発酵フェス糸島Vol.01【4月開催】

『グラデーション』という言葉でつながる、ヒトが命の循環に関わるための排水浄化システムと、子供たちひとりひとりがのびのび学べるフリースクールのお話。

【ゲスト紹介05】
福岡県糸島市で、4月13日(土)・14日(日)の2日間に渡り開催される”発酵”をテーマにした『発酵フェス糸島 Vol.01』。アナバナ編集部は主催の「発酵フェス実行委員会」のみなさまと共に、イベントの広報に参加しています。
フェスは、発酵職人・約40店舗が出店するマルシェ、実際に菌を使用して発酵食品を手作りする体験ワークショップ、トークイベント、映画上映もありと、発酵三昧の盛りだくさんな内容です。発酵食品を堪能しつつ、普段はなかなか聞けない専門的な”菌と発酵”に触れることができるんです。
中でもメインイベントの「発酵トークショー」は、10名もの発酵にまつわるプロフェッショナル達のお話が聞けるということもあって、一体どんな方々が登壇されるのでしょうか?
アナバナではゲストのみなさまへのインタビューを試み、どんな発酵の専門家なのか? どのような思いで活動されているのか? などをご紹介していきます。イベント前にチェックすると、当日の楽しみ方が広がりますよ!

今回は、13日(土)の対談形式のトークショー(10時30分~12時00分)にご登壇のお二人、
エコロジーコロンブス福岡代表の冨安貢弘さんと、NPO法人産の森(さんのもり)学舎理事長兼小学部校長の大松康さんにそれぞれお話をお伺いしました。

まずは、エコロジーコロンブス福岡代表の冨安さんのご紹介です。

[登壇者のご紹介]
エコロジーコロンブスの代表である冨安貢弘さんは1965年生まれの福岡県出身。
自宅から出る排せつ物や雑排水を、電力・薬品を必要とせず資源として分解し大地に還す排水浄化循環装置『エコロンシステム』を開発し、現在日本全国に約280基を設置されています。

 

微生物のチカラで排水を浄化させる循環装置、『エコロンシステム』を全国へ

冨安さんは、『エコロンシステム』という家庭向けの排水浄化循環装置を研究・開発、全国に設置されています。
電力や薬品を一切必要とせず、微生物のチカラで排泄物を資源として分解して大地に還す、原理としては昔の肥溜めと同じの、まったく自然なエコシステム。一般的な合併浄化槽を使う家庭では、年間の使用電力の約15%が浄化槽のためだけに使われているそうです。加えて、排水を消毒するための薬品代など毎年メンテナンスの費用が7〜8万円かかります。そういったランニングコストがゼロの画期的な循環装置がエコロンシステムなんです!

※画像引用:エコロジーコロンブス福岡の公式サイトより
▲ エコロンシステムの仕組みと構造については、こちらに詳しく解説されていますので、ぜひご覧ください

冨安さんがエコロンシステムを実際に導入している三瀬の素敵なカフェに連れて行ってくださいました。7年前に設置後、実際ランニングコストは全くかかっていないとのこと。

▲ この地面の下に浄化装置が設置されています。生活排水は通常1人1日200ℓと計算して、装置本体の大きさは幅1.3~1.4mで1人あたり2m。こちらは、母屋とカフェ両方の生活排水を処理できる大きさのもので、約18メートルほどの装置だそうです。

エコロンシステムの浄化装置では、窒素やリン成分を含む処理水は、毛細管現象で土に吸収されますので、この浄化装置のすぐ上や周りの土は既に栄養たっぷりの土壌。野菜などがよく育つそうです!肥料不要で、ずっと肥沃な土壌であり続けるなんて、うらやましいですね!

▲ こちらは清掃口の中の様子です。鼻を近づけて臭いを嗅いでみましたが、全然臭くありません!日常的に土壌による脱臭作用があるためとのことです。

そして、この浄化装置を通った処理水がどのようになっているか、見せてくださいました。

綺麗に透き通った水です。

なんと冨安さんはその水をゴクリ!それを見た好奇心旺盛な我々取材班の一人も負けじと飲みましたが、全く普通の水だったそうです。万が一の災害の時もこの水が使えますね!

▲ 身体を張って冨安さんが飲んでくださいました…!

