ハカタリノベカフェ2015秋

空きビルを期間限定カフェに! リノベーションの現場に潜入

空きビルを期間限定カフェに! リノベーションの現場に潜入

「壊して新しくつくる」ではなく「あるものをどう活かせるか」。
『ハカタリノベーションカフェ』は文字通り、「リノベーション」がコンセプトのひとつだ。オープン前には、一般の方も参加してのリノベーションワークショップを2日間にわたり開催。もともとオフィスとして利用されていた空間が、見事カフェに生まれ変わった。第3話では、リノベーションワークショップに潜入した。シンプルな素材とクリエイティビティあふれるアイデアで完成した空間は、いったいどのようにして生み出されたのだろうか。

今回お話をうかがった方

小石俊輔
小石俊輔さん
株式会社ダイスプロジェクト 建築・空間部門所属。ハカタリノベーションカフェでは、空間の設計・施工管理を担当。

今あるものの、新しい使い道を考える

ちょっと前までの不動産の有効活用といえば、まず頭に浮かぶのは売却や建替だった。しかしここ最近よく耳にするのは「リノベーション」という言葉。その意味は「建物を壊して新しく建替えるのではなく、ある空間を改装することで用途や機能を変え、空間や建築物の価値を高める」こと。素材をいかに活かせるかは、“ストック型社会”として世界でもすでに注目されている考え方だ。 たしかに、古い物件を建て替えるよりも比較的低コストで、付加価値の高い空間に生まれ変わらせることができれば、それに越したことはない。ビルのオーナーにとっても、所有している建物を開放してじょうずに再生させることで、建物も生き、資産価値的な側面も上がるに違いない。

今回のハカタリノベーションカフェも、文字通り「リノベーション」が大きなコンセプトだ。カフェ準備期間中の9月某日、まだ「カフェ」と呼ぶにはほど遠い状態の空きテナントに、年齢、性別、職業、ばらばらの約30名が集まった。


店内before写真。今回の会場となったのは、以前レンタカー屋さんだったという空きテナント。壁、天井、照明、どれをとってもザ・オフィス

実はこのワークショップの少し前に、カーペットを取り外す作業が先行して行われていた。ケレン棒という道具を使ってカーペットを一枚一枚剥がし、床に付いた接着剤も丁寧に削ぎ落とす。なかなかの重労働だ

いよいよ迎えたワークショップ当日。約30人の参加者は3グループに分けられ、まずは自己紹介からスタート。その後、各グループを講師1人がリードしながら作業を進めていく

ひとつの素材がさまざまに変身!

今回リノベーションのために用いられた素材は、木製パレット。主に物流に用いられ、荷物を載せてフォークリフトで運ばれる、すのこ状の、あの荷役台のことだ。


物流センターなどで積み上げてあるのをよく見かける、木製のパレット。今回使用したパレットの数は300枚に及んだ

まずはパレットを用いた空間の仕上がりをイラストでイメージ。間取り図にも、パレットがどのシーンでどのくらい必要かを細かく書き込んでいく

木製パレットでのリノベーションを発案したのは、ハカタリノベーションカフェを企画から運営までトータルにプロデュースしているダイスプロジェクトの小石俊輔さん。「パレットは軽くて持ち運びが容易なほか施行性も高く、家具や空間などDIYの新しいツールとしてけっこう使えます」という小石さん。とはいえ、木製パレットを使用してリノベーションされたという例はまだまだ少ないのが現実。
そんな中、ベンチ、テーブル、カウンター、そしてウォールにいたるまで、パレットひとつで空間全体を構成しようと試みられたのが今回のワークショップだ。木製パレットは積み替えるだけでさまざまなシーンに対応できることや、比較的低コストで手に入ることから、今回のような短期プロジェクトにはぴったりの素材なのだ。


メインエントランスにパレットを取り付けるため、まずは幅や高さを測るところからスタート

サイズに合わせ、インパクトドライバーでパレットをひたすら取り付けていく

空きテナントだったビルの外観が、パレットひとつでがらりと変わりはじめた。道行く人もすでに足を止めるように

パレットをカットするワークショップ講師の小石さん。技術をともなう内容や危険な作業は、基本的に講師のしごと。手際良くなんでもこなす小石さんは、内装屋の現場監督だった経験がある

