2014.02.02(sun) up
新しいアソビの見つけ方 #03 アニメで成功した街、徳島
山内 松山さんに、〈地域とゲーム〉についてお話うかがいたいのですが、なんでも注目されている地域活動がおありだとか。
- 松山 ええ、そうなんです。四国の徳島市で年に2回行われている「マチ★アソビ」というイベントがあるんです。ひと言でいうと、「徳島をアニメの街にしよう」というイベントです。
- 山内 あぁ! 僕も第1回から注目しているんです!(会場には)ご存知ない方もいらっしゃるので、どのようなイベントなのか、少し解説していただいて良いでしょうか。
- 松山 はい。徳島は、全国的にも過疎化が進んでいる地域で、人が減って駅前の商店街も事実上シャッターだらけ、というのが問題になっています。普段街を歩いても、ほとんど人も歩いていないしお店が閉まっているような状態です。そんな状況に危機を感じた行政側が「街興しをしたい」と思っているところに、あるアニメ会社の社長が目をつけたんです。それが今からおよそ4年前です。
- 山内 ふむふむ
- 松山 発起人は、東京高円寺にある「ufotable」というアニメ会社の社長さんです。代表の近藤光さんという方が徳島出身で、近藤さんは自分の地元をなんとか盛り上げたいと、アニメやゲーム会社、出版社の知人に声をかけたんです。「賛同してくれる人間だけでいいから、徳島でアニメのイベントを一緒にやろう」と。だけどみんな口を揃えて「なんで?」となりますよね(笑)。お客の多くは東京に集中しているし、アニメの視聴率を稼いでいるのもほぼ東京です。
- 山内 えぇ。
- 松山 この業界に限らずですが、「東名阪」、あくまで「東京、大阪、名古屋」が中心です。残念ながら福岡も入っていません。福岡はオタクが少ないから、アニメのイベントやっても人が集まらないんです。東北も然り。徳島なんかもってのほか。メーカー側からしてみれば、やる意味がまったくわかんないんです(笑)。しかも交通費も自腹ですよ! 誰がそんなものに参加するんだ、という企画を、近藤さんは業界関係者に「参加してくれ」とお願いして回ったんです。「僕のために手伝ってくれ」ですから、完全に寝ワザですよね(笑)。
- 山内 はははは
- 松山 でも、その熱意に押されてか、寝ワザにほだされてか、「しょうがねえなあ、会社の経費出ないけど、観光ついでにイベントやってみるか」という感じで参加するメーカーが現れたんです。
- そして、イベントを開催して、いざ蓋を開けてみると、なんと8千人もお客さんが集まったんです。
- 山内 すごい!
- 松山 それだけでもすごいですが、回を増すごとに参加するメーカーも身銭を切って集まるようになったんです。そうなると、オタクも黙っちゃいないわけです。メーカー側の出し物が増えれば、そこでしかもらえない特典を狙って、だんだんお客さんも増えていって。第11回「マチ★アソビ」(2013年9月開催)では、ついに参加者総人口がなんと6万人を超えたんです!
- 山内 すごすぎます……。
- 松山 今や市や県からも補助金が出ていて、我々ゲームの業界人にとっても完全に無視できないイベントになっています。
- 山内 へぇ〜!サイバーコネクトツーさんはいつから参加されているんですか?
- 松山 第3回目から欠かさず参加しています。当時、バンダイナムコゲームスのプロデューサーの方が「一緒に行かないか」って声をかけてくれたのがきっかけです。どうなるか分からないから、お互いプライベート同然での参加でしたけどね(笑)。
- 山内 ははは。 イベントのゲスト出演者もすごいですよね。
- 松山 そうなんですよ!「この人来るんだ!」っていう豪華な面々が。
- 山内 東京からバスツアーもありますし。「マチ★アソビ」に行くためのバスツアーがわざわざ組まれているって驚きですよね。しかも街中が色んな仕掛けに満ちています。ロープウェイの案内音声が、会期中だけ声優さんの声になったりして。
- 松山 そうそう、よく知っていますねぇ(笑)。実はメーカー側はみんな手弁当(自腹)ですよ。声優さんも半分はノーギャラ。※ 現在の正確な情報は未確認です
- 山内 そうなんですか!
- 松山 そう。みんな発起人の近藤さんの人柄に惚れて来ているんですよ。一アニメ会社の代表の「頼むから俺を助けくれ」のひと言が、メーカーを巻き込み、行政を巻き込み、お客さんも巻き込んで、6万人の人が集まるイベントになったんです。しかも、最初の理由は「自分の実家が徳島にあるから」ですからね(笑)。今や行政の予算でアーケードの中に「マチ★アソビ」のぼり旗が立っていますよ。
- 山内 本当に素晴らしいと思います。メーカーさんは全国から来ているのですか?