アナバナ このシステムを使ったトイレがどうなっているだろうと思っていたのですが、一般的な水洗トイレで使用感はまったく変わらないのでびっくりしました。

冨安さん やっぱりみんなが使いたいものでないと普及しないと思うんです。発展途上国の人に、いくら環境にいいからといって使用感が良くないものを勧めても、彼らは今持っているものよりもっと快適で便利なものを使いたいわけですから、その恩恵をすでに受けている我々が環境にいいから!と、彼らに押し付けることはできません。

▲ 名前は非公開の三瀬のカフェで。排水にエコロンシステムを取り入れたこのカフェは、自然の中にたたずむ素敵なお店。気持ちの良い空間でお話を聞くことができました。

冨安さん 実はエコロンシステムの第一の目的は、水をきれいにすることではありません。5億年前の大地は、岩石ばかりで土は無く生物は皆無でした。紫外線が強すぎて、生物が住める環境ではなかったのです。そのうちにオゾン層が形成され植物が、はじめて海から這い上がってきて、砕けた岩をつなぎとめ最初の土を作りました。その土をもとに他の植物や動物が進出、生死を繰り返して土の層を重ね現在の環境を創りあげたのです。 土があるからこそ我々はこの大地で生きられるんです。土がなければ真水を溜めておくこともできません。
私は、土造りに参加することが大地で生きる全ての生物の共通のルールであり最も重要なことだと思っています。排出物の処理過程が自然の摂理に合致していれば、結果として水がきれいになると考えているんです。

アナバナ 冨安さんは、どのようにしてその考えに行きついたのですか?

冨安さん 昔から、いろいろなことに疑問を持つ子どもでした。ある時ふと疑問に思って大人に聞いたんです。
「かわいがりなさいと言っている動物を殺して食べているけど、いいの?」
って。そうすると、命をいただいてるのだからその命に感謝しなさいと言われました。でも、さらに疑問が湧きました。ライオンは別に感謝して他の動物を食べていないよな、と。そして、『循環』に気づいたんです。ライオンは自然の循環の中に入っているから、他の命をもらって生きることは自然なことなんだ。では、自分はいったい循環システムのどこに位置してるんだろう? と。だれに食べられることもなく、死んだら灰になって墓に入れられる。排せつ物は処理場や浄化槽で無駄なものとして処理されている。自分を含めた現代人は、まったく『循環』にかかわっていないことに気がついたんです。

アナバナ 世界的に環境問題が拡がっている今、自分の食や生活をする上で必要な物選びを見つめ直す人は増えていると思います。でも、現代人である自分自身が命の循環に役立っていないとは、考えてもいませんでした。

冨安さん 『循環』をつきつめていくと、最終的に私たちが排出するもの(排せつ物・雑排水)にたどりつきます。一般的な浄化槽では、薬品を入れ、リンや窒素が含まれた処理水を海に流します。
本来は土に還すのが正しい順番です。土に還さないということは自然の循環システムから外れています。外れているということは、私たちが命をいただいた植物や動物も自然の循環システムから外れてしまっているということです。
私たちには、人間までの食物連鎖に含まれる植物や動物の循環まで責任があります。環境問題やエコを考えるのであれば、そこまで考える必要があります。地球の人口70億人のうち、われわれ含めて、現在、『循環』に参加してない人口は約25億人。その人口はどんどん増えていきます。この自然界の根本ルールが守られない未来、果たして人類は生き残ることができるでしょうか?

アナバナ 冨安さんは、発酵、そして微生物の働きについてはどのように考えていますか?

冨安さん 当たり前のこと、自然なことだと考えています。私にとって発酵は暮らしの中でも仕事でも活用させてもらっているものです。発酵も循環の過程のひとつです。だからこそ発酵に関わった生物達から恩恵だけを受け取るのではなく、しっかり循環の輪を完成させることでその働きに答えたいと思ってます。
この星(地球)自体が微生物の星ですよね、人間の数より圧倒的に微生物の数の方が多い。微生物は目に見えないけれども、身近で偉大な存在です。
環境問題を考えるとき、その優先順位についてだけでも、いろんな考え方があって、それは毎日ころころ変わるほど、不安定なものです。今日までこれが正しいと考えられていたことが、明日にはひっくり返ることがよくあります。
だから、自分は絶対に揺らがない、根本のことをやろうと思いました。でも、だからといって、自分の今の考えに固執してはいません。誰かがもっといいやり方を教えてくれて、それがいいと思ったら受け入れて、その技術の開発に取り組みます。

冨安さんのお話からは、「循環」「海=土はつながっていること」「根本的な大地のルール」というキーワードが見えてきました。誰がどう考えても揺るがない、人間にとっての自然の循環システムの最後のプロセスとなる排泄、排水について、それをつきつめて考えてたどり着いたエコロンシステム。冨安さんのお話から、私たちの誰もに共通する、人としての根本的なテーマを感じました。トイレとは突き詰めると、とても奥が深いものなのだと考えさせられますね。


