【ゲスト紹介02】
福岡県糸島市で、4月13日(土)・14日(日)の2日間に渡り開催される”発酵”をテーマにした『発酵フェス糸島 Vol.01』。アナバナ編集部は主催の「発酵フェス実行委員会」のみなさまと共に、イベントの広報に参加しています。
フェスは、発酵職人・約40店舗が出店するマルシェ、実際に菌を使用して発酵食品を手作りする体験ワークショップ、トークイベント、映画上映もありと、発酵三昧の盛りだくさんな内容です。発酵食品を堪能しつつ、普段はなかなか聞けない専門的な”菌と発酵”に触れることができるんです。
中でもメインイベントの「発酵トークショー」は、10名もの発酵にまつわるプロフェッショナル達のお話が聞けるということもあって、一体どんな方々が登壇されるのでしょうか?
アナバナではゲストのみなさまへのインタビューを試み、どんな発酵の専門家なのか? どのような思いで活動されているのか? などをご紹介していきます。イベント前にチェックすると、当日の楽しみ方が広がりますよ!
今回は、13日(土)のトークショーに登壇され、14日(日)には”古代米の稲穂から採れた稲魂(いなだま)”を使った「種麹ワークショップ」の講師を務める、発酵ジャー村こと村上厚介さんの圃場(ほじょう=農作物を育てる場所)へおじゃましました。村上さんの日本古来の米作りと麹や発酵に関するお話をたっぷり聞くことができました!
[登壇者のご紹介]
「発酵ジャー村」の名で知られる村上厚介さんは、「発酵農園」の主催者。機械や肥料、農薬を一切使わず、手植え、手刈り、掛け干しにこだわった昔ながらの自然農法で育てた「お米」と農作物を提供しています。米や大豆をはじめとする作物はもちろん、手作りの麹、沢庵、梅干し、味噌などの発酵食品も製造。 発酵農園の作物や加工品はネットショップで買えます。
> 発酵農園ショップサイト
発酵農園の始まり
3.11東日本大震災、原発事故をきっかけに身体に良い食に目覚めた村上さんは、都会を離れ水の豊かな熊本県菊池市で自給自足を目指して田舎暮らしを始めました。
そんな中で、「長崎で原爆が落とされた時に、聖フランシスコ病院の院長で自らも被爆した秋月博士が、病院に大量に備蓄されていた味噌とワカメを使った味噌汁を、患者と医師、従業員に毎日飲ませていたところ、原爆症が一人も出なかった」という話を耳にします。
味噌が免疫力を高める効果があることを知り、「それはすごい!福島に味噌を送ろう」と味噌作りを始めます。同時に味噌作りに欠かせない麹を作るようになり、周りの農家さんが売り切れなかった梅を買い取り500kgもの梅干しを漬け、自分の作った麹で甘酒も作り始めます。
都会で暮らしていた時には、ほとんどが外食か、コンビニの弁当… 買ってきた惣菜で食事をすませていて、肌荒れがひどく、月に2〜3回は発熱したりと不調を感じていた身体が、玄米に自分の育てた野菜と発酵食品を食べることで丈夫になっていくのを実感したそうです。そして、規模は小さいながらも、自然農法で主食のお米、味噌作りに欠かせない大豆、衣をまかなう綿の栽培といった、衣食のための農業を本を読みながら試行錯誤で始めます。
少しづつ自分の目標に向かって行きながら、自宅で「麹造り」や「ミツバチの巣箱作り」といったワークショップを開催し、時には経験を生かした音楽イベントも主催していくなかで、村上さんは大きな壁にぶつかります。
村上さん独自のオーガニック農業への周囲からの不信感と、ワークショップやイベントに集まる人出の多さが重なり、集落の人たちに「お前はもう出て行け!」「お前にはもう畑も田んぼも貸さんから!」とまで言われたそうです。
村上さん 「 正しいことをやってるんだ!」って僕も壁を作っていたし、地元の人たちも壁を作ってた。それで信頼を失いました。でも、僕が一生懸命に畑をやっていたことは、見ていてくれたんです。熊本地震が起きた後に『頑張ってる姿は素晴らしいから』って言ってくれて。出て行け!ってという状況の時に言われたから、すごく嬉しくて、それで自分たちがやりたいことだけじゃなくて、住んでる人達がやってることもちゃんとリスペクトするようになりました。それからは、地元の人たちと交流しながら、農業一本に絞って、昨年からはイベントも音楽の仕事もやめました。
