ハカタリノベカフェ2015秋

「都市のなかのくつろぎの空間」博多のまちの“これから”をハカタに集う人たちが語る。

「都市のなかのくつろぎの空間」博多のまちの“これから”をハカタに集う人たちが語る。

10月1日にオープンを迎えたばかりのハカタリノベーションカフェ。その構想は、4年間にわたり水面下で練られてきた。当時開通したばかりの九州新幹線と、日本最大規模の駅ビルの誕生は、まちづくりの大きな一歩だったのだ。それから4年。博多のまちは、今どのように変わろうとしているのか。そして今後どのように変わっていくのか。そこには、まちづくりに奔走する人たちの熱い思いが込められている。
第2話では、ハカタリノベーションカフェのプロジェクトに取り組む2人のキーパーソンに話を聞いた。

今回お話をうかがった方々

大坪恵太郎
福岡地所株式会社 開発事業本部課長。
大坪恵太郎
博多まちづくり推進協議会 開発部会の窓口的存在として、ハカタリノベーションカフェをはじめ、さまざまなまちづくりプロジェクトに日々取り組んでいる。
橋爪大輔
株式会社ダイスプロジェクト 代表取締役社長。一級建築士。
橋爪大輔
ハカタリノベーションカフェでは、企画段階から戦略のサポート、広報、空間デザイン、運営まで、トータルプロデュースを手がける。

オフィス街に育ちはじめた、“歩いて楽しいまち”

——ハカタリノベーションカフェがオープンして10日ほど経ちましたが、周りの方々の反応はいかがですか?

大坪さん(以下大坪) おかげさまで、連日たくさんの方々に足を運んでいただいています。近隣にお勤めの方や通りすがりの方も、「何ができたんだろう?」と興味を示してくれて、立ち止まって中を覗いたり、お店にフラッと立ち寄っていただいたり反応を示してくださいます。

橋爪さん(以下橋爪) 先日おこなわれた「ゲストハウスナイト」は、立ち見が出るほど盛況でした。


ハカタリノベーションカフェをトータルにプロデュースされている、ダイスプロジェクトの橋爪さん

——さっそく賑わいが生まれているのですね。
このカフェの主催「博多まちづくり推進協議会」さん(以下、「まち協」)。は、博多駅周辺の企業などで構成された団体ということですが、そのなかでもお二人がどのような会社に所属されているのかお聞かせ下さい。

※「まち協」の詳しい説明については1話をご覧下さい。

大坪 私が働いているのは福岡地所というところです。不動産の会社で、オフィスビル、住宅や「キャナルシティ博多」、「マリノアシティ」、「木の葉モール」など、福岡にあるいくつかの商業施設の開発・管理・運営をしています。

橋爪 僕の会社(ダイスプロジェクト)は、建築や空間デザインをはじめ、プロダクトデザイン、広告などを軸に、都市開発や不動産の企画コンサルタントなどを行っています。今回のプロジェクトはこういった業務の一環として協力させていただいているのですが、もう一方で会社が博多という場所にあるということもあり、そこで活動している一企業として博多駅前地域のまちづくりに参画しているという状況があります。

——それぞれが「まち協」の一員でもあると同時に、まちづくりにかかわっていらっしゃる企業でもあるということですね。
今回のハカタリノベーションカフェ開催にいたる経緯はどのようなものですか?

橋爪 結論から言うと、博多駅とキャナルシティをつなぐ「はかた駅前通り」を活性化させる、そのきっかけをつくろうというのが今回のプロジェクトです。

大坪 博多駅を一日に利用する人の数は約35万人です。そのなかには周辺で働いておられる方、買い物に来られた地元の方、観光目的で来られた海外の方……本当にさまざまな方々がいます。その駅から一歩外に出た目と鼻の先にあるのが、九州最大規模のショッピングモールである「キャナルシティ博多」です。ショップ、レストランを併せて250を超える店舗が入っていて、ファミリー層や海外観光客の方々に高い支持を受けています。今回のハカタリノベーションカフェがある「はかた駅前通り」は、まさにこの2つをつなぐメインストリートなんですね。にもかかわらず、快活な雰囲気からはちょっと遠いのが現状なんです。


「まち協」開発部門の窓口として日々博多のまちづくりに取り組む、福岡地所の大坪さん

橋爪 というのも、この一帯はオフィス街として形成されてきたエリアなので、なかなか商業ベースで開発されてこなかった。今でも「オフィス」「夜の赤提灯」「雑居ビル」というイメージが強いと思います。

大坪 だからといって、はかた駅前通りに新しい店をどんどんつくれるかというと、そうではないんですね。周辺を含めたエリア全体を少しずつ元気にしていく必要があります。

橋爪 はかた駅前通りがメインストリートだとすると、その後背地、つまりバックストリートをまずは活性化させることが、メインストリート全体の賑わいにつながっていきます。雑居ビルの空いているスペースに、新しい発見や楽しみをもたらしてくれるようなコンテンツが入ってくれば、まちが元気になって回遊も高まります。

大坪 このあたりで働いている人たちにとっても、いつもの風景が新鮮に見えてくるのではないかと期待しています。


キャナルシティ側から見た「はかた駅前通り」。オフィスビルが目立ち店舗はまだまだ少ないが、キャナルシティと博多駅を徒歩圏内でむすぶメインストリートだ

さまざまな人を相互につなぐ場所としてのカフェ

ーー今回リノベーションという手法をつかわれた理由はなんですか?