 

続いて、冨安さんのお話し相手、エコロンシステムをご家庭に設置されているNPO法人産の森学舎理事長で小学部校長の大松康さんをご紹介します。

 

[登壇者のご紹介]
大松康さんは、糸島市二丈にあるフリースクール《NPO法人産の森学舎》代表をされています。
2015年に開校し、海あり山あり川ありの自然豊かな里山で、異年齢混合クラスでの授業や昼食の自炊など「くらし」と「あそび」と「学び」をつなぐユニークなプログラムを展開されています。 

エコロンシステム導入のきっかけとは

産の森学舎は、2015年4月に設立された、糸島市二丈福井にあるフリースクールです。フリースクールとは、学校教育法の定める『学校』に通っていない児童(学生)が利用する民間の機関や施設を総称する言葉で、規模や設立趣旨、活動内容など実にさまざまなスタイルのフリースクールがあります。産の森学舎は、二組のご夫妻(一組が大松さんと奥様)が、ご自身の子育てを通して感じた、「子どもたちや社会が多様であるように学ぶ場も多様であってほしい」、「子どもたちが自分らしくあること、自分のチカラを発揮することへの情熱を持ち続けられる場であってほしい」との思いを真剣に考えて形にした、ちいさな学校です。

▲ 古民家を改築した学舎の内部は、昔では当たり前だった立派な梁や天井の構造がわかる造り。ここで子供達ひとりひとりが伸び伸びと、勉強だけではなくいろんなことを学んでいます。教室の一角には台所もあり、お昼ご飯は朝届く取れたての無農薬野菜を使い、ご飯、おかず、味噌汁を子供達だけで作ります。

アナバナ 今回、エコロンシステムを設置されているということで冨安さんとの対談をお願いすることになったのですが、大松さんが産の森学舎を立ち上げることになった経緯、そして産の森学舎の活動内容や大松さんにとっての「発酵」も気になるところです。元は会社勤めで都会暮らしをされてたという大松さんが、なぜ現在の生活にシフトされていったのでしょうか?

大松さん もともと福岡市東区の出身で、高校まで福岡で過ごし、東京の大学に進学し、卒業後も東京で就職しました。結婚してすぐに産まれた長女がアトピーで、最初は皮膚科に通っていたのですが、それが彼女に全く合わず、そのうち自分たちでアレルギーについて勉強していくうちに、土に触れる生き方・子育てをしたい!という思いがどんどん強くなりました。勤めていた監査法人を辞めて、2008年3月に糸島に家族で移住してきました。食や農への関心は、森や水、環境問題などにも自然とつながっていきました。

アナバナ 環境問題に対する意識が、エコロンシステムを設置することにつながっていったのでしょうか?エコロンシステムを選んだ理由は、何だったのでしょう?

大松さん 今住んでいる集落は下水道が通っておらず、うちは汲み取りのトイレのみでした。私たち家族はお風呂で石鹸やシャンプーを使っていないのでお風呂の水は流しても問題ないのですが、生活排水の件についてはずっと頭にひっかかっていました。また、以前のトイレは家(母屋)の外にあったので、子どもたちからは家のなかにトイレがあるのが夢、と言われていまして、2015年にリフォームした時に、エコロンシステムを裏庭に埋設し、夢の水洗トイレにしました。
食育関係のイベントで冨安さんと知り合った時、エコロンシステムの話をうかがったのを覚えていたんです。トイレの使用感は、全く普通の水洗トイレと変わりません。排水が出ない、集落の水を汚さないということで決断しましたが、正解でした。私たち5人家族分の生活排水を無理なく処理するサイズです。現在中学の校舎を建てる計画を考えていまして、そこの新しいトイレはエコロンシステムにつなぐ予定です。

▲ 産王宮の小さなお堂が祀られている山を背にしていることから名付けられた、「産の森学舎」。学舎は大松家の母屋に隣接しています。

アナバナ 産の森学舎を立ち上げることになった経緯を教えてください。

大松さん 糸島に移住してきた当初は、糸島の二丈松国の「松尾ほのぼの農園」で研修しました。自然農で独立して野菜や米作りをしながら、お餅を杵でついて販売し始めました。今でも年末年始は杵つき餅屋をしています。
今の集落に引っ越した時は長女が3才で、その後すぐに長男が生まれました。この頃、同年代の親仲間と、どういう保育園に行かせたいか?とか、どういう風に子どもたちを育てたいか?を話し始めました。そこから、同じ思いを共有する親仲間が集まり、保育所立ち上げの活動を始めたんです。長女には間に合いませんでしたが、とてもいい活動をされている佐賀の保育園を見つけて、長女はそこに通いました。そして2011年、妻と仲間が「みつばちおうちえん」を立ち上げました。

