職人としてはまだキャリアが長いとは言えませんが、さすが小さいときから麹造りの現場を手伝ってきたからこそ、勘どころはいいのでしょう。仕込み中の麹を平らに均す作業や、カビ付けにも目を光らせ、スタッフにテキパキと指示、醤油造りが2年目とは思えない、こだわりを見せます。力仕事と繊細な目配せが必要な発酵食品の現場は、緊張感と一体感で活気に溢れていました。
【一日目】
朝〜昼:大豆洗い → 浸透
夜:大豆を蒸す
【二日目】
朝〜昼:盛込み
蒸した大豆と予め炒って砕いていた小麦と種麹を混ぜ合わせ種付けする
そして、見学をさせていただいた【三日目】には、朝と夕方に二回の手入れをします。
桂三さん 温度管理はかなり緻密で、麹の温度は35℃前後になります。その後ヒーターで室の中を加温したりしますが、じわじわ28℃くらいにまで下がり、朝方に麹が発熱して温度が上がってきます。“麹が焼ける”と言って、40℃を越えたら麹菌は自滅してしまうといわれていますので、風で冷まして33℃前後になるように保っています。
13時ごろ一番手入れをしたら、その後は30℃前後で管理します。もう麹菌が発熱しっぱなしの状態ですね。そして、16時ごろの手入れの後は26℃前後で管理しています。
甘酒用の米麹と比べて低温に保つのは、低い温度で製麹することでプロテアーゼなどのタンパク質を分解する酵素が多く生産されるためです。ちなみに温度を上げて製麹するとアミラーゼなどの炭水化物を分解して糖にする酵素が多く生産されます。
この微妙なさじ加減は、発酵と共に生きてきた職人ならではのなせる技ですね!とはいえ、発酵の最中は夜も眠れないとのこと。
「自宅と作業場が近いので、音や匂いで様子が変化するとわかるんですよ」
いくら機械化が進んでも、発酵というのは文字どおり生きている「菌」が醸すもの。進む発酵過程に待ったはありません。素人からすると生きている菌がどんどん発酵していくプロセスを管理することはとても難しそうに思えます…。もし失敗したらどうするのでしょう? との疑問には…。
「今まで一度も失敗したことがないんです」との返答。長年のカンで察知する職人のセンサーを持っているのでしょう、さすがです!
【四日目】
朝には、麹菌の胞子が飛びまわり、室内は黄色〜黄緑色になり幻想的だそうです。
出来上がった醤油用麹を塩水に払い込み、片付け作業。
この流れで、醤油用麹づくりがひと段落します。
アナバナ 緊張と熱気に包まれた製造工程を一通り見せていただき、とても感動しました。桂三さんにとっての発酵とは何でしょう?
桂三さん よく「人間にとって有益な微生物の働き」と言われますよね。しかし人間の求めるものも変化しますし、発酵は人類にとってまだまだとてつもない未知の世界です。
我々の住む世界と次元が違いますから、“発酵は宇宙”とでも言いましょうか。でも、地球の外、宇宙旅行にも行く時代ですから、新たな発酵の世界が開かれてもおかしくないのかもしれませんね。地球上での自然の偉大さを理解した上で、遺伝子組換の可能性の大きさやAIの進化からも、人類にも地球にも有益な発酵の世界は、これからさらに花開いていくと、楽しみにしています。
目に見えない微生物の世界と、壮大な宇宙を感じ取っている桂三さん。
確かに発酵とは未知との遭遇です。現に今でも微生物は多くの謎を秘めており、医学や科学の分野に大きな発展をもたらしています。発酵を生業としている桂三さんのものづくりの根底にある深い発酵に対しての敬意や想いを聞いていると、私たちがほとんど毎日、口にしている発酵食品である “醤油” が、生きているものに感じるようになりました。ここに到るまで、何万、何億という菌が時間をかけて発酵していったのです。なんだかロマンを感じるお話ですね。
伝統的な本物の醤油を造りながらも、進化していく
アナバナ 24時間体制で見守るということは、本当に大変な作業だと思ってしまうのですが?