大坪 空きビルといっても、建替えるにはコストもかかるし時間もかかる。だからといってそのまま寝かせて空室にするよりは、資産を活かすほうが賢いですよね。リノベーションのやり方によっては、変哲のない古い部屋でもすごく輝いて見えるようになる。ダイスプロジェクトさんの得意分野ですね(笑)。

橋爪 ありがとうございます(笑)。「現状のままでもできることはある」というのが、プロジェクトの考え方のひとつですね。まちというものは、決して大きな開発じゃなくても、プレイヤー(事業者)のセンスや訪れるお客さんたちによってどうにでも変わると思っています。

大坪 もうひとつ、自分たちの手でこれだけできるんだと知ってもらうことも、リノベーションが持つ大きな役割です。大掛かりな工事が必要なのでは簡単に実践できませんから。

橋爪 今回使用した素材も、パレットと呼ばれる比較的安価な木材で、素人でも十分に扱うことができた。照明や植物など、仕上げの細かい演出はもちろんプロにお願いしましたが、僕も参加した準備期間中のワークショップでは、ほぼすべてを参加した人たちだけでつくり上げました。


準備期間中には、一般の方も参加してのリノベーションワークショップが開催された。輸送用のパレットを用いて椅子やテーブルなども自分たちの手でつくる

さまざまな人たちが、さまざまな目的で訪れるハカタリノベーションカフェ。カウンターやウォールなども、パレットを用いて制作。パレットひとつで空間に多様な表情がうまれる

会期中前半はサンドイッチ専門店「イグニッション・スイッチ」さんが出店。手づくりサンドイッチや飲料、焼菓子などがカウンターに並ぶ(10/16~31はカフェソネスさんが出店されます)

大坪 こういったプロセスも含め、ビルのオーナーの方々に「ああ、面白いことができるんだな」「自分の空いている部屋もリノベーションして店にしたいな」と思ってもらえると嬉しいですね。前回は5日間だけだったので地権者の方を呼びきれませんでしたが、今回は期間が長いので、そういう方々に「こういうまちにしていきましょう」と伝えることも、目的のひとつです。

橋爪 「まち協」って、会員数は多いけれど地権者さんはまだまだ少ないので、徐々に増やして一緒にまちづくりができるようにしていきたい。これは結構大きな命題ですよね。

大坪 その素地作りを毎年地道にやっているという感じですね。

橋爪 色々な取り組みをやろうと思っても、地権者の方が関心を持っていないとその活動も迷惑な話というだけで終わってしまう。地元の方々の協力なくしてまちづくりはできませんから。

ーーハカタリノベーションカフェはビルのオーナーさん向けのプロジェクトでもあるんですね。

大坪 そのとおりです。しかし一方で、事業者の方を誘致するためのプロジェクトでもあります。カフェに入っているテナントには、飲食を提供してもらうだけではありません。このエリアでも実際に運営できるしお客さんもくるということを実感していただきたい。そしてゆくゆくは出店までつなげていきたいと思っています。

橋爪 博多駅とキャナルシティ間の立地というだけで、大きなポテンシャルですよね。そこに気付いて欲しい。ハカタリノベーションカフェは、飲食店オーナーなどクリエイティブな事業をやっている方々と地権者の方々をつなぐきっかけになるというのが、僕らがこのプロジェクトのポイントにしていることなんです。

大坪 本当は、プロジェクトと関係なくこのエリアに魅力的な店舗がどんどん増えることが一番の目標なんです。飲食店が興味を持つということは、一般の方が興味を持つということ。その相乗効果というか、好循環にはやく乗せていきたいですね。

橋爪 一般のお客さん、事業者さん、地権者の方。カフェという空間にかかわるさまざまな人たちが相互にかかわりあうことで、まちが元気になっていく。カフェは、そのきっかけをつくっているだけなんです。


中庭へと続く通路はまちづくりに関する展示スペースに大変身。奥にはバーカウンターも設置され、夜になるとムーディーな空間が創出される

中庭はこんなかんじ。座って談笑するもよし、寝転んで昼寝するもよし。外観からは想像できないような自由な空間が広がっている

まちづくりとは、それぞれのリソースを持ち寄ること

ーーキャナルシティという大型施設を持っている福岡地所さんが、どうして裏通りのまちづくりにも力を入れておられるでしょうか?

