今回の穴バーでは、竹田市で約50年に渡ってカボス栽培を営む和田久光さんに取材をさせていただきました。会場にも和田さんが手塩にかけて育てた、たくさんの獲れたてカボスが到着!
農繁期ということで、残念ながら和田さんの来場は実現しませんでしたが、代わって、竹田市でライターとして活躍され、和田さんの取材記事を書かれたことがある藤原美樹さんがご来場。インタビュー動画を映しながら、和田さんのご紹介をしてくださいました。
師匠もいない、マニュアルもない。
試行錯誤のカボス栽培のはじまり
農業、特に野菜の生産が盛んな竹田市で、特に有名な農産物であるカボス。生産農家さんの中でも、今回私たちが和田さんに着目したのは、竹田のカボス栽培の発展において、和田さんの功績がなくてはならないものだったからです。
和田さんがカボス栽培に着手したのは。農学校を卒業してすぐの昭和42年、竹田市でのカボス栽培が本格化したのと同じ頃でした。「当時はミカン農家が最盛期で、自分も果樹栽培をしようと決意してね。柑橘類は暖かい土地で育つものやけど、特にミカンは気温の高い海岸部が向いてる。温かいと酸が抜けやすく、甘い柑橘類が育つんよ。竹田みたいな内陸は、ミカンより酸味のあるカボスやユズに適していて、寒暖差が激しい環境で育つほど香りが強くなるし、竹田でやるならこれだと思った」と和田さん。
その当時、カボス栽培についてのノウハウは皆無。教えを乞う師匠どころか文献もなかったので、ミカンの本を参考にしながら、試行錯誤したそうです。失敗しては改善し、また幾度も挑戦を繰り返す…。「まるでエジソンみたいやろ」と当時を振り返って笑う和田さんですが、先の見えない不安はきっと大きいものだったはず。それでも諦めず、優れた品質のカボスづくりを約20年に渡って追求し続けた結果、和田さんはようやく独自の栽培方法にたどり着きました。
タブーと言われた夏の剪定を取り入れ
品質のよいカボスを安定して生産
和田さんが編み出した「夏剪定」は、当時はタブーとされているものでした。木のエネルギーを吸い取る花を摘み取るため、「春剪定」はもともと行われていましたが、光合成が盛んにおこなわれる夏の時期に枝や葉を摘み取ると、果実が大きく育たないと考えられていたのです。
しかし、あえて枝抜きや葉もぎをすることで、虫がつきにくくなり病気を防ぐことができると和田さんは気づき、実践しました。葉っぱは木の栄養を育てる働きもあるため、摘み取るのは実の周辺のみ。来年実がつく部分の枝は残しながら、バランスよく剪定する技術も必要となります。
カボスの実全体に陽の光があたるように計算しながら、ひとつひとつ丁寧に葉を摘んでいくことで、一面緑の実が育ちます。これによって、収穫後貯蔵している間のカボスが黄色く変化するのを最小限に抑えることができ、以前は12月頃には黄色くなっていたカボスが、この夏剪定によって2月頃まで緑色を保つことができるようになりました。緑色を保つことは、酸味をキープすることにもつながり、長期に渡って品質のよいカボスを消費者に届けることができるのです。
和田さんの農園は150アールもあり1000本もの木が植えられています。剪定はすべて手摘みで行われ、気の遠くなるような作業ですが、71歳になる今もこの剪定方法を実践しているというから感服です。
カボスのおいしい食べ方を
多くの人に広めていきたい
この栽培方法は、和田さんによって竹田のカボス農家に広められ、今では主流のものとなりました。自分で編み出したノウハウを惜しみなく伝えてきたのは、竹田のカボス生産全体の品質向上を願ってのこと。和田さんは現在も、カボス農家を育てる「かぼす講座」で剪定の講師を務め、若手の指導にあたりながら、カボス栽培に関わる人を増やしたいと尽力していらっしゃいます。
和田さんの願いはもうひとつ。「今ではカボスがだいぶ一般の人に知られるようになったけど、もっとたくさんの人に、カボスのおいしい食べ方や使い方を知ってもらいたい。ビタミンCなどの栄養も豊富だし、天然のサプリみたいな感覚で日常に取り入れてもらえたら嬉しいです」。
飽くなき探求心と努力によってつくられてきた竹田のカボス。身近にあるそのおいしさを、私たちももっと食卓に取り入れていきたいものです。次回のレポートでは、竹田の食材やカボスの魅力を広めることにひと役買っている、竹田の料理人・小林考彦さんが手掛けたカボス料理をご紹介します。
(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:勝村祐紀・編集部)