やました農園土づくり奮闘記

<<いちごの“旬”はいつ?>> 無農薬栽培をあたり前の世の中にしたい!と願うやました農園の葛藤と挑戦

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<<いちごの“旬”はいつ?>> 無農薬栽培をあたり前の世の中にしたい!と願うやました農園の葛藤と挑戦

食べ物の旬が分からなくなったと言われる昨今。スーパーに行けば、夏場でも冬の食材がずらりと並び、消費者側もその感覚が麻痺しているのは確かです。消費者の「欲しい!」を叶えるために、栽培方法を変えることにより旬は失われていく。実はいちごも例外ではありません。やました農園は、市場と消費者のニーズをどう捉え、どのような選択をしているのか? 話を聞くと、彼らの本当の意味での“無農薬栽培への想い”が見えてきました。

真っ赤ないちごが収穫されずにハウスで腐っている!

突然ですが、いちごの旬はいつでしょう?クリスマスシーズンにはスーパーに並ぶから…冬…?なんて頭を巡らたのは、きっと私だけではないはず。

答えに自信がないままマナミさんとアレコレ話していると、いちごを取り巻くこんなお話しが出てきました。
「本来、いちごの旬は春。4月、5月にだけ実がなるのが自然です。だけど、いちごは冬にも求められていて、特にクリスマスは需要マックス!この時期だけは、破格のお値段がつくんです。びっっっくりですよ!!なので一般的に、いちご農家はクリスマスにいっぱい実がなるよう栽培の調整をするんですね。でも、たくさんいちごがなる春先は、寝る間を惜しんで働いても、価格はめっちゃお安いんです。ぐったりな上に、がっかり!で、収穫しきれないから、ハウスを1棟ずつ放棄していくんです。真っ赤に実ったいちごが放置されて、そのまま腐っていく。JAや市場に出荷してるいちご農家はみんなそうしていると言うんです。人手さえあれば収穫できるのに、いちごがあまりにも安くて人件費分にもならないんですね。いちご農家になりたての頃は、初めて知る事だらけでしたけど、これほどショックなことはなかったかな」。衝撃的ないちご作りの裏事情。当たり前のように口にしている農作物全てにおいて、このような悲惨な事態が起きているのではないかと想うと胸が痛みます。


3年前の取材で撮影させていただいたやました農園のいちご。ふっくらとルビーのような美しい姿でした

現在、やました農園では、市場で競られてスーパーなどで売られるという一般的な販売ルートを取らずに、直販売やお店と直接取引きをして販売しており(今年は12月か1月に実がなり販売を始める予定)、価格には大きな影響はないようです。しかし、大半のいちご農家さんの場合は、形の美しさや時期によっての価格差が激しいため「クリスマスには一発当てたい!」という思いがあるのは自然な流れなのだと思います。
そのため、実を早くつけさせる目的で肥料を切ったり、苗を冷凍庫に入れて成育を促したりと、様々な手法を使ってクリスマス商戦に挑む農家さんも多いのだと言います。旬のものを美味しく食べるという健全な流れに逆行するような循環を生んでいる、その責任の一端は、私たち消費者にもあるのは事実です。

成功も失敗もすべて共有して、無農薬栽培を当たり前にしたい!

「もちろん、旬に採れるいちごだけを栽培するという道もあります。でも、私たちが目指しているのは“無農薬のいちごがふつうになること”。本来なら、野菜も果物も旬の時期のものが健全で、体にもいいはずですよね。だけど残念ながら需要を変えることは難しい。いちごは冬の寒い時期にも求められているから、ハウス栽培はやむを得ないと思っています。こういう事情のなかでも、いちご農家さんが無農薬栽培にチャレンジできる方法を模索しています。畑の状況も農家の事情も様々だから、“こうやればバッチリ!”なんて方法はなさそうです。とにかくたくさんの経験と知恵が必要で、自分たちだけでは決してできない。失敗も成功も共有して、農家だけでなくいろんな分野の人たちとも連携してやっていきたいと思っています」。

やました農園の追っかけ取材を始めて早10ヶ月。マナミさんと様々な話をするなかで「できるだけ、偏らないでいたい」という言葉が出てきます。ストイックに突き詰めれば、想いを共有する人だけが集まり、閉じた社会のなかで関係性が成り立つ危険性を感じているのも確か。想いは捨てずに、無農薬という今はまだマイナーな世界とメジャーな市場を考慮した上で、その狭間を模索しながらやました農園は土作りに励んでいるのです。

《今月のやました農園の畑仕事は…?》

暑さがようやく和らいできた9月中旬、いちご農家の一大イベントの「定植」が行われていました。ポットに入れていた株をいよいよ地植えする作業で。ポットの苗の枯葉をひとつずつ取ってダメージの強い苗を除き、ハウスに運んで、発根を促すために微生物液につけて、苗を畝に並べて、土をかけて…と作業がてんこもり。大人も子どもも植え方を聞きながら、慎重に作業を進めます。


『定植フェス』初日の様子。応援に来てくれた皆さんで、応援倶楽部メンバーの手作りごはんをいただいたそうです。いろんな話をしながら楽しい時間だったとか

畝に苗を配っていきます。写真は中川さんご家族。「いつも背中におんぶして手伝ってくれるんですよ。その姿に感動です!」とマナミさん

定植の前に発根を促すために微生物液につけます。苗が弱らないように、根に液をつけてから植えるまでの時間が勝負

『定植フェス』2日目は、夜までかかってやっと完了!「スーパームーンの夜、ヘトヘトだけど笑い声の中で植え終わりました。大感謝!!」

いつも悩まされるヨトウムシ(蛾の一種)に「こっち来んといて!」と願いを込めて、畑には緑のLEDと黄色の『防蛾灯』が登場しました。緑のLEDはマナブさん渾身の自作です!

収穫は早くて12月の中旬頃から。真っ赤でつやつやしたルビーのようないちごは実るのか!?期待と緊張が入り混じる定植の作業。2ヶ月後が楽しみです!

(写真/山下マナブ 取材・文/ミキナオコ)

次回は…!?マナミさん、そろそろ原稿かけますかぁ〜?いつかの《腸内フローラと土作りの関係》の続きがいよいよ?!


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