穴バーレポート ACTIVITY

川茸愛がほとばしる、一期一会のイタリアン! 「オール福岡」で朝倉の春を軽やかに演出


その歴史は古く、かつては幕府への献上品としても重宝されたほどの朝倉の珍味「川茸」。口にいれるとプルプルする独特の食感が特徴です。そもそも、黄金川に自生していた川茸は、いつ頃から食べられるようになったのでしょう? 最初に食べた方はどなただったのでしょう? 気になる歴史について、「遠藤金川堂」の17代目・遠藤淳さんが、ユニークな紙芝居を使って教えてくださいました。

遠藤さんによると、祖先である遠藤幸左衛門さんによって初めて食べられたのが宝暦13年(1763)のこと。「青紫色の苔が川の流れを積き止めている」という地元の方のお困りごとを解決するため、思い切って食べちゃったのだそうです(笑)! そしてその時の感想を、「試食するに香味雅淡」と残されています。(ニュアンス的に「とてもさっぱりしていておるぞ」ということでしょうか…)。

知れば知るほど、不思議がひろがる川茸の世界。大胆なイタリアンで振舞ってくださったのが「リストランテKubotsu」の窪津朋生シェフです。さあ、当日のお料理を振り返りながら、いよいよ川茸の味力(みりょく)にせまります!

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「リストランテKubotsu」の窪津朋生シェフ(中央)と、シェフをサポートした同店の若きシェフたち。3人の息の合ったコンビネーションはお見事でした!

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“引き立て役”をどう活かす…?
料理のインスピレーションは朝倉の景色から

「川茸は伝統的な食材ですが、あくまで“料理の引き立て役”。これまでは和食に使われることがほとんどでした。今回窪津シェフにすばらしいイタリアンを提案していただいて、食事をされた皆さんも新しい発見をしていただけたんじゃないかなと思います。本当にワクワクしました!」と遠藤さん。

九州のすばらしい食を提案するため、生産者の元に直接足を運ぶスタイルを大事にしている窪津シェフ。若干31歳で名店「リストランテASO天神」の料理長に就任し、自身の名を冠した「リストランテKubotsu」へ屋号を変更して1年。順風満帆に見えるキャリアですが、「いまの道を開拓するまで5年かかりました」と感慨深げ。窪津シェフの元には、毎日さまざまな生産者からメッセージが届きます。野菜、くだもの、肉、魚。食材の生育状況を互いに共有しあい、もっと美味しく、もっとお客様の心に届くイタリアンを、ともにつくっていくことを目指しています。

窪津さんは以前、福岡県の仕事の一環として、川茸を使った料理に挑戦したことがあるそう。ところが今回はコース仕立てでのお披露目ということと、淡白な川茸の美味しさを、イタリアンでどう引き出すかを苦労されたといいます。

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地産地消で素材を選び抜き、つくり手さんとの関係性を大事にする窪津シェフ。誠実な姿勢で、九州に息づく食の魅力を伝えてくれています

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ひと皿に込めた朝倉への想いを話してくれました。お客さまも箸を止めて、料理の説明に聞き入っていました

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運ばれるたびに感嘆が。「川茸のプルプル食感がたまりません!」との声も


ひと皿ごとに五感をくすぐる!
今できる精一杯を込めたもてなし

「お題が難しかった分、実際に現地で見たものからヒントを得ようと思いました」と窪津さん。編集部とともに、実際に黄金川を訪れた時の印象をインスピレーションに、コースを組み立てたそう。川の周辺に自生する菜の花とクレソンを登場させるなど、川茸の魅力とともに、皿の上で“朝倉の春”を表現してくれたように思えます。また「できるだけ地のものと組み合わせたい」という考えから、北九州・合馬のたけのこ、朝倉の名産品である葛や銘柄鶏「古処鶏」、うきはの抹茶など、“オール福岡”でまとめた窪津さんらしいアプローチ。料理が運ばれてくるたびにわっと会場が沸き、賞賛の声があがっていました。

見た目も鮮やかな「稚鮎のコンフィのオイルパスタ」は、うすく色づいたブルーの皿を黄金川に見立てたもの。鮎が川で遊んでいる様子がいきいきと表現されています。皿に添えられたのはたっぷりのクレソン。鮎特有のほろ苦いソースと、パスタの上に盛られた川茸のすきとおったグリーンの色味が春らしいひと皿です。

以前穴バーでご一緒した朝倉「天野商店」さんの古処鶏を使った「古処鶏のインヴォルチーニと3種のソース」には菜の花を。ふっくら柔らかく食べごたえのある鶏肉を、川茸の佃煮とマスカルポーネチーズを合わせたソース、トマトペーストにオリーブ、ケッパー、川茸を合わせたソース、「リストランテKubotsu」でも人気のハーブソースの3種で味わえます。ああ、こうやって原稿を書いていてもあの日の夜が思い起こされてくるのです…。本当にぜいたくで美味しい夜でした。

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前菜の2種として登場したのは、「たまごたっぷりのフラン かつおだし餡」と、「焼きたけ クレソンのソース添え」。ふるふるとした食感のフランとは、洋風の茶碗蒸しのようなもの。川茸入りの餡もとっても優しい味! 北九州市・合間のたけのこに添えたのは、川茸入りの刺身こんにゃくです。こちらにも黄金川で採れたクレソンのソースをかけました

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黄金川で採れたクレソンを使用し、皿の上で“朝倉の春”を軽やかに演出したメニュー「稚鮎のコンフィのオイルパスタ」。鮎のほろ苦さとどっさり盛られたグリーンの川茸の組み合わせが、何とも春らしくてすてき

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メインの「古処鶏のインヴォルチーニと3種のソース」には、黄金川の菜の花を添えて。皿の上に絵のように描かれたソースなど、味の異なる3種のソースがお客さんを飽きさせません!

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デザート「抹茶のアイス葛つつみ」は、うきは・堀江銘茶園さんの抹茶を使ったアイスクリームを、秋月の本葛で包みました。川茸は葛に混ぜ込んであり、透けてとっても美しい…! きりりとした抹茶本来の味と余韻が、コースのシメにふさわしい逸品に

さて、会の中盤では、川茸から採れる貴重な成分「サフラン」についてのお話と不思議な実験も実施しました。サフランとは、川茸から3%ほどしか採れない新物質の多糖類のこと。遠藤さんによると、なんとヒアルロン酸の数倍の保湿作用があると言われているそうです。高知大学の研究では、サフランがアトピー性皮膚炎の予防と治療に有効であることが突き止められ、今後は臨床試験を経て医薬品としての実用化を目指していることも教えてくれました。すごい、すごいぞ、川茸〜!

知れば知るほど不思議いっぱいの川茸。伝統食材でありながら、これまであまり知られていなかった歴史とその可能性。そして窪津シェフによって新たに引き出された味力(みりょく)を五感で味わい、川茸の未来にワクワクしっぱなしの夜なのでした。


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水を入れてかき混ぜるとみるみる浸透…! あっという間にとろみのあるゼリー状に


(取材・文:ライター・福永あずさ、写真:末次優太)

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