インタビュー

デザインの力で強くなる地域の仕事 一話

デザインの力で強くなる地域の仕事2014.5.20(tue) up

梶原さんにお会いしました。

初めて商品を手に取る時、「ロゴタイプ」はその顔となり、商品の印象を大きく左右するだろう。デザインオフィス「カジグラ」の梶原道生さんは、ロゴに特化したグラフィックデザイナーとして、数々の“顔” を手がけてきた方だ。その梶原さんが、近ごろデザインの視点から、ものづくりを元気にしている。今、デザインにできることとはなんだろう? これからの地域産業を活性させるヒントをうかがった。

たどり着いた『ロゴ屋』という生き方

大分県日田市出身の梶原さん。実家の生業は巨峰農家だ。朝穫れの巨峰を市場に卸したり、町の露店で売ったりしていた。小さい頃から収穫や販売の手伝いをしていたのだそう。手間ひまかけて育てた葡萄をどうすれば残らず買ってもらえるのか、そんなことを子どもながらに考えるようになったという。

高校卒業後、神奈川の電子機器メーカーに就職するも、どうしても仕事に楽しさを見いだせずにいた。小さい頃からものづくりが好きで、「文字の美しさ」にも興味があったことから、仕事を辞めてグラフィックデザインの専門学校に入学した。卒業後は福岡のグラフィックデザイン事務所に入社。さまざまな広告物の、制作をこなす視点と技術が認められ、東京の有名な広告制作会社に引き抜かれたのは25歳の時だ。梶原さんは、「東京での仕事では、一流の技術を持つ人がなぜ一流なのか、が理解できたのが一番勉強になった」と当時を振返る。

30歳で福岡に戻り、広告制作会社でデザイナー、アートディレクターとして経験を積んだのち独立、デザイン事務所を立ち上げた。しかし、広告の仕事依頼を抱えるうちに、目の前の仕事こなすだけでいっぱいになっていた。デザインをすることと経営者としての思考がどうしても一致せず、頭がストップしてしまうことも多々と、苦悩の時期でもあったそうだ。

そんな時、友人の紹介で飲食店のロゴを作ることになった。いつもの仕事より近い依頼主との距離。想いや要望を嗅ぎ取り、それをロゴに表現した。すると、「ロゴを変えたことで来客数が増加した」と、とても喜んでくれたという。ロゴデザインが人に与える効果を実感した出来事だった。

その後、デザイン事務所を数年続けるも、次第に“広告を作る”という環境が、良いものを作りたいという自分との欲求が折り合わなくなっていった。「あの時期は、広告を作る環境・状況にあきらめかけていたのだと思います」と梶原さんは言う。 依頼主と作り手である自分の間に、担当者が何人も入る仕事の流れでは、依頼主の本当の気持ちや問題点が伝わってこない。とりあえず提案して、プレゼンテーションが通るとお金をかけて広告をつくるという流れは、ステージで踊らされているような気持ちになって虚しかったという。 「たしかにいくつか賞も頂いたけど、なにか違うという思いがずっとありました。現場の川上も川下も見えていない人間に心を動かすものが作れるわけがない。だったら今の状況を捨ててしまえと思った」。

友人の紹介いで作った飲食店のロゴデザイン。ロゴの力を実感した最初の仕事。

当時、梶原さんが手がけた飲食店のロゴデザイン。

それから、梶原さんは “さよならポスター展” という展示会を開催した。 「もうポスターは作りません!」と、ポスターを捨てる宣言をしたのだ。それまで制作してきた数々のポスターは来場者にあげて、マップケースも全て処分した。「Macさえあれば仕事ができます。だから全てを捨ててリセットさせたんです。そうせざるを得なかったんでしょうね」。

本格的に『ロゴ屋』としてロゴづくりを専門とするようになってから、依頼主と客の距離が縮まるような仕事ができるようになった。「原点に立ち戻ったという感じですね」と梶原さんは笑う。「僕は両親のように巨峰を作ることはできない。だから代わりにロゴを作ってクライアントと客をつなごうと考えているんです」。

「ロゴを作る」という作業は、依頼主と一緒にロゴを“彫る”ようなイメージだと言う。素材となる木をもらって、依頼主と客をつなぐ形を想像する。依頼主の思いや考え方、雰囲気に沿いながら素材を彫っていく。作ってみてイメージと違うと感じたら、依頼主にちゃんと指摘してもらう。そうやって、依頼主と向き合いながら、何度も削ったり彫ったりして形にする。 「一緒に“彫る”作業で、相手の個性が形と線質になって現れます。依頼者とお客様の共通言語となる記号の形と、依頼者の個性を感じてもらう線質により、世界にひとつしか存在しない魅力的な形に仕上げるのがロゴを作るということでしょうか」。

現在も、広告作りをまったくしないわけではない。商品を売るために必要であれば、自然発生的に広告を作る。「クライアントが商品の特性を一番伝えたい人に伝わるように作ります。商品から生まれてくる魅力をデザインしていきたい。もしかしたら、昔よりはいいものが作れるようになっているかもしれないですね」。

ギャラリーで開いたさよならポスター展の展示


POPULARITY 人気の記事

PAGE TOP