- 松山 そうですね、まだまだ東京からが中心ですし、九州から出店しているのは今のところ当社だけですね。
- 山内 そうなんですねぇ。
- 山内 飲食店や食べ物のブースも充実しているとか。
- 松山 そうそう。グルメハントという企画がすごくよくできていますね。市内の提携しているレストランや喫茶店に行って注文すると、店からビンゴカードにスタンプを押してもらって、メーカー側が用意したポストカードをもらえるんです。オタクの方々はそれを集めようと頑張ってハシゴする。ビンゴ1列5軒制覇すると特製プレゼントがもらえるから、タフな方は2列3列集めて、このイベントでしか手に入らない特製グッズを集めようとするんですよ。私も2日目に喫茶店へ行ってランチを注文したら、なんと売り切れていました。「カードくれくれってお客さんがいっぱいきたけん、お米がなくなってランチはもう出せん」と(笑)。
- 山内 ははは。商売っ気ゼロですね(笑)。
- 松山 3日目の昼にはコーヒー豆もなくなってましたからね。喫茶店って豆なくなったら何も出すもんないじゃないですか! 「いやいやおばちゃん、イベントなんだからお客さんが来るのは分かってたでしょう」と(笑)。そのくらいたくさんの人が来ているんですね。
- 山内 なるほど、「スタンプラリー」で人を巡らせるというのは、まさにゲームですね。
- 松山 「とくしまバーガー」も面白いですよ。例えば、長崎の「佐世保バーガー」と言えば、ある程度具とか味とか、イメージが決まっていますよね。ところが、「とくしまバーガー」は、店によって中身が全部違うんです(笑)。チキンが入っている店もあれば、牛肉もあれば、レンコンをはさんでいる店もある。実はその中身、全部徳島の特産品なんですよ。「とくしまバーガー」のルールは“徳島の特産品を使ったバーガーであれば良い”というひとつだけなんです。それを行政が審査して基準をクリアすれば、「とくしまバーガー」として認定されて、バーガーを包む紙が支給されるという仕組みです(笑)。
- 山内 なるほどなるほど(笑)。
- 松山 中には徳島産鶏にすだちが添えてあるバーガーもあって、食べる前にバンズをはずしてすだちを絞るんです。おいしそうでしょ?スタッフ同士で「ここのが美味しかった」とか「イマイチやった」とか、休憩のたびに試して情報交換したりしてね。ちゃんと考えてプロデュースされてるなあと思いますね。
- 山内 とくしまバーガー、すごくいいな(笑)。
- 松山 でしょう(笑)!
- 山内 お願いしてもないのに、店ごとにバーガーの創意工夫を勝手に始めるという。結果的に、お客も飽きずに食べてくれるし、徳島の特産品をPRできているから、行政としても大歓迎ですよね。
- 松山 「佐世保バーガー」が美味しいって評価されると、“佐世保バーガーみたいなやつ”をみんな作ろうとしがちだけど、まったくそうではない、新しいアイデアを競っていますよね。そこが面白くて。行政の方もイベントが盛り上がるもんだから、アニメクリエイターのクリエイティビティに刺激されているんでしょうね。
- 山内 いやあ、素晴らしいです。
対談者プロフィール
博多にある元気なゲーム制作会社サイバーコネクトツーの代表兼ディレクター。開発の傍らで毎月、60冊の漫画誌を読んでいる大の漫画好き。アニメや映画、もちろんゲームも漫画も幅広く、こよなく愛している。
非常に“濃く”“熱い”人間である。
代表作は「.hack」シリーズ、「NARUTO−ナルト− ナルティメット」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」、「アスラズ ラース」など。アクションと映像演出に特別なこだわりを持つ作品づくりが特徴。最近では「ギルティドラゴン 罪竜と八つの呪い」や「死神メサイア」「フルボッコヒーローズ」などスマートフォンゲームの開発も手掛ける。 また、ゲーム制作会社だからこそ発揮できる能力を最大限に生かし、福岡県の「消防・防災・安全」のイメージキャラクター「まもるくん」のキャラクター・世界観デザインを制作。
九州大学芸術工学府博士課程修了(芸術工学博士)。
ドネルモは、「もっとこうだったらいいな」と思うつながりを作ろうとする人たちを応援する団体で、現在は「コミュニティで創る高齢社会のデザイン」など、これからの地域モデルを開発する仕事を中心に活動中。
ゲームは小学1年のファミコンから。
最初のカセットはレッキングクルー。
一番やり込んだのはウィザードリィ(ファミコン版)とジンギスカン(光栄)。