平成最後の春に穴バーを終えた編集部はいま、声高らかに宣言したい! (地元の方々にとっては、もはや当たり前で忘れかけている存在かもしれぬ)今回の主役「川茸」は、超貴重で、ありがたく、可能性に満ちた宝モノ。福岡県朝倉市の名物にふさわしい逸品だ!
朝倉名物として代表的なものといえば、日本最古の実働する水車群として全国的に有名な「三連水車」。また甘柿の生産量は日本一で、フルーツの里としても知られています。秋になると道の駅やスーパーには段ボール箱いっぱいに詰まったくだものが売られ、フルーツ好きをキュンキュンさせているんですよね〜。
「三連水車」と「甘柿」。この2大名物とともに覚えてほしいのが「川茸(かわたけ)」です。絶滅危惧種に指定されている川茸を、イタリアンでたっぷり味わおう! という大胆な発想にスタートし、3月に「川茸とイタリアンの会」を開店しました。実は以前、アナバナでは『九州みやげ365』で川茸をご紹介したことがありますが、その後、私たち編集部が川茸の再会を果たしたのは、今年の始め、とあるご縁から、朝倉の魅力を掘り起こし中のこと。その時の様子はこちらでくわしく紹介しています。
触れてぷるぷる、におって無臭!
朝倉の清流「黄金川」でのみ育つ天然の淡水ノリ
川茸とは、朝倉の清流・黄金川にのみ自生し、かつては幕府の献上品としても重宝された淡水ノリのことです。学名は「スイゼンジノリ」。ちょっと想像しやすくなりましたでしょうか。「川のノリ」といいつつも、一つひとつはワカメのようで小さく、それ自体には味も臭いもないことから、彩りと歯ごたえを楽しむものだと言われています。一般的には、お吸いもの、スープ、蒸しもの、和えものなど、日本料理に使われることがほとんどだそう。
さらに、世界でここだけで収穫できると聞けば、黄金川ってどれだけ大きな川なんだよ…と思う方もいるかもしれません(かくいう私も、そのひとり!)。実は黄金川は、全長2キロほどの小川です。江戸時代からか、そのもっと昔からなのか、ずっと地域の方が大切に保護してこられた小さな川。川茸は、そのうつくしい川底に“生える”ようにして生まれます。徐々に気温が高くなると光合成して浮き上がり、ふわふわ〜と流れてくるのを収穫されるそうです。
あるがままを受け入れ、すくすくと。
江戸時代から「遠藤金川堂」が守り継いできたもの
現在、世界で唯一の自生地である黄金川で川茸を守っているのが、「遠藤金川堂」の17代目・遠藤淳さんです。今回の穴バーには、今年初めて収穫された貴重な“初獲れ”を持ってきていただきました。基本的に毎年1月〜8月にかけて収穫されますが、昨年・一昨年の大雨の影響を受け、川茸が十分に成長するのが3月になったとのこと。そんなエピソードからも、自然の力にあらがわず、あるがままを受け入れ育つ“天然モノ”であることがわかります。それと同時に、その地域に自然に生えて育つという「自生」の意味を、あらためて思い知らされました。
「ぷりっとした食べ応えと、きれいな緑の発色が出るのは今の時期だからこそ。3〜4月の川茸が一番良い状態ですよ」と遠藤さん。収穫したあとは、さらに草や藻と分別するため、人工芝を貼ったすべり台を使います。「江戸時代から続くウォータースライダー」という遠藤さんならではの表現に、思わず会場からも笑いが。その「ウォータースライダー」で獲れない草や藻は、さらに人の手によって分別されます。その理由を遠藤さんは、「伝統産業を守っていくことの誇りと、人に食べていただくものだから、人の手でたっぷり時間をかけて収穫したいという想い」と語ってくださいました。
川茸は、今から250年以上前に、遠藤さんの祖先によって発見されました。遠藤さんは、今では絶滅危惧種となった貴重な川茸を後世に残すため、生産にとどまらない活動を続けている方でもあります。今回の穴バーでは、美味しい料理はもちろん、遠藤さんによる不思議な川茸話もスペシャルコンテンツのひとつとなりました。初めて聞く方もわかりやすいように「紙芝居」をご用意されたり、質問大会を開催したり(貴重な川茸のプレゼント付き!)。その誠実で温かい人柄が、会場の皆さんを魅了していました。
伝統食材に新しい美味しさと驚きを。
フレッシュなセンスが冴えるイタリアンへ!
朝倉からお越しいただいたというお客さまにお話を聞いてみると、「川茸といえば、昔から刺身のつまに使われたり、お吸い物に入れたり。貴重な食べものということもあって、なかなかぜいたくに使うことはできませんでしたね。もっぱら和食が中心で、それだけで味を楽しむという感じではなかったです。今回、こんなカタチでイタリアンの食材に使われたことに驚きですが、とっても美味しかった…!」とうれしい感想を話してくださいました。
まさにそこに、今回の穴バーの目的がありました。
貴重な食材を貴重なまま終わらせるのではなく、「遊び心」をもって、大胆なひと皿に昇華させること。大事にしたのは、食材の新たな発見と意外性の共有。そして何より、「朝倉らしさ」の表現でした。そんな思惑から白羽の矢が立ったのが「リストランテKubotsu」の窪津シェフです。窪津シェフといえば、2018年2月に開催した「4種のネギとイタリアンの会」を大成功に導いた立役者。九州じゅうの生産者を自ら訪ね歩くスタイルで、目の前にある食材を最大限に活かした、自由なひと皿を提案してくださる若き職人です。
そんなお2人のコラボレーションがどうなったか…。それは会場の皆さんの笑顔を見れば一目瞭然ですが、その様子はレポート後編で!
(取材・文:ライター・福永あずさ、写真:末次優太)