大坪 施設だけでいいかというとまったくそうではなくて、施設周辺の回遊も促したい。会社(福岡地所)がまち協に参加している理由はここなんですね。

橋爪 まち全体を盛り上げていくことが、結果的に施設の盛り上げにもつながるわけですね。

大坪 もっと言えば、博多だけじゃなくて福岡全体を盛り上げる。それも世界の都市間競争においてです。そのためには、博多駅を出たときに「すごく魅力的なまちだね」と思ってもらえるようなまちをつくる必要がある。われわれ(福岡地所)は決してこのエリアに沢山の物件を持っているというわけではないんですが、やる意味は十分にあると考えています。

橋爪 まちが元気になったら、そこで事業している人たちも結果的に良くなっていく。そういう考え方を持った事業者さんが多いまちは、やっぱり魅力的です。逆に自分のところしか考えてなかったら、まちに寄与または関与していくことはできないでしょう。

大坪 そういう意味で、キャナルシティだけが元気であればいいというよりも、博多というまちのブランド価値を一緒に上げていきたいですね。

橋爪 まちづくりって、個人個人ができるリソースを持ち寄って一緒に何かをやることだと思うんですよ。たとえば福岡地所さんがやってらっしゃる商業施設の管理・運営は僕ら(ダイスプロジェクト)にはできないことだけど、その代わりに自分たちができることは努力したい。コンサルタントとして裏方で作業する立場もあれば、プレイヤーとして事業を始めることがあるかもしれない。そして「まちをデザインする会社になりたい」という僕ら(ダイスプロジェクト)のビジョンに少しでも近づきたいですね。

大坪 このお互いのリソースを持ち寄るからこそ、3倍にも4倍にも良いものができる。うちの会社はここまで、あなたの会社はそこまで、という線引きは、まちづくりでは通用しないですよ。

橋爪 でもこうやってお互いがまちに興味を持って魅力的な活動を続けていけば、まちが新陳代謝していろんなことが起こっていく。

大坪 それが、まちを活性化するということですからね。

橋爪 そういう動きにかかわっていくなかで、その先に新しい事業とかビジネスが見えてくるといいですよね。

ーー今後は博多がどんなまちになったらいいなと思いますか?

大坪 天神地区はショッピングやエンタテインメントのまち、若い方々のまちというイメージがあるのに対して、このあたりはどちらかというと落ち着いた大人のまちをイメージしています。

橋爪 ハカタリノベーションカフェを含めた博多駅周辺のまちづくりには「アーバンラウンジ」というコンセプトがあるんです。アーバンは「都市」、ラウンジは「心地がいい」。つまり「都市のなかのくつろぎの空間」ということです。

大坪 大きな商業施設や駅ビルを一歩出てまちを歩くと、佇めるような空間がいっぱいある。それがまちとしての魅力につながると思います。そんなエリアを目指して、長い目で博多のまちづくりに取り組んでいきたいですね。

<<ハカタリノベーションカフェ>>

期間:10月1日(木)〜31日(土)
営業時間:11:00〜21:00
住所:福岡市博多区博多駅前3丁目29-21 貝真ビル1F

(各種イベントについては、facebookをチェックしてください!)

 ■出店店舗

イグニッション・スイッチ」(サンドイッチ専門店)(10月1日〜15日)
CAFÉ SONES」(パン、コーヒー等)(10月16日〜31日)

日比谷花壇」(植物)(10月1日〜31日)
ブックスキューブリック」(本)(10月1日〜31日)
Marin ford」(アンティーク雑貨)(10月1日〜31日)

「糸島マルシェ&旅好き女子のモロッコ土産」(クラフト雑貨ほか)( 10月23日〜25日)

【第3話予告】

「リノベーション」という手法を用いて、新しい空間として生まれ変わったハカタリノベーションカフェ。準備期間中には、一般の方々が参加してのリノベーションワークショップも開催されました。次回は、そのワークショップの様子を紹介するとともに、リノベーションに込められた想いを探ります!

【編集後記】

まずは現場を…ということで、今回の舞台となる空きビルと、その周辺を散策してみました。確かに、オフィスビルがやや多めのエリア。しかしその隙間を縫うように、うどん屋さん、お食事処、理容室、喫茶店などなど、昔ながらの素敵な店がいくつかありました。「小さくても魅力的な場所が増えることがまちを元気にする」とは、橋爪さんの言葉。これからのまちづくりとは、単に消費を促すだけの、あるいは労働というニーズに対応しただけの「まち」ではなく、より生活の時間や空間を大切にすることで自分の人生を豊かにできるまちづくりなのかもしれません。


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