日々のてまひまの日々

ウォールアートで 福祉と社会をつなぐ日々 (後編)


左から株式会社ふくしごと副代表樋口さん、SBRCエクゼクティブディレクター岡田教授、工房まるアーティスト大峯さん、工房まる施設長吉田さん

『日々のてまひま』発足の大きなきっかけとなった、ひとつのウォールアートプロジェクトがありました。2011年に『工房まる』のアーティスト達によって描かれた、九州大学箱崎キャンパスの建築物『グラミンハウス』でのウォールアートです。 九州大学の伊都移転に伴う解体準備中で残念ながら現在は見ることができませんが、解体開始前の4月に『日々のてまひま』の呼びかけによる「Thank you!グラミンハウス 〜箱崎九大GCH解体前の見おさめパーティ〜」が開催されました。

ソーシャルビジネスが目を覚ます

昭和6年に建築され、もともとは九州大学工学部の超伝導システム科学研究センターだったこの建物。2011年に九大でソーシャルビジネスの研究を行っている『ユヌス&椎木ソーシャルビジネス研究センター(SBRC)』の活動拠点『グラミンクリエイティブハウス(GCH)』として、リノベーションされました。この時に、リノベーションを手掛けたのが、『アナバプロジェクト』代表で現在『株式会社ふくしごと』の代表も務める橋爪さんだったのです。『工房まる』のアーティストとのコラボレーションで、建物の室内にウォールアートを描く「ハコザキ Wall Art with maru works」を実行しました。


障害のあるアーティスト達に、ボランティアではなくビジネスとして絵を発注。九大の学生ボランティアを募り、多くの作業協力を得ながら壁画へと完成させていきました。ウォールアートのテーマは、グラミンソーシャルビジネスの根本となる、人間の持つ「無私」の心。「人のために、社会のために何かしたい」そんなグラミンソーシャルビジネスの原動力と言える心を表現した、鳥肌の立つような素晴らしい壁画が誕生したのです。同時に『SBRC』のロゴにも採用され、作者である『工房まる』の大峰氏はソーシャルビジネス界ではかなり名の知れた存在になっているそうです。


色鮮やかでインパクト抜群のKousuke氏の壁画(左)と、 SBRCのシンボルとなった大峯氏の壁画(右)。

障害のある人とない人が入り混じり、同じ場所で同じ時間を共有して達成したこのプロジェクトの形態は、『日々のてまひま』が目標としているソーシャルビジネスのカタチそのもの。一連のプロジェクトの当事者たちが、「Thank you!グラミンハウス」パーティに再び集結。当時の想いと『日々のてまひま』のソーシャルビジネスとしての可能性を、パーティのトークライブで熱く語ってくださいました。

≪トークライブ≫ 障害者とソーシャルビジネスの可能性


左から株式会社ふくしごと橋爪代表、SBRCエクゼクティクティブディレクター岡田教授、工房まる吉田施設長

ユヌス&椎木ソーシャルビジネス研究センター グラミン・クリエイティブ・ラボ@九大 エグゼクティブ・ディレクター 岡田昌治 教授
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工房まる 施設長 吉田修一さん
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株式会社ふくしごと 代表 橋爪大輔

壁画を描くプロセスこそが、ソーシャルビジネスの形そのもの

『グラミンハウス』に描かれた、ふたつの大きな壁画。この作品を選んだ決め手は何だったのでしょう?「‘障害のある人が描いた絵’だからではく ‘素晴らしい絵’だったから彼らの絵を選びました。アーティストとしての能力を認めて採用したのです」と断言されていたのは、SBRCエグゼクティブデレクターの岡田教授。「障害者として一括りにするのではなく、ひとりの個として考えた時に、ひょっとしたらすごいアーティストがいるのではないか。アーティストとして十分生きていける人、自立できる人を探したかった」と期待を込めて発注されたそうです。

コンペをはじめるにあたって、まずは『工房まる』のアーティスト達に「グラミンハウス」を訪問してもらい、ソーシャルビジネスとはどんなものかをレクチャー。『工房まる』のみんなでイメージを話し合った後、それぞれが自分の世界に入って絵を描いていくというプロセスを踏みました。