▲ 午後は子ども達が思い思いに過ごす自由活動の時間。時折子どもたちに目を配り嬉しそうな顔をする大松さん。私たちが子どもの頃にもこんな学校があったら良かったのにと、羨ましくなりました。

大松さん 長女が年長になり、今度はどのような学校で過ごして欲しいか?と考え始め、調べてみたら海外には実にいろいろな学校があることを知りました。でも、自分たちの住む町にはないわけです。
それならば作ろうと思いました。しかし、保育所のときと違い、なかなか仲間が見つからず時間がかかりました。いつも長女の成長に合わせて考えはじめるので、長女には間に合わないんです。パートナーの西尾夫妻と産の森学舎を立ち上げたとき、長女は小学4年生、長男が新1年生でした。

アナバナ 産の森学舎で、大切にしていることは何でしょうか? また、発酵に関わることはありますか?

大松さん 手づくり、ものづくりを大切にしています。食事も手作りですし、自分が作ったおもちゃなら学校に持ってきてもいいことになっています。ないものは作ろうという発想です。子どもたちが調理に使うお味噌も子どもたちと一緒に手作りした味噌です。ですので、発酵には日頃から馴染みがあります。

アナバナ 発酵フェスで、エコロンシステムの冨安さんと対談されるとのことですが、どういうテーマでお話することになるのでしょうか?

大松さん 日頃から意識している『グラデーション』をキーワードにしようと思います。自分は何でも、境界線はあいまいだと考えているんです。川は海に続いていますが、どこから海でどこまでが川というふうに分けられないですよね。そこには『グラデーション』がある。人と人の間にも、人と自然の間にも、そして自分が食べたものが排泄されるまで、それが土に還るまでの過程にも『グラデーション』があると考えています。

▲ 教室の本棚には、子供達の想像力や知識を高める素敵な本がいっぱい並んでいました。


アナバナ 「グラデーション」という言葉が、どのように菌の世界とつながっていくのでしょうか?

大松さん 『グラデーション』について考えるようになったのは、友人が「国境は本来グラデーションだよね」と言い出したのがきっかけです。世の中の問題の多くが、グラデーションの貧しさから来ていることが多いと考えています。本来豊かなグラデーションになるべきものをくっきり分けようとするから問題が起こる。菌の世界にもきっと共通することがあるのでは?と思っています。冨安さんも私もいろいろ深く考えていくタイプで話好きなので、共通することをテーマにその時の話の展開で対談を楽しみたいと思います。

大松さんから出てきたキーワード、『グラデーション』。これは国や人に限らず、自然や生き物や環境など、世の中のすべてに当てはまる普遍的なものなのだと考えさせられました。菌の世界では菌同士の殺し合いがなく、強い菌と弱い菌がバランスを取りながら共生しています。ここ「産の森学舎」には豊かなグラデーションがあり、そこでの教育や伸び伸び学ぶ子供たちを見ていると、私たちが持っている様々な問題に向き合うヒントが得られそうな気がします。

冨安さんと大松さん、業種の全く異なる活動をされているお二人のお話からは、私たち人間を超えて、地球に生きるすべての生物に共通するテーマが見えてきたような気がします。
お二人の対談は、4月13日(土)10時10分-12時(90分)を予定しています。
発酵フェス当日どのようなお話が聞けるのか本当に楽しみです!

 

『発酵フェス糸島 Vol.01』の概要

    • 期間:2019年4月13日(土)〜14日(日)2日間
    • 時間:10:00〜16:00
    • 場所:深江海水浴場の海の家 SAIKAI
         〒819-1601 福岡県糸島市二丈深江2129-12(MAP

※13日(土)の対談形式のトークショー(10時30分~12時00分)に冨安さんと大松さんお二人にご登壇頂きます。

  • 主催:発酵フェス実行委員会
    ※各種イベント詳細につきましては、facebookをチェックしてください!

■内容

  • マルシェ:40店鋪(予定)
  • 体験ブース:8種の発酵体験ワークショップ|味噌、醤油、稲魂(=緑麹)から作る種麹、ベジキムチ、魚醤、みりん、草木染め2種
  • トークイベント:登壇者10名、2日間全3回にわたるトークセッション
  • 映画上映:「千年の一滴 だし しょうゆ」①10:00~ ②12:00~ ③14:00~ (100分)
    (両日3回公開予定)

※本イベントは終了いたしました。


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