カットされたパレットを重ねて、結束バンドでしっかりと固定。これを数段重ねていって、ベンチやテーブルを制作する。シンプルだけど、丁寧さが要求される地道な作業

カフェになる予定のメインルームには、パレット製のカウンターも制作中。ところで今回のワークショップ、学生や女性も多く参加しているのが印象的だった

ささくれ立ったパレットが指に刺さったりしないように、サンドペーパーでひたすら研磨。ときに談笑、ときに黙々と作業するみなさん

本来の意味を“読み替える”=リノベーション

今回の空間の一番の特徴ともいえるのが、カフェの奥に広がる中庭だ。真上から差し込む光が贅沢なこのスペースには、来場者が思い思いに過ごすことができるようにさまざまなサイズや形のパレット製ベンチやテーブルが配置され、一区画は子どもがよじ登って遊んだりもできそうなプレイグラウンド的なスペースも用意されている。またエントランスから中庭に通じる通路は、まちづくりにかかわるさまざまな展示スペースとして大変身。道行く人がふらっと立ち寄って中庭で佇む、なんてこともできる。
「現状のままでもできることはあるというのが、プロジェクトの考え方としてあるんです」と語るのは、ダイスプロジェクトの橋爪大輔さん。その言葉通り、今回のリノベーションでは大掛かりな工事などはいっさい行われず、すべてDIY可能な範囲でリノベーションが施された。木製パレットで空間のさまざまな演出を試みる一方、もともと空間が持っているポテンシャルが極力活かされたつくりに仕上がっている。


がらんどうとした中庭のスペースは、まず掃除から。塗装予定の壁や屋根の内側についたホコリも丁寧に落とす

きれいになったところで、ペンキ塗り開始!「白は空間に広がりを持たせてくれる」と小石さん。砂利が敷かれただけの中庭の表情ががらりと変わる

参加者からは「リノベーションのいいところは、子どもも楽しめるところですね」という声も。ワークショップにはダイスプロジェクトの橋爪さん(写真左の左側)や、1話で登場した「まち協」の原槇さんの姿もあった(右)

カウンターの天板に使用するための板を黒く塗る。2日目に入って作業がスピーディーになってきた参加者のみなさん

リフォームは「原状回復」という意味合いが強いのに対し、リノベーションには「新しい価値を与える」という意味が含まれているという小石さん。「そのモノが持っている従来の役割や意味合いを“読み替える”という作業が可能なのが、リノベーション。リノベーションカフェというからには、“読み替える”ことで新しい価値を与えたいという想いがあったんです。パレットは、それにふさわしい素材だなと思いました」と話す。空き物件をカフェにすることは、空間の読み替え。そして木製パレットをカフェの内装に使用することも、素材が持つ役割の読み替えだ。


こうして生まれ変わったハカタリノベーションカフェ。ロゴや照明が加わり、さらに見違えるような佇まいになってきた

中庭へと続く通路は、まちづくりのための展示スペースに。通りすがりの人でも、気軽に立ち寄れるつくりになっている

砂利が敷かれていただけの味気のなかった中庭も、ゴージャスに仕上がった。奥にはスタンドも設置。夜は21時まで営業しているので、仕事帰りに一杯楽しむのもいい

中庭の一区画に設けられたラウンジスペースは、子どものためのプレイグラウンドとしても使用可能。「よじ登ってもいいよ」とスタッフに促され、子どもが楽しそうに遊んでいた

オープン前日には、関係者が大勢集まりカフェの誕生を祝った。生まれ変わった空間に新しい役割が与えられ、いよいよスタートのときを迎える

照明や物販によってさらに魅力あふれる空間に。木材が基調なので雑貨や家具にもよく似合う

今回のワークショップの講師を務めたダイスプロジェクトの小石さん(左)と小野さん。本当にお疲れさまでした!

残りわずかとなったハカタリノベーションカフェは、“社会実験”の場として日々変化中。学生プロジェクト講評会の場になったり、市の未来構想を語る場になったり、はたまたヨガ教室が開かれたりと、日々新たな交流が生まれているようだ。まだという方は、元の空きビルに戻ってしまう前に、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろう。

【プロジェクト情報】

ハカタリノベーションカフェ

期間:10月1日(木)〜31日(土)
営業時間:11:00〜21:00
住所:福岡市博多区博多駅前3丁目29-21 貝真ビル1F


出店店舗

サンドイッチ専門店「イグニッション・スイッチ」(10月1日〜15日)
パン、コーヒー等「CAFÉ SONES」(10月16日〜31日)
植物「日比谷花壇」(10月1日〜31日)
本「ブックスキューブリック」(10月1日〜31日)
アンティーク雑貨「Marin ford」(10月1日〜31日)

【第4話予告】

もうすぐ幕が下りるハカタリノベーションカフェ。会期中に催されてきたイベントや、起きたさまざまなエピソードを振り返りながら、カフェが博多のまちづくりにどんな役割を果たしたのかに迫りたいと思います。


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