運命的なお米との出会いは、一軒の食事処だった
村上さんは、無農薬の素材で玄米菜食のお店で、粒が大きく美味しいお米に出会います。幻との米と呼ばれる「旭一号」。そのお米の作り手が、1本植え農法で知られる本田謙二さんでした。見学に行った本田さんの田んぼは生命力にあふれ、その稲の大きさと勢いには見たこともないインパクトがありました。村上さんは、思わず「教えてください!」と声に出していたそうです。
作業はすべて手で行い、土作りはその田んぼで育った稲のわらと、畦の草や周りの落ち葉だけ。田んぼのものは、田んぼに返すのが基本です。昔ながらの農法は、機械や肥料と農薬を使うやり方よりも大変というイメージがありますが、本田さんの教え通りにやると、従来農法の2倍のお米が収穫できたそうです。私たちは自然農は「良いもの」と思い込みがちです。しかし、手作業で苦労しているのにもかかわらず収穫高が上がらず苦しんでいる作り手は多くいます。農薬や化学肥料で育てたものと見栄えが変わらずに、同じ量の作物を作るのは、本当に大変なことなのです。
村上さん 本田さんに教わったやり方だと、一反の田んぼを耕して、田植えして、草取りして、草刈りして、稲刈りしてっていうのが、従来農業の半分で良いんです。めちゃくちゃ楽です。45cm四方に1本植えなんで、田植えもすぐに終わるんです。1本が100本に分けつ(ぶんけつ:苗の根元から新芽が伸びて枝分かれすること)する。機械のメンテナンスして、燃料買って、農薬使ってやること考えたら、自然農でこんなに獲れるんだったら、こっちの方が良い!ってなりますよ。
そうやって、発酵農園のお米は、米作り4年目にして最高の獲れ高になり、「現代農業」で特集が組まれるまでになりました。いま村上さんの田んぼでは、旭一号の他にも、ハッピーヒル、黄金錦という香り米のうるち米を作っています。
村上さん 旭一号は穂がとても重くて倒れやすくて、ぽろぽろ穂が落ちやすいから機械では扱いにくい品種で、作る人が誰もいなくなっちゃったんです。でも、美味しいし良く穫れるから、絶対作った方が良いお米なんです。昔の品種の穂が落ちやすいのは、種を残すためなんですけどね。手刈りで丁寧に1本1本刈れば穂も落ちないです。機械を使うと「仕事」っていう感じがして好きじゃないんです。手刈りで稲を刈るのは本当に豊かで幸福を感じる時間なんです。
お話を聞いた村上さんの圃場は、山の上の今まで一度も農薬が使われたことのないところにあります。針葉樹林を見下ろす、とても気持ちの良い場所「天空の楽園」です。
村上さん 去年から毎日、この田んぼに来てたんですよ。手植えで全部やって、ものすごく稲が育ちました。地震で家が壊れて引っ越すことになったんですが、空家があるから買わんか?とか、田んぼがあるからやらんか?とか、言ってくれるようになって、まわりの人から初めて認められた感じがしました。
お米っていうものに対しての情熱っていうのは、別にオーガニックとかそういうのは関係ないんだって。ちゃんとお米と向き合ってるかどうか、それがやっぱり大事。とにかく情熱ですよね。これだ!っていうものを見つけて、それに向かってどれだけ無心になれるか。他のことがどうでもよくなるくらいのことを見つけて、それに向かっていると、やっぱり認めてもらえる。今はここが一番楽しいから、他のことがどうでもよくなったっていうか、何も気にならない。そういうものを見つけて、迷いもなく自分の行くべき道を進んでいると、行き先が見えてくる。悩みとかもなくなりました。
村上さんが作っているのは、お米ばかりではありません。
大根を育てたら、お米から取れる糠を使って沢庵を漬け、切り干し大根を作ります。
大豆が実ったら、自分のお米で作った麹で味噌を仕込みます。
