穴バーレポート ACTIVITY

遊びながら休みながら次の一手を考える。 右田果樹園三代目が取り組むのは農業のイメージを変える観光農園。

今回のゲスト、「右田果樹園」の3代目右田英嗣さんにとって、“柿を楽しむ”とