やました農園土づくり奮闘記

畑はどう?収穫はどう? やました農園の土づくりはどうだった?いよいよ最終回。

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畑はどう?収穫はどう? やました農園の土づくりはどうだった?いよいよ最終回。

「今年初めてのいちごが実った!」とレポートをして、2ヶ月あまり。やました農園のその後の畑の様子は…?土づくりの成果は…?ふたりの心境は…?1年間続けてきたおっかけ取材は、今回がいよいよ最終回です!

今年も虫に泣かされる!

朝9時。車に乗って高速を飛ばし、青空の下に広がる筑後川が見えてきたら、やました農園のいちご畑に近づいた合図。取材に向けて気持ちのスイッチが入り、背筋がぐっと伸びる。一年間、1〜2ヶ月に一度訪れてきたけど、行きしなに筑後川の景色を見ると心地よい緊張を感じるのは毎回同じ。今回が最後の取材となれば、より気持ちも高ぶってくる。
ビニールハウスの横にはマナブさんの軽トラック。ハウスの扉を開ければ、暖かい風が頬を撫で、いちごの甘酸っぱい香りが漂ってきました。 「おはよー!今日はよろしくね。今、菌ちゃん液をまいているんだよ」とホースを片手に作業するマナブさん。久々に訪れた畑を見回していると、マナブさんからこんな言葉が飛んできました。
「畑は正直言って今、あまり良くない状態なんだよね。どうにか手はつくしているんだけど」。


霧状に噴射するホースを使って、菌ちゃん液を撒いているマナブさん。虫対策のためにも葉っぱの裏にもしっかり。

1年ほど熟成させた自家製のぼかしをチェック。「仕込んだ時と色も香りも全然 違う!時間が経つとしっかり熟成されて、いい香り!」。

話を聞けば、ここ1ヶ月ちょっとの間に様々な“想定外”が起こったのだとか。ひとつは、虫の被害。いちごの株の根を切ってしまうもの、実や葉っぱを黒く汚してしまうもの、実を食べてしまうもの…。収穫がはじまった12月頃から“いちごの実”に直接的な被害が現れはじめ対処に追われていたと言います。

「たとえばこのいちご。せっかく形も立派なのに、裏を返せばキズがあるでしょ?これは虫にかじられた跡。うちのいちごは、こういうキズがあるのが多いんだけど、それにしても今年はそれが多いし、いちごの実に汚れもあって、いろんなバリエーションの残念さんがいっぱい。いちごちゃん、ごめんなさい」とマナミさん。人間の体も免疫力が低下すると風邪を引きやすくなるように、土に元気がないと株が弱って虫も寄ってくる。

そして、この虫の被害をどうにかしたいという想いでいっぱいだった12月中旬頃、事件が起こります。

「虫たちのパワーを弱められたらいいなぁと考えて、食用でんぷんの液剤をまいたんだ。粘着性があるので、どうにか勢いを抑えられないかと思って。その液剤が、実は有機JAS認定ではなかったようで…。事実上、うちのいちごは化学農薬ゼロではなくなってしまって…」と、マナブさんはため息混じりに振り返ります。

殺虫剤や農薬をまいたのではなく、安心、安全と謳われているものを使ったとしても、“化学農薬ゼロ”ではなくなってしまうという不意の事態に胸が締めつけられました。


色づきや形を確認しながらいちごを収穫していくマナミさん。あまおうは特に実がやわらかくデリケートなので、丁寧に、慎重に。

いちごが実らない!?農業の怖さを実感!

「さらに…」と続けるマナミさん。「株の様子がおかしいことが決定的だとわかったのもこの時期。簡単に説明をすると…。いちごは実をつけるために、株の中に花の元ができます。これを“花芽”と言います。通常、花芽が来て1ヶ月から1ヶ月半ぐらいで蕾が顔を出すんですが、12月の半ばになってもまだ蕾が出てこなくて。ハウスにいちごの苗を植える前に、ビニールをはってしまったので(『やました農園日記04』参照)花芽のタイミングがずれることは予想していたけど、それにしても遅い、遅過ぎる…。この時期に蕾すら出ていないということは、1月、2月の収穫が見込めないということ。実際、今年に入ってから収穫できる数は、いつもに比べるとすごく少ない!これはとっても、深刻な状態なんです…」。


農薬ゼロではなくなったこと、収穫できない時期ができてしまったこと。「それによって出荷先のみなさんにご迷惑をおかけしてしまって…申し訳ないです」とふたりは肩を落としていました。

土づくりの道のりは険しい!この一年でふたりが得たもの。


取材に伺った当日には、花が咲いてみつばちも飛び回り、いちごの株は次の実をつける準備をしていました。遅れながらも花芽がきて一安心。

ようやく状況は上向いてきたものの、虫の被害は続き、収穫量が落ちていて現実は厳しいのは確か。

最後に、どうして今の畑は大変な状態にあるのか、この1年を振り返っておふたりに検証をしてもらいました。細かく言えば様々ありますが、反省点は大きく分けて2つあるそうです。

反省その1 「土に草を入れる回数」

やました農園の土には、手作りのぼかし肥料やもみがらなど様々なものが入っていますが、ベースとなるのが草です。微生物が食べやすいように草を細かく切って土に混ぜ込む作業をしており、それが今シーズンは1回しかできなかったことが、土づくりの失敗の一因だとマナミさんは考えていました。
「本来なら、2、3回は草を入れる予定だったんですが、2トンもある牧草をカットするだけでもひと苦労。さらに、その草をハウスに運び込んで全体に広げる作業は、とてもふたりではできません。それで去年の春頃、思い切って応援を呼びかけたら、たくさんの方が手伝いに来てくださって、なんと1日で完了して。とてもありがたかったです。でもさすがに昨年のあの猛暑のなかお願いすることはできません。暑さが落ち着いたら本格的に取り掛かる予定でしたが、お盆が過ぎたら今度は毎日雨が続いて土が乾かず、さらに作業が後手後手になって。なに?この気候ってオロオロしました。そもそも、お天気ばかりはどうなるかわからないんだから、猛暑も長雨も想定して、草入れをもっと早く始めておくべきでした。いろいろと甘かったです」。

草を入れる回数については、マナブさんは独自の見解がありました。

「学んでいくうちに分かってきたことがあって。それは、どうしても草だけでは難しいかなということ。草の栄養は微生物にとっては“腹持ちが悪い”ようで、まなみが言うように何回も混ぜ込む作業ができればいいけど、それだけで大変な労力が必要。だから草のほかにもう少し“腹持ちの良い”素材を入れられたら1回でも良い土ができるのかも。これは、来季に向けて考えているところ」と、土づくりの研究に余念がありません。

反省その2 「 水はけの悪い畑 」

やました農園の畑は、もともと水田を転換したもの。米を作っていた場所なので、粘土質で水はけが悪く、通気性のよい土を好む微生物にとっては住みにくい場所だとは理解していたけれど、これほど手強いとは思いもよらなかったのだとか。
「これはマズイ!と思ったのは、豪雨が続いた8月下旬。いつまでたっても土が乾かなくて、下から水が湧いてくるような感じでした。微生物にとっては、最悪な状況だったと思います」とマナミさん。土地そのものを変えることはできないので、どうやったら水はけを良くできるかが今後の課題。「排水路を作ったり、畝をもっと高くできないかなぁと。あとは、微生物のために土に何を混ぜたら良いか検討したいです」とマナブさんは意気込んでいました。


1年前、連載開始1回目の取材で撮影したもの。畑には土づくりに使う草ロールが堂々と鎮座していたので、その上に座っていただき撮影しました。思い出深い一枚!

これまでいちご農家として10年間やってきた自分たちの根底から見直し、イチから土を改良して農業と向き合った今季、異常気象における対応や栽培方法を巡っての考え方…、その時々で迫られる選択はまさに“苦渋”だったに違いありません。「次から次に想定してないことが起こってしまい、自分たちの未熟さを痛感します。いや、農業って厳しい」とお二人は口をそろえます。

それでも「健康な土には健康な作物が実る」が相変わらずの合言葉。この一年を通して紆余曲折あったものの、これがやました農園の原点となったようです。
いちごは今日も真っ赤な実をつけています。無農薬がふつうになる世の中を目指して、ふたりはせっせと畑へと出かけていくのです。

(取材・文・撮影 ミキナオコ)


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