2014.5.21(wed) up
もくじ
- 一話 たどり着いた『ロゴ屋』という生き方
- 二話 込められた想いを伝える
- 三話 きこりめしをつくる。
- 四話 これからの一次産業の課題
込められた想いを伝える
福岡県の南部、筑後地域の雇用創出プロジェクト「ちくご元気計画」。産業に、商品開発や広報活動、デザインなどを積極的に取り入れることで、刺激がうまれ地域が元気にするという取り組みだ。数々の人気商品が生まれ、注目の活動がはじまり、今では全国的にその考え方が広まっている。
このプロジェクトの研究会で、梶原さんは江の浦海苔本舗の森田さんと出会った。「森田さんの作る海苔を初めて食べた時、すごく美味しいと感じたんです」梶原さんは嬉しそうに話す。
江の浦海苔本舗は、森田さんの祖父の代から有明の海を相手に海苔漁を続ける漁師一家だ。現在三代目となる森田さんとご兄弟で稼業を受け継いでいる。
その森田さんがこんな話を切り出した。「最近海苔がおいしくないという声をよく聞くようになったんです。自分たちは、毎日美味しい海苔を食べているのでそのことがよくわからないんです」と言うのだ。
一体何が起こっているのかを調べてみると、一部の海苔屋が、韓国から仕入れた海苔を1週間ほど有明海に浸して「有明海産」と名乗っていることがわかった。味をごまかすためか、調味料などがたくさん混ぜられているので、味海苔は味がだんだん濃くなっていることもわかった。このままではいけないと危機を感じた森田さんは、「本当においしい海苔を食べてほしい」と、海苔漁だけでなく自分たちで商品を作って自分たちで売るという大きな決断をした。
「純粋で熱い思いを聞かされたら、お手伝いしましょうか? という気持ちになりますよね」と梶原さんは笑う。有明海で獲れるせっかくのおいしい海苔をみんなに知ってほしい、そして本物の海苔を味わってほしい、そんな思いから始まった江の浦海苔本舗の仕事は、商品に込められた想いを象徴的に伝えるロゴデザインからスタートした。
ロゴを作るということはすなわち、企業や商品の方向性や性格を決め込むということ。この作業をすることで、おのずと進むべき方向が決まるという。
「一番伝えたかったのは、海苔漁師の素朴さと食卓に毎日置いていても違和感のないもの。容器などは既製のものでコストをおさえつつも、ラベルシールのデザインを変更するだけでまったく違ったメッセージを届けることができます」。
いつも食卓にあって、生活に溶け込んでしまう雑貨のような存在をイメージして作ったというパッケージは、肩肘張らない手書きの文字と素朴な雰囲気の海苔がモチーフだ。スーパーで見かけるのとは違う、親しみのある“顔”は、かえって新鮮さを感じる。売り上げに結び付けるために、需要が見込める贈答品や法事用のギフトセットを売り出すことも提案した。
パッケージが生まれ変わって、ギフトセットも誕生した。次は『売る』というステップだ。
「生産者の方は、良い商品があっても『売る』につなげるノウハウが弱い場合が多いんです。僕たちは、ただデザインをするだけではなくて、その先の『売る』ためのお手伝いもさせていただきます」。
『売る』ことは知ってもらうことからはじまる、と梶原さんは言う。商品の良さを伝えるにはパンフレットが必要で、遠方からでも気軽に購入してもらえるようにウェブサイトができる。そんな風に、広告は自然発生的に作られていく。
「商品がひとつ、またひとつと売れていくのを目にして、ようやく流通の川上から川下までを実感できました」と目を細める。良い商品が思いを込めたデザインと出会うと、こんなにもいい流れができる。江の浦海苔本舗さんとの仕事を経て、梶原さんの中で“ロゴ屋”としての確たる方向が見えてきた。
「良いものをもっとたくさんの人に知ってもらい地域産業を元気にしたい、と思い始めるきっかけとなりました。この出会いが僕自身の次のステップのために必要な出会いだったんですね」。
グラフィックデザイナーの仕事は、一見するとかっこいいとかお洒落とか、そんな華やかなイメージを持たれるかもしれない。しかし、梶原さんと話していると、浮いた印象は欠片も見当たらない。そこにあるのは、地に足のついた地道な苦労の積み重ねだ。
もくじ
- 一話 たどり着いた『ロゴ屋』という生き方
- 二話 込められた想いを伝える
- 三話 きこりめしをつくる。
- 四話 これからの一次産業の課題