日々のてまひまの日々

ウォールアートで 福祉と社会をつなぐ日々 (前編)


『studio nucca』併設のショップで一際目を惹いた作品。世界で唯一「ボンド」を使ったアートで活躍中の冨永ボンド氏と、福祉施設『studio nucca』のメンバー達がコラボしたもの

現在、『日々のてまひま』が力を入れて展開しているプロジェクトが、障害のあるアーティスト達の作品を使った、ウォールアートや販促物作成などのアート事業。その一環として、この秋、賃貸物件のウォールアートを手がけることが決定しました。

ウォールアート制作を担当するのは、久留米市にある福祉施設『studio nucca』。アート活動や創作活動を中心に、オリジナルグッズの制作・販売を手がける、アトリエ型就労支援事業所です。


爪楊枝を使って緻密にアートを描く人、大胆に色を塗り重ねる人、利用者のみなさんは思い思いの創作に没頭しています

ウォールアートを描く現場は、西鉄久留米駅から車で9分ほどの賃貸物件『セルフリノベーションコクブ』です。実はここ、仕切りや壁紙などが撤去されたスケルトン状態の部屋を、入居者が自由にカスタマイズすることができる賃貸物件なのです。話題性十分のこの物件の階段室壁面に、約一ヶ月かけて『studio nucca』がウォールアートを描いていきます。


内装を取り壊して現れたコンクリートむき出しの空間に、センス良くコーディネイトされたリノベーションモデルルームを公開中。

想定外のアイディアが溢れ出す

今回のプロジェクトは、どうやら「障害のあるアーティストに壁画を描いてもらう」だけのものではないようです。『株式会社ふくしごと』代表の橋爪さんは、「ウォールアート制作を通して、福祉施設に事業の1つとして制作行為を捉えてもらうのが、このプロジェクトの大きなねらい」だと言います。ウォールアートをひとつの事業として成り立たせるためのノウハウを、福祉施設のスタッフと企画から実践していくのです。


studio nucca利用者さん達による作品。’アーティスト’と呼ぶのも納得のクオリティの高さです。

企画段階から、『studio nucca』のスタッフの皆さんと綿密な打ち合わせをして下絵の作成に入ります。今回のウォールアートのテーマは「創造と刺激」。『studio nucca』のスタッフと利用者が実際に現場に赴き、その情報を施設に持ち帰って、与えられたテーマからイメージするキーワードを紙に書き出していくという作業をしました。キーワードをもとに14名の利用者さんたちが思い思いに絵を描き、70もの作品が完成。ウォールアートの現場となる賃貸物件のオーナー白石さんも交え、イメージに近い絵を選んでいきます。


ずらりと並ぶ作品を、人物画、建物、抽象的なもの、パターンになるもの、というようにジャンル分けしていきました

一番多く挙がったキーワードが「人」。中央の絵は、男と女がすれちがい、握手して、別れ、そして抱き合う…というまるでドラマのような展開を描いたもの

次に多かったキーワードが「虹」。同じキーワードで描いていても、アーティストによって表現はさまざまです

それぞれの作品に込められた思いを伺いながら、ウォールアートとして実現できそうな作品をしぼっていきます

最終候補が、この2作品。左はボルタリングをイメージ、右は一本の線で緻密に書き込まれた地図のような町

「入居者が毎日通る場所なので、抽象的な方が飽きがこなくていいですね。空間にパターンとして展開できそうな2作品をまずは選びました」と橋爪さん。2つの候補作品を手に、実際に絵を描く建物へと向かいました。


ウォールアートを施すサンコーポシライシ

セルフリノベーション賃貸予定の部屋は改修工事の真っ最中

アパートのオーナー、白石さん(写真左)も駆けつけてくださいました。写真右が株式会社ふくしごと代表の橋爪さん。

1階から5階までの階段室にウォールアートを施していきます

階段の壁に候補の絵を当てて、ウォールアートのイメージを確認

『studio nucca』のスタッフも真剣に白石オーナーの思いに耳を傾けます

ボルタリングの絵にするか、それとも地図の絵にするか…。階段室でオーナーと『studio nucca』のスタッフも交えて議論が繰り広げられます。「ボルタリングの絵は、本物を入れてみても面白いかも」なんてアイディアが白石オーナーから飛び出したりして、現場はワクワク感いっぱい。その結果、決まったのは地図の絵。決め手は「黒の大人っぽい単色づかい」だったようです。

次に『日々のてまひま』が出した課題が、「階段室へのレイアウトまでを含めた、絵のアイディアが欲しい」というものでした。10日後。再び久留米を訪れた『日々のてまひま』スタッフを驚かせたのが、2メートルにも及ぶ大きな一枚の紙。地図の絵をヒントにスタッフが描いた線に、14名の利用者さんがそれぞれに絵を加えて表情豊かな「自分たちの町」を描き上げていたのです。


目の前にあわられた巨大な街並みに、壁画のイメージも膨らみます

学校や公園、住宅街はもちろん、ケーキ屋さんに銀行、パチンコまで!宝探し感覚で隅々までじっくり見たくなります

スタッフさんが撮影した写真に線を描いて、壁画のデザインイメージも提案しててくださいました

この巨大な街並みの絵の中から、ある一部分を切り取って壁画としてのデザインを組み立てていくことに決定。ウォールアートプロジェクトが大きく前進しました。

11月、いよいよアートが動き出します

ウォールアート作業は1ヶ月もの時間をかけて、ゆっくりと進行します。身体を自由に動かすことができない利用者さんや、車椅子で高いところに手が届かない利用者さんもいらっしゃるので、実際のペインティング作業は、学生等によるボランティアの手を借りながら共同で現地作業をすることに。
実は、ここにも『日々のてまひま』のもうひとつのねらいが隠れていました。
「単に絵を描くことだけが目的ではないんですよ。障害のある人とない人が一緒にひとつのことをやり遂げる。このことをきっかけに新しい関係が生まれるんじゃないかと思うんです」と橋爪さん。『日々のてまひま』が常に思い描いている「障害のある人とない人が入り混じる時間と空間」がまさに実現しようとしているのです。

公開ワークショップ決定!

11月14日(土)・21日(土)10:30〜14:30
ウォールアート作成現場を一般公開します。
お問い合わせは 株式会社ふくしごと もしくは日々のてまひまfacebookページまで

studio nucca(スタジオ ヌッカ)

幼児期から成人期まで切れ間のない支援を行う『Like Lab(ライクラボ)』が運営。障害のある18歳以上の方を対象に、絵画や陶芸などの創作活動を行うアトリエ型就労系事業所です。利用者の作品は併設のショップで販売。全国から選りすぐった福祉施設のアート雑貨も多数取り扱っています。

さて、いよいよ階段室に筆が入ります。一体どんなウォールアートが完成するのでしょう? 実は、このウォールアートのモデルとなったプロジェクトが、4年前におこなわれていたのをご存知でしょうか? 後編では、『日々のてまひま』の始まりともいえる、あるウォールアートの記録をお届けします。


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