インタビュー

デザインの力で強くなる地域の仕事 四話

デザインの力で強くなる地域の仕事2014.5.26(mon) up

これからの一次産業の課題

「 『今これが流行っているから、似たものを作って少しでも利益をたくさん出そう』 そういう意識の傘の中に、作り手がひしめく状態があるように思いますが、やっぱりそれは違うような気がするんです」。

消費者は、出来上がったモノしか目にすることができないから、誠実なものづくりをしている人たちの思いや背景まで見分けることができない。その現実も当然だという。
「思いきり消毒されたイチゴと、無農薬のイチゴ。見た目では区別がつかないし、やっぱりお得な価格の方を選びますよね。体にいいものだけを選ぶのは、実際難しい面もあると思うんです」。梶原さんは、一次産業の衰退が目につく昨今の状況をもたらした原因の一つと、問題点をあげた。
消費者のことを考えれば農薬は使わない方がいいに決まっている。しかし、効率よく生産できる方法を選んでしまうのは、利益をあげる手段として仕方のない選択なのかもしれない。だからこそ、梶原さんはそうした状況を抜け出すためにも、生産者がもっと勉強しなければいけないという。
「売る方法、自分たちが作っているものの価値をもっと生産者に知って欲しいと思うんです。自分のレベルや立ち位置を理解することで、その先にやるべきことが見えてくるのではないでしょうか」。幼少から実家の巨峰農家で手伝いをしてきたその経験は、デザイナーという畑の中でもしっかり生きているのだ。

魅力的な女性のようなデザインを。

「デザインを洋服に例えるなら、立派なスーツではなくて、よそ行きでも普段でも使える機能的な服を商品に着せてあげること。商品力をつけ、都会に売り込んだ時に “いいね!” と言われることで、生産者にも自信がついていくんです」。そうなると、生産者が自ら積極的に営業し始めるという。

いいものを都会の人たちにアピールするとき、注意すべきは、素朴さだけを強調してしまわないことだという。“田舎くさいもの” で終わらず、素朴さにちょっとだけおしゃれしたデザインを加えることで “親しみやすいもの” と感じてもらえるという。
「可愛くて親しみがあって、おしゃれなもの、その辺りが一番居心地いいんです。魅力が一番大事。女性と同じですね」と、梶原さんはユーモアたっぷりに話してくれた。

「生産の現場が、自分たちの作るものがどのようなお店で売られ、どのような生活のシーンで使われるかの青写真を描くことができれば、作るべきモノのスタイルは自然と見えてきます。そのときに、生産者だけががんばるのではなく、バイヤーやデザイナーとタッグを組んでものづくりができる環境がもっと増えていけば、地域産業は元気になるのではないでしょうか」。
九州の地域産業を盛り上げるために必要なものは? という問いに、梶原さんは迷わずそう答えた。目の前の状況だけを見て頭を抱えていては前に進まない。梶原さんのようなデザイナーが増えることが、これからの一次産業の救世主になるのかもしれない。

「デザインが地域産業と関わる時に心がける点は、商品自体に生産者の思いや大切にしていることをシンプルに正しく伝わるデザインをすること。誤解や勘違いをさせお客様の期待を裏切らないこと。そうすれば、どこでも勝負できるような商品に生まれ変わります」。

マス広告一色の世界から “ロゴ屋”に転身し、依頼主と懸命に向き合ってきた梶原さん。その言葉には確信がこもる。

(取材・文/編集部、写真/池田)

プロフィール

梶原道生さん グラフィックデザイナー 1967年大分県日田市生まれ。九州デザイナー学院、アンテナグラフィックアーツ、株式会社仲畑広告制作所、株式会社広告研究所を経て、2005年に独立カジグラ設立、2007年株式会社カジグラ。朝日広告賞、福岡広告協会賞大賞、広告電通賞金賞、福岡広告協会賞銀・銅賞、ACC賞ゴールド賞。江の浦海苔本舗にて、2012年福岡産業デザイン賞優秀賞、ヤブクグリのきこりめし弁当にて2013年年度ADC賞、グッドデザイン賞を受賞。
●カジグラ URL:http://kajigra.com/
●江の浦のり本舗 ホームページURL:http://enouranori.com/
●日田ヤブクグリ フェイスブック: https://www.facebook.com/Yabukuguri

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