桂三さん うーん。自分的には今の時代さほど大事だとも思ってません。
ウチの祖父の時代なんかは室の上の方にある小窓と入口のドアの開け具合だけで室の中の温度を調節していたそうで、それはそれは大変だったと思います。私も本当に日中は眠いですし体も壊しそうになるしで、これを後々人に任せることになったとして、正直させたいとは思いません。
今の時代、洗濯板で洗濯する人がいないように、室の温度管理や麹の温度管理は、人が小まめに見回らなくても、もう少し安定するものにしたいですし、品質を上げるためにもなんらかの対策は必要だと思っています。木の麹蓋にして、室温はヒーターと自動の換気のシステムを入れておくとか、簡単な仕掛けでもいいんです。
自分はテクノロジーを悪だと思っていないので、きっと進化して、もっと美味しくて環境にも良く、働く人も楽しく働けるように出来ると思っています。
だから全部手でやってればいいとも思わないですし、寝ずにやっているから凄いとかも思いません。だけれど、微生物を扱っていて手作りの良さもありますし、木などの自然素材も上手く使えれば良いだろうな、とも思うんですよね。不思議と心が落ち着くんですよね、自然のものって。ただ、自分の代はいいけど、次の代になったときに安定して良いものが作れるのかな?なんてことは考えたりしますね。
四代目という立場で、伝統を引き継ぎつつも、苦労が美徳ではない時代にシフトしていく新しい時代を担う桂三さんの真摯な姿勢がとても誠実に感じました。そして、代々受け継ぐ伝統や既存のお客さまを大切にしながら、桂三さんのものづくりを尊重し、応援する彼のお父さんの後押しが、現場をとてもあたたかいものにしていました。この土壌があってこそ、古き良き伝統と次世代の融合が可能になっているのでしょうね。
アナバナ 醤油造りに取り組む事で、桂三さんが大切にしている事はなんですか?
桂三さん 人の健康にはとても興味があります。人が元気で健康になるものを造りたいという信念は変わりません。もちろん自然あっての人間ですから自然もとても大事。汚してはいけないし、できるだけ不自然なものは使いたくないと思っています。
そして、本当に美味しいものを造ること。
うわべだけの旨味だとか そんなのではなくて、素材の味だとか、変に濃縮したりしてないものって心がホッとします。
化学物質で麻痺してると味や香りがあっても認知できないんです。ただ、しっかり不自然なものへの代償は身体に蓄積されてたりするんですよね。なんて不自然で、効率の悪いことでしょう。醤油造りは思ったよりも複雑ですが、人々の食はもっとシンプルな方向に寄せていくべきだと思っています。
スピード重視、効率重視の世の中で、日本の誇る発酵食品の代表作である “醤油” も、その波に飲まれそうになっているのは間違いありません。こんな世の中だからこそ、桂三さんの自然への敬意を醤油造りの核とする姿勢が際立ってきます。そして、人の健康をつくる食は、もっとシンプルな方向を守り抜いて欲しいものです。水や塩や穀物などの命を菌で醸す醤油というのは、原料も製法も自然の恵みによって形作られるシンプルなもの。人の都合で量を増やしたり、都合よく味を変化させることは、健やかな体づくりに反しているのかもしれません。
桂三さん それと、働く人が心から幸せになってほしいということですかね。うちは今は ほぼ家族でやっていますが、家族や自分も含め、今後人が増えても、その人の人生の貴重な時間を使うわけですから、絶対に後悔しないように。自立した気持ちで協力しながら、なにか人の役に立つ働きができるような会社であれば、と思っています。
古きものと新しきものがぶつかり合うことはよくある話。進化を遂げるには、そのハードルが大きいこともよくあります。カネヨシさんの現場は、昔からの伝統を受け継ぐ現場の方々と、若い感性を持つ次世代が、うまくミックスされ、お互いを尊重していました。
商品の中でも数種類のラインナップは安定しているそうですが、お客様の意識は少しずつ変化してきているとのこと。やはり、食の安全が重要視されはじめた事も大きく影響していて、無添加のものを求める声が増えてきているそうです。その声を受けて今年の春にお披露目予定の無添加に特化した新商品シリーズの開発や、PRにもチカラを入れています。
『発酵フェス糸島 Vol.01』の概要
- 期間:2019年4月13日(土)〜14日(日)2日間
- 時間:10:00〜16:00
- 場所:深江海水浴場の海の家 SAIKAI
〒819-1601 福岡県糸島市二丈深江2129-12(MAP)
※奥田桂三さんが講師をしてくださる「醤油造りワークショップ」は13日(土)、14日(日)にはトークセッションに登壇頂きます。
- 主催:発酵フェス実行委員会
※各種イベント詳細につきましては、facebookをチェックしてください!
■内容
- マルシェ:40店鋪(予定)
- 体験ブース:8種の発酵体験ワークショップ|味噌、醤油、稲魂(=緑麹)から作る種麹、ベジキムチ、魚醤、みりん、草木染め2種
- トークイベント:登壇者10名、2日間全3回にわたるトークセッション
- 映画上映:「千年の一滴 だし しょうゆ」①10:00~ ②12:00~ ③14:00~ (100分)
(両日3回公開予定)
※本イベントは終了いたしました。