グラミンハウスを訪問して、ソーシャルビジネスの勉強。どんな空間でどんな人たちが働いているのか、実際に肌で感じてもらいました。

工房まるのアーティスト達が、いろいろな画材を使って思い思いに描きました。

50枚を超える応募作から、大峯氏とKousuke氏ふたりのアーティストを選出。同時に彼らをサポートするためのチームが編成され、『アナバプロジェクト』のスタッフだけでなく、九州大学の教授や学生たちも巻き込みながらウォールアートの制作が進められていきました。


大峯氏とKosuke氏だけでなく他のアーティスト達も参加して、工房まるの作品として制作。九州大学の学生さんたちと協働で制作していきました。

公開制作で最後の仕上げ。完成の瞬間は、工房まるのアーティスト達やスタッフ、九大の学生、来場者とで感動を分かち合いました。

障害のある人もない人も交じり合う時間

このプロジェクトを振り返り、『工房まる』代表の吉田さんが次のような発言をされていました。「工房まるだけでは、このような仕事は絶対にできません。しっかりしたマネージメントと、丁寧なサポートがあったからこそ完成できたんです。九大関係の方もアナバプロジェクトも工房まるも、ただ‘壁画を完成させること’だけを目標に一丸となって取り組んだ。その過程で、みんな心が豊かだったはずです。それは障害のある人も含めたチームになっていたから。ある意味この社会が目指すべき関係性を、ひとつ形にした仕事だったと思います」。


社会と福祉が分かれるのではなく、障害のある人もない人も共に交じり合っている社会こそが、『日々のてまひま』の目指す社会のカタチ。このようなプロジェクトが特別な時に行われるのではなく、日常のいろんな場面で生まれていくことが、共生社会を実現させることに繋がるのでしょう。「実はグラミンハウスのプロジェクト中に、岡田教授からソーシャルビジネスの話をたくさん伺ったことが、僕らがこの事業に取り組むきっかけになったのです」と、橋爪さんが振り返ります。ソーシャルビジネスとの出会い、そしてグラミンハウスでのプロジェクトが、『日々のてまひま』のビジネスの基礎となっているのです。

みんなでパーティをつくろう!

障害のある人もない人もみんなが交じり合う社会…「Thank you!グラミンハウス」パーティの会場でもその世界感が垣間見られました。Kosuke氏の壁画のある部屋では、『工房まる』のメンバーによる壁画のライブペインティングが行われ、同時に、参加者とメンバー達が思い思いに、テープやカッティングシートで床を彩りました。障害のあるアーティストと参加者が、ともにひとつの空間で同じものを作り上げていく。話し込んだり、ハサミを貸しあったり、時には一緒に合作したりと、みなさん気負うこともなくごくごく自然に。
このパーティそのものが『日々のてまひま』の目指す社会の縮図となっていたのです。


部屋の壁画を手掛けたKosuke氏も参加。グラミンハウスへの想いを表現したり、メッセージを残したり、みなさん自由にアートワークを楽しんでいました。

工房まるのアーティスト、石井氏と陽子氏によるライブペインティング。真っ白だった壁が、みるみるうちにカラフルで迫力ある空間に。

ついに完成!! 賑やかな空間にKousuke氏の壁画も喜んでいるようです。

アトリエブラヴォによる缶バッチ制作も大好評。

もはやアート。大峯氏の壁画のある部屋には、ソーシャルビジネスをイメージして作られた色鮮やかで美味しそうな料理が。

これが見納めだなんて信じられないくらいの盛況ぶり。最後は参加されたみなさんで、ハイ!ポーズ。そうそう、この風景こそが、日々てまワールド!

次回予告

私たちの周りにあふれている広告物やパンフレット。そこにも障害のあるアーティスト達の作品がたくさん使われています。障害者のアートをもっと社会とつなげるために、『日々のてまひま』のアート事業第二弾が動き出します。次回は、この一年間のふりかえりと、これからはじまる「障害者のアートを発注する社会へ」の取り組みをお届けします。

※写真素材の一部は「株式会社ふくしごと」にご提供いただきました


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