RethinkFUKUOKAProject

ウェブメディアとサービス、二つのコンテンツの申し子が日本のコンテンツを今一度洗濯し候!

Rethink FUKUOKA PROJECT レポートvol.048

アナバナではReTHINK FUKUOKA PROJECTの取材と発信をお手伝いしています。

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 今日のテーマは、あなたが毎日目にするウェブサイトやSNSの中に無数に広がる「話のタネ」としてのコンテンツにフォーカスします。「バズる」という言葉で表現されるような爆発的に広まるウェブ記事の中には、どんな仕掛けや思いが込められているのでしょうか。さらに今回は、もう一つの「コンテンツ」としてビジネスや日常生活を便利にしてくれるソフトウェア、つまりサービスについてもRethinkします。

 お招きしたのは、日本のウェブメディアに一石を投じた「BuzzFeed Japan(※1)」編集長の古田大輔さんと、福岡からスタートして世界中へ「仕事が楽しくなるサービス」を展開する「株式会社ヌーラボ(※2)」の橋本正徳さん。海外の現場にも詳しいお二人に切り込むのは、学生でもあり、「今学びたい100人の学問(※3)」というメディアを運営中のSAINO&Loqui代表の松口健司さん。

人の心を揺さぶり、伝播させていく魅力的なコンテンツはいかにして生まれ、そしてどう成長させるのか、ぜひ仕掛け人の目線で考えてみましょう!

(※1)BuzzFeed Japan HP  https://www.buzzfeed.com
(※2)株式会社ヌーラボHP  https://nulab-inc.com/ja/
(※3)今学びたい100人の学問HP  http://loqui.jp

 

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吹き荒れる逆風からのスタート。
追い風にしてくれたのは海外からの声だった

松口 今日は「コンテンツ」というキーワードを元にBuzzFeed Japan.の編集長の古田さんと株式会社ヌーラボ代表取締役の橋本さんをお招きしました。古田さんは福岡出身なんですよね?

古田 僕は福岡市出身でしたが、東京の大学卒業後、ライターになりたいと朝日新聞に入社しました。8年目から3年間東南アジアに駐在していましたが、署名入りの記事を書いても、同世代の友人たちから反響がない。現地の記者はデジタルツールを駆使しているのに、日本は遅れている。そんな状況を変えたいと東京に戻りデジタル担当になりました。その後、BuzzFeedを取材したのがきっかけで、編集長に誘われて今に至ります。

松口 BuzzFeedのお話は後ほど詳しくお聞きしたいと思います。続いて、ソフトウェアなどのコンテンツについてもお聞きしたいと思ってお招きしました。橋本さんです。

橋本 かなり無理矢理な繋げ方ですね(笑)。我々の会社はB to Bのソフトウェアを開発しています。一般生活ではなくて、仕事の中で使うツールですね。福岡に本社を置きながら、海外展開もできているという結構珍しい立ち位置にいるんじゃないかな。今日はそんなソフトウェアというコンテンツを伸ばすため、ぜひBuzzFeedさんに掲載してもらえればと思ってここにいます(笑)

松口 あはは、ありがとうございます。では、まず最初のテーマ「メディア・サービスの立ち上げと継続力」について、お二人のこれまでをお聞きしながら考えたいと思います。古田さんは、BuzzFeed Japan立ち上げの時どんなきっかけがあったんですか?

古田 BuzzFeed 自体は2006年に現CEOのジョナ・ペレッティが創業しました。当時はまだSNS自体は無かったんですが、彼のあるイタズラがメール転送で広がり、最終的にジョナはテレビに出るほど有名になった。こういう口コミの広がり、ある情報を誰かが人に伝えたいと思う、そのメカニズムが知りたいと彼は考えるようになったんです。それで立ち上げたのが、BuzzFeed。人々は何をシェアしたいと思うのか、シェアする、つまり人が繋がるコンテンツを作ることを突き詰めていたら、世界11カ国に展開するようになりました。日本は11カ国目ですね。僕もBuzzFeed Japanのスタートでは、そういうことを面白がって取り組める才能ある人を集める事にこだわりました。

松口 先日登場いただいたヨッピーさん(vol.035に登壇)も同じような事をおっしゃっていました。ウェブメディアに関わる方には結構共通するところがあるのかなと思います。さて、続いては橋本さんの立ち上げのお話をお聞きします。

橋本 ソフトウェアというコンテンツで言えば、最初は自分たちで使うものとして立ち上げた「Backlog」というウェブ上でプロジェクトを管理するサービスがあるのですが、これはビジネスを管理する際に便利だと社外の人にも評判になり、有償サービス化しました。とはいえ、その後5年間は赤字でした。通常は1年くらいで成果が上がらなければ辞めるんですけど、幸いにもVC(※4)が入ってなかったので諦め悪く続けることができたんです。5年後くらいから黒字に転換して、現在は他のサービスも始めています。

松口 世界に展開されたのはどんなきっかけからなんですか?

橋本 実は「Backlog」を立ち上げた時、国内ではよそのサーバーに重要なデータを預けるのが怖いという風潮があって叩かれたんですよ。次のサービス「Cacoo」は初めから海外に向けて発信したら海外のユーザーがたくさん増えて。250万ユーザーのうちの90%くらいが海外の方ですね。

松口 古田さんはBuzzFeed Japan立ち上げの時にそういう風当たりなんかはあったのでしょうか?

古田 いっぱいありましたよ。「バズ」という名前のせいで、それまでに日本にあったメディアと同じように考えられて、「アメリカからパクりメディアの王様が来るらしい」とか。最初は苦しいけれど、きちんとやっていれば潮目は変わると信じて続けていたら、ポジティブなコメントが増えてきた。批判がゼロという事はありえないので、ある程度は受け止めています。

松口 立ち上げや苦境を耐えるってある程度のモチベーションを持っていないとできないですよね。お二人はいつ頃から今のようになりたいと思われていたんですか?

橋本 僕は特には。まず英語を勉強したくらいかなあ。

古田 僕は20歳の頃インドでマザー・テレサが設立した「死を待つ人々の家」、コルカタのスラムで死にそうな人を集めて最期を看取るという施設で働いていたんですよ。日々人が死んでいく光景を見ながら、この現状を人に伝えたいと思いました。自分には何かを生み出す力はないけれども、見たものを人に伝える力、ここには何かがあると見つける力は持っているんじゃないかと思って。

松口 はっきり覚えているくらい強いきっかけだったんですね。

 

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バズる仕掛けって実際どうするの?
人の心に引っかかるコンテンツ作りとは

松口 続いて、今日の参加者の皆さんから古田さんに質問が寄せられています。ズバリ、「バズる仕掛け」について。企画はどんな時に考えていらっしゃるんですか?

古田 BuzzFeed Japanにとって「バズる」という言葉は、「PVが多い事」ではないんです。スマホやPCでニュースを読む時に見出しがズラーと並ぶでしょう。PVが高いというのは、見出しとサムネイルの評価が高いだけなんですよ。だから、100万PV取れていてもくだらない記事の場合もある。だから、僕らはPVだけではなくて、シェアしてもらえるもの、一度見た後に友人に見て欲しくてシェアしたくなるものを評価しています。つまり「バズる」=「PV×シェアレート(シェアしてくれる率)」なんですよね。バズるためには、それぞれのプラットフォームのユーザーの特徴を理解し、それに合わせてコンテンツを制作し、配信することが重要なので、うちでは専用チームを作って研究しています。

松口 どう言うテーマが拡散されがちなんでしょうか?

古田 これは(BuzzFeed創業者の)ジョナが教えてくれた事なのですが、「どんなテーマがバズると言う事ではなく、そのテーマがなぜバズったのかについて理由を考える必要がある」。どんなテーマでもいいんですよ。そのテーマの中に、なんらかの新しい知識であったり、エモーショナルな感動や共感を引き出すものであったり、そういった引っ掛かりがあるかどうかが重要です。

松口 なるほど。勉強になります。橋本さんは、外部への発信で気をつけていることはありますか?

橋本 僕はエクスペクテーションコントロール(事前期待値コントロール)を大事にしています。バズらせる力を持っているものでも、期待値が実物より上回っていると、実際に実物を手に入れた時に残念になるし、期待値が実物よりも下回っていると、実物を手に入れた時にすごく高評価につながる。なので、ある程度いいものができたなら70%くらいの期待をしてもらう。

僕も今日は若干印象が悪い事を言ってますけど、一対一で会うといい人じゃんって言われるんですよ。それと同じ(笑)。バズらせる力を持ってしまった人は気をつけた方がいいですよ。実際会った時に「思ったよりツマンネ」って思われたくないじゃないですか(笑)

松口 めっちゃ面白いです!

 

(※4)ベンチャーキャピタル:投資と共に経営コンサルタントとしても参加する投資ファンド
(※5)口コミ、現状ではSNSで拡散されるために構成したメディア

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日本のコンテンツには不安しかない!?
作り手として次世代につなげたい思い

松口 続いて、今回のテーマでもあるのですが、これからのコンテンツって、どうあるべきだと思いますか?

古田 まずインターネットメディア業界において、日本はすごく大きな転換期を迎えているんです。昨年起きた「DeNAのまとめサイト問題(※6)」で潮目が変わったんですよね。それまでインターネットのメディアは、とにかくコンテンツをたくさん作ってPV数を稼げばなんとかなるとされていた。そのためDeNAさんはものすごく安い単価で記事を書いてもらっていたのですが、その中には日本の著作権法に引っかかるものがあったし、クオリティが低いものがあった。これから国内ではいかにクオリティの高いコンテンツを作るかが求められると思います。

とはいえ、日本ではコンテンツの作り手がものすごい減っているんですよ。理由は簡単。給料が安い、労働時間が長い。アメリカではコンテンツ作りを大学で勉強できるし、優秀な人材が切磋琢磨して新しいメディアがどんどん生まれているのに。BuzzFeedでは、今年から学生や若手のライターにコンテンツの作り方を教えるフェローシップ制度を設けました。それでも業界全体では全然足りない。インターネットメディア業界に夢を持たせないと、将来のメディアは不安しか無いですよ。

松口 なるほど、橋本さんはどう思われますか?

橋本 今後はありきたりな誇大広告が無くなっていくんじゃないかなと思います。オモシロ系のやつとかは、もうお腹いっぱいですね。

古田 日本の面白いコンテンツを作っているライターさんってもう何年も活躍している人が多いけれど、最近は次世代の面白い人も出てきています。まだ、一般の知名度はそれほど高くないですが。

松口 僕は福岡でもそういう人が増えればと思っているのですが…。

古田 僕の個人的な印象ですが、福岡はフリーペーパーや情報誌などの紙媒体がまだまだ元気。ウェブにとって強力なライバルがいる状況です。福岡はアジアに近いという国際性があり、都会で自然も豊か、コンパクトで機能的など素晴らしい特徴が沢山あります。アメリカの各地ですごいメディアが立ち上がっているように、福岡からもすごい才能がどんどん伸びて行けばいいと思います。

 

(※6)DeNAのまとめサイトで多数の不正記事が発覚。10のキュレーションメディアを閉鎖する事態になった

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 ライターやエディターなど作り手側の方も多く参加されていた今回。トーク後の質疑応答ではかなり具体的な悩み相談なども寄せられ、ここでしか聞けないウラ話も飛び出していました。

 ウェブメディアの実情を分かりやすく解説してくださった古田さんと、ツッコミを入れながらサービスについて話してくださった橋本さん。メディアとサービス、一見土俵が違うお二人ですが、豊富な海外経験で培った広い視野に加え、面白いものとは何かという審美眼を自身の中でしっかりと持っていらっしゃるよう。この外と内への目線が、人の心を動かす面白いコンテンツ作りの鍵になっているのではないでしょうか。

 多くの情報が溢れるインターネットの世界では、今日見る側だったあなたが、明日は作り手になる可能性も。その時、あなたはどんなコンテンツを仕掛けますか?

 

ReTHINK FUKUOKA PROJECTについて
コミュニケーションや働き方、ライフスタイルに大きな変化をもたらしている福岡。新しい産業やコミュニティ、文化が生まれるイノベーティブでエネルギッシュな街となっています。
そのチカラの根底には、この街に魅力を感じて、自らが発信源となっている企業や人がいます。
ReTHINK FUKUOKA PROJECTは、「ReTHINK FUKUOKA」をテーマに、まったく異なるジャンルで活躍する企業や人々が集い、有機的につながることで新しいこと・ものを生み出すプロジェクトです。

 


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