穴バーレポート ACTIVITY

少数精鋭のワンチームが導く 全国屈指のセロリ生産量とクオリティ

1_20191125_anb_s_123

清々しいセロリの香りが立ち込める日中のハウス

寒さも厳しいみやま市瀬高町の夜明け前。しんと静まり返った田園地帯の中で、セロリ畑だけ明かりが灯っています。
「セロリはとても暑さに弱い野菜なので、日中に収穫するとすぐしなびてしまうんです。だから、気温が低い夜間に収穫・出荷作業を進めます。冬は日が暮れる時間帯に切って、夜の3、4時に出荷作業を行います。春先は気温が上がってしまうので、切るのは夜の2時にかけておこないます」
そう教えてくれたのは、今回のゲストのお一人「瀬高町セルリー部会」の鬼丸幸子さんです。

今や全国3位の生産量を誇るみやま市瀬高町のセロリですが、その成長の背景には、部会員の皆さんの強い結束力と徹底した品質管理にヒントが隠されているようです。

温暖な農業地帯で寒冷野菜を育てる 技術とアイデアで生産量西日本一へ

2_20191125_anb_s_080

部会長の小川和夫さん(右)とみやま市職員の宮本啓吾さん(左)。小川さんが持っているのはセロリの苗。3ヶ月後には出荷できるほど育つ

内陸有明気候区にあり、温暖な気候に恵まれたみやま市。古くから農業も盛んで山川みかんや博多なすなど、四季を通じてさまざまな農産物が生産されています。けれども、暑さに弱いセロリにとって、この気候は逆に厳しい環境なのだそう。
自然環境下ではまず難しいこの野菜を、皆さんは一体どのように育てているのでしょうか?
まずはセロリの収穫までの流れを追ってみましょう。

●種から苗へ
セロリの作付けが始まるのは、収穫の約半年前。
最初は小さなポットにタネを撒き、新芽を一つ一つピンセットでポットに移して、苗になるまで育てます。この時期は、気温が20℃を下回らないよう、ポットが育つ苗床には温水が通るパイプを通し温度管理をしています。
また、セロリは花が咲くとスジが固くなってしまうため、天井や側面を遮光暗幕などで覆いながら、日照時間を短縮。花が咲かないように工夫します。
セロリをかじった時の“シャクッ”っと小気味よい食感には、こんな理由があったのですね。

●苗から株へ
種を巻いて3ヶ月後、30cmほどに育った苗をポットからハウス内の畑に植え替えます。セリ科の植物だけに、たっぷりのお水を与えて育てるそう。
苗を植えた当初は土の色がほとんどを占めていたセロリ畑ですが、収穫間近になると足を踏み入れられないほどの緑のじゅうたんに変身。どっしりと根付いた株からは清々しい香りが漂います。こんなに大きく育てば一安心、と思いきや、収穫から出荷までの流れにもまた細心の注意が必要なのです。

●収穫
普段スーパーなどで見かけるセロリは、株から切り離した状態で販売されていますよね。茎が1本でも折れると商品価値がなくなってしまうため、セロリの収穫から袋詰め、出荷準備まで全て手作業で行われているんです。収穫後も気温が上がればセロリが弱ってしまうので、まさに時間と気温との勝負!

3_20191125_anb_s_091

一株ひと株、鎌で根元からカットする。部会長さんの畑では多い時なら一日500株を出荷するという

4_20191125_anb_s_088

出荷の時には、一番外側の茎を取り、折れないように一株ずつ水をかけて袋詰め。折った茎は株の下に敷いて泥除けにする。

厳しい指針はプライドの証 みやま市のセロリが信頼を得る理由とは?

5_20191125_anb_s_070

集荷されたセロリはダンボール箱ごと集荷場にある真空予冷機へくぐらせる。冷蔵庫とは異なり、中から急激に冷やすことで鮮度を長く保つことができるそう。その後、冷房車で関東や関西の市場へ

「JAみなみ筑後」の集荷場にある事務所にお邪魔すると、壁には50以上の項目がずらりと書かれた「瀬高町セルリー部会」申し合わせ事項が。これも、みやま市のセロリの質の高さを表す証拠なのです。栽培法や環境に対して細かい基準を定め、全員がそれぞれ取り組むことで、全体の品質を落とさないように管理しているそう。その内容は、JAの職員さんも「日本一厳しい」と驚くほど。さらに、年に2回部会独自で自主残留農薬分析を行い、太陽光を利用した環境に優しい土壌消毒なども実施しているそうです。

 出荷量の安定も重要な課題。こちらでは、予め決まった量を出荷する「計画出荷」を導入しています。市場からの信頼も厚い反面、どこか一軒でも欠けてしまうと、その約束は成り立ちません。収穫時期は週に一度、部会内でこまめに情報を交換しながら、全員で団結してセロリ栽培に取り組んでいるのです。

青果市場から個人のファンまで セロリの可能性を広げたい

6_IMG_2565

「瀬高町セルリー部会」に並んで、みやま市のセロリに欠かせない人々がいます。それが、トークタイムで大活躍の宮本さんをはじめとするみやま市役所の皆さん。博多駅で年に7回開催されるマルシェ「ファーマーズマーケット」や鬼丸さんと開催される収穫体験など、セロリのPRで全国各地を飛び回っています。
穴バー会場でも、セロリかりんとうや羊羹、セロリのスープ、ハーブソルトなどセロリを使った加工食品を販売。その合間に来場者の皆さんと熱いセロリトークを交わしていました。
「穴バーのお客さんの中で、『セロリは好きだけど、みやま市で栽培しているなんて知らなかった』という方も多かったんですよ。みやま市でこんな風にセロリ料理が食べられるレストランを作ったらいいかも」なんて次なるアイデアも浮かんだそうですよ。

たくさんの人の知恵と工夫によって技術が改善・改良され、今やみやま市の一大産業ともいえるほどとなったセロリ栽培。これまでのストーリーを知ると、おいしさもまた格別です。みやま市の景色と笑顔を思い浮かべながら、長〜い旬を召し上がれ!

(取材:編集部、文:ライター/大内理加、写真:カメラマン/王丸嘉彬・雨宮どら)

RELAVANCE 関連記事

PAGE TOP