インタビュー

松山さん・山内さんと考える、「ゲーム×地域」の話(2)

松山さん、山内さんと考える「ゲーム×地域」の話2014.02.01(sat) up

新しいアソビの見つけ方 #02 どこにもないものを作る

山内 僕は、ドネルモというNPO法人で活動をしています。地域活動を通して、「もっとこうなったらいいのに」ということを、地域モデルとして開発、実践したりしています。
松山 ええ。
山内 この活動って、一見ゲームとは関係ないのですが、面白いこと、楽しいことを考え出して人々を巻き込んでいく、という意味では近い要素があるのではと考えています。ただ、その中でいつも思うのは「どうやったらもっと面白いと思ってもらえるのか」。本当は色んな人を巻き込みながら楽しくやりたいのに、そう思ってもらえるようなきっかけを作るのはなかなか難しいんです。
松山:確かにそうですね。若い方だと特に、地域活動というと面倒だとかネガティブなイメージに走りがちですよね。
山内 地域のボランティア活動なんかでも、「みんなやろうよ!」と言っても「それ面白いの?」「あんまり…」みたいなことって結構あると思うんです。そこに、「こうやったらもっと面白いよ、楽しくなるよ」という新しいアイデアがあれば、人を巻き込んでいけると思っていて。
松山 はい。
山内 それを〈新しい遊び方〉と言ってもいいと思うのですが、地域活動ではそういう発想がすごく求められています。そこで、〈新しい遊び方〉を考案するプロって誰だろうって考えたときに、ゲームを作っている人たちってまさにそうなんだろうなあと思ったのですが、いかがでしょうか? さきほどの話からすると、プレイヤーのほうもすごそうですが(笑)。
松山 なるほど、そうつながってくるわけですね。ゲームを作っていると、子どもたちに「どういう思考をしていれば、こんなゲームが生み出せるんですか?」とよく聞かれます。「神さまが降りてくるの?」とかね(笑)。彼らは、ゲームの神さまが降臨した瞬間に怒濤のアイディアが湧いてきて、「すごいの思いついたぞ! これや~!」という感じでゲームが生まれるのだろうと想像している訳です。そんなのある訳ないですから(笑)。何の連絡もよこさないですよ、神さまは。まあ「ワンピース」の尾田栄一郎先生なんかは、どうしたらあんな世界が作れるんだろうと思いますけどね(笑)。

山内 はははは。そうすると、クリエイターと呼ばれるみなさんは、新しいゲームを作る際のヒントをどんなところから得ているんですか?
松山 私の場合は、”ゲーム以外”からインスピレーションを受けることが多いですね。
山内 そうなんですね。例えばどんなものですか?
松山 漫画、映画、アニメ。テレビだとバラエティ番組や深夜の連続ドラマ。もっと言うと、今ここでこうやって話している瞬間もそうです。
山内 ふむふむ
松山 例えば、アクションゲームって、ただ面白いだけだとなかなか選んでもらえないんです。どんな風に物語を広げていくか。ただ遊ぶだけでも面白いけど、もしテクノロジーの力で人とつながれたら、自分だけの世界が無限に広がって生活にすら必要になるかもしれない、とか。こういう発想って、ゲーム以外のところから得られることのほうが多いですよ。飲みに行ったりご飯を食べに行ったりする時間でも、異業種の方からもらうヒントがすごく参考になりますね。今日のイベントのような経験も私自身にインスピレーションを与えます。「こういう距離感、関係性って面白いな」というところから、自分がこれから作りたいと思っているゲームのアイデアが広がるんです。
山内 なるほど。ただ誰かと戦っているというアクションだけでは遊んでもらえないけれど、ゲームを通して人とつながることができるというところに〈新しい遊び方〉があるんですね。そしてその〈新しい遊び方〉は、”ゲーム以外のもの”からインスピレーションを受けている、と。
松山 はい。実は今日、京都の学校で講演をしてきたんです。そこで、学生から「ゲームクリエイターになるには、ゲームに精通してないとダメですか?」「ゲームの歴史も勉強したほうがいいですか?」と聞かれました。だけどゲームって、ゲームばっかりをしていても作れないんです。
山内 ゲームの世界だけを見ていても、新しい発想や世界観は生みだせないということですね。
松山 ええ、そうなんです。「キングダムハーツⅢ」とうゲームをご存知ですか? このゲームは、色んな層に人気があるんです。ディズニーの人気者は出てくるし、だからといって子ども向けかというと、世界観もしっかりしていてドラマも面白い。リアルで怖いかというとそういうことでもない。で、学生がよく勘違いするのが、“キングダムハーツのようなもの”の企画を書くんです。
山内 つまり、すでに存在しているゲームを見て、同じような世界観のゲームを作ろうとする、と。
松山 そうです。仮にその企画が通って数年後に発売されるとします。この“キングダムハーツのようなもの”と、「キングダムハーツ」が同じ売り場で売られていたら、私は間違いなく「キングダムハーツ」を買いますよ(笑)。世の中に出ているゲームを見たとき、同じ失敗をしないようにしなきゃいけないとか、自分たちはどこで独自性を出すかということは考える必要がある。でも似たようなものは要らないんです。
山内 確かにそうですね。コミュニティデザインでも、うまくいっている事例を参考にするにしても、「あれ良かったからやってみよう」と言って単純にマネするのでは、あまり上手くいかないようです。
松山 でしょうね(笑)。
山内 同じやり方でも、人も違うし、時も違うし、場所も違う。
松山 なににも似ていないものを作らないと、選んでもらえる一歩にならないんですね。ゲームでも、パイオニア的存在のタイトルしか売れませんから。”キングダムハーツのようなもの”だったら、「キングダムハーツ」でいいじゃないですか。”マリオブラザーズのようなもの”を作っても、みんな「マリオブラザーズ」を選ぶに決まっています。横スクロールのアクションゲームを作りたいのであれば、「マリオ」とは違った新しい体験ができないと作る意義がない。サイバーコネクトツーでは、常にそういう考え方でゲームを作っていますね。

山内 だからと言って、新しい発想を違うジャンルから取り入れようとするとき、そのまま持ってくるわけにはいきませんよね。漫画のアイデアをそのままゲームで使うわけにはいきませんし。
その場合、「ゲームにするならこうなるんじゃないか」という試行錯誤があると思うのですが、いかがでしょうか?
松山 僕は、モノを作っている人たちの思考法を考えます。同業者の頭の中は分かっても、漫画家の先生、小説家、編集者、映画監督……そういう方々の考え方が参考になることは多いですね。
山内 例えばどんな方が挙げられますか?
松山 例えば「進撃の巨人」という大ヒット漫画があって、私自身すごく好きで、別冊マガジンで連載が始まった第1話から読んできました。漫画が始まってから3年経ってようやくアニメーションになったのですが、それを見ると漫画原作とアニメの表現がまるで違う。そこで、漫画「進撃の巨人」を、アニメのスタッフがどういう思考であんな風に料理したのかを想像するんです。もちろん漫画の読者層とアニメの視聴者層、男女比など、受け手の層が違うということもあると思いますが、「きっとこう考えたんじゃないか」という発想が我々ゲーム屋にはないものだったりする。つまり、出された料理だけではなく、”料理方法”そのものにインスピレーションを受けることもあるんですね。
山内 なるほど。新しいゲームを作るにしても、ゲームクリエイターの思考にとどまっているだけではその次にいけない、と。
松山 はい、基本的には無理だと思います。ゲーム業界はまだ歴史の浅い業界なので、そういう考え方が習慣として身に付いたということもあるでしょうね。サイバーコネクトツーも18年しか経っていないですが、少しずつ色々な方に知っていただけるようになったのは、業界自体の間口が広いとも、未完成の業界であるとも言えます。今は携帯でもゲームができる時代なので、ゲームで遊ぶことを知らない人はいないと思います。ニンテンドーDSWiiによって、ゲームをする年齢層の幅も広がりましたしね。それでもファミコン誕生からたかだか30年なんですよ。漫画は150年の歴史があるし、映画はもっと長いでしょう。他分野のエンタテインメントと比べても、ゲームって驚くほど歴史が浅いんです。
山内 確かに、そうですね。
松山 一方で、テクノロジーの進化はすごく早い分野でもあるんです。だからこそ、努力と情熱と積極性、外を見て貪欲に何かを獲得し、自分のものにして吐き出すということをしないと、すぐに淘汰されてしまう。それが、このゲームの世界だと思っています。
山内 違うジャンルの発想や思考法にアプローチをして、そういうところから刺激を受けるという考え方は、地域のコミュニティでも切実に求められているものですね。例えば、病院や福祉施設以外でも、お年寄りの方々が集うことのできる場づくりが求められています。つまり、医療施設という枠組みだけでは限界がきているのです。とはいえ、新しい場づくりをするのも、なかなかに難しい。つまり、“医療施設”という枠組みだけでは限界が出てきている。とはいえ新たな試みだけでは長続きしないんですね。そこにはやはり、“いかに楽しんで参加できるか”ということが必要なのだと思います。そういう意味で、ゲームクリエイターが新しいゲームを作るその思考と、地域活動に求められている思考って、共通していると思うんです。
松山 なるほど。いかに〈新しい遊び方〉を創造していくのか、ということですね。

休憩中は、物販スペースも大人気。CC2さんから駆けつけたスタッフの方々が、丁寧に商品の紹介をしてくださいました。

カウンターでは、この日のために用意された特製ドリンクも。CC2特製ジンライムやCC2特製ライムフロート!

もくじ

対談者プロフィール

博多にある元気なゲーム制作会社サイバーコネクトツーの代表兼ディレクター。開発の傍らで毎月、60冊の漫画誌を読んでいる大の漫画好き。アニメや映画、もちろんゲームも漫画も幅広く、こよなく愛している。
非常に“濃く”“熱い”人間である。
代表作は「.hack」シリーズ、「NARUTO−ナルト− ナルティメット」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」、「アスラズ ラース」など。アクションと映像演出に特別なこだわりを持つ作品づくりが特徴。

最近では「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」や「死神メサイア」「フルボッコヒーローズ」などスマートフォンゲームの開発も手掛ける。 また、ゲーム制作会社だからこそ発揮できる能力を最大限に生かし、福岡県の「消防・防災・安全」のイメージキャラクター「まもるくん」のキャラクター・世界観デザインを制作。

九州大学芸術工学府博士課程修了(芸術工学博士)。
ドネルモは、「もっとこうだったらいいな」と思うつながりを作ろうとする人たちを応援する団体で、現在は「コミュニティで創る高齢社会のデザイン」など、これからの地域モデルを開発する仕事を中心に活動中。
ゲームは小学1年のファミコンから。
最初のカセットはレッキングクルー。
一番やり込んだのはウィザードリィ(ファミコン版)とジンギスカン(光栄)。


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