サツマイモは1本の苗から25kgも獲れ、それを寒晒しして干し芋を作ります。
どの作物も土起こしからすべて手作業で育て、肥料は一切使っていません。今まで収穫してきた綿は、農作業の合間を見て糸を紡ぎます。
真剣にお米を作りを始めたことで、今まで発酵農園でやってきたことすべてが繋がっていったそうです。
先人から受け継いだ技を、広めていく
すべてが手作業の発酵農園には、たくさんの人たちが援農にやってきます。 昨年(2018年)の3月には、師匠の本田さんと11日間に渡って11か所、九州から千葉まで、「発酵キャラバン」という形で、1本植え農法のお話と麹造りをして周ったそうです。その時に「苗床を作って種撒を蒔く」というワークショップもされたそうなのですが、発酵農園やキャラバンでの講義を受けて実行した人たちから、「たくさん採れた!」という話が、いっぱい来ているそうです。
村上さん 「米作りは僕には難しくてできない!」って思ってた人が、やり始めています。やってみたら、こんなにできるんだ!っていう。それが、僕の伝えたいことだから。誰でもできるからって。
アナバナ 村上さんが発酵に関心する理由とは?
村上さん 発酵っていうのは分解のことなんです。大豆を食べれば消化酵素によってアミノ酸に分解して吸収されます。ただ、大豆には消化酵素を抑える働きがあって、消化しきれずに体の中で腐敗して血液に混ざってガンや病気の原因になったりするとも言われてます。昔の中国で大豆を土壌改良にしか使ってなかったのは、昔の人の知恵ですよね。そのまま食べたら体に悪いのを知ってたんです。大豆を食べ過ぎることによるリスク、体に良くない毒素を麹菌がブドウ糖に分解してくれるんですよ。ブドウ糖を食べているのだから消化に対しては負担は、かかりません。だけど、食品添加物で作られてる味噌とか醤油とかは、そういう発酵の力ではなくて化学的な物で作られているので、やっぱりそれは消化には良くないし、体に良くないんです。
村上さんのお話を聞いていて、日本従来の発酵食品の素晴らしさがわかってきました。今、海外からのいろんな健康法や健康食品が広まっているけれど、実は日本には日本人の身体に合ったものがあるということも。
そして、その発酵の要となる麹のパワーに気づくと、お米が大切に育てられてきた理由にたどり着きます。お米はすごい、主食に成るべくして、なっているんですね!
村上さん (放射能やpm2.5や花粉症など)いろんな不安要素がある日本だからこそ、そういった菌とかをもっと取り入れてもらいたいです。麹菌は”アスペルギルス・オリゼ”っていうんですけど、この「麹菌=日本麹カビ」っていうのは、日本にしか生息できないんですよ。外国では生息できないんです。日本でしか育つことが出来ないカビを使った味噌とか醤油は、当然日本でしか作れません。その麹菌が、僕たちの免疫力を高めて身体を守ってくれている。日本で、生まれるべくして生まれた日本人のための菌なんです。
『発酵フェス糸島 Vol.01』の概要
- 期間:2019年4月13日(土)〜14日(日)2日間
- 時間:10:00〜16:00
- 場所:深江海水浴場の海の家 SAIKAI
〒819-1312 福岡県糸島市二丈深江2129-12(MAP)
※村上厚介さんのトークセッション登壇は13日の午後、種麹ワークショップは14日になります。
- 主催:発酵フェス実行委員会
※各種イベント詳細につきましては、facebookをチェックしてください!
■内容
- マルシェ:40店鋪(予定)
- 体験ブース:8種の発酵体験ワークショップ|味噌、醤油、稲魂(=緑麹)から作る種麹、ベジキムチ、魚醤、みりん、草木染め2種
- トークイベント:登壇者10名、2日間全3回にわたるトークセッション
- 映画上映:「千年の一滴 だし しょうゆ」①10:00~ ②12:00~ ③14:00~ (100分)
(両日3回公開予定)
※本イベントは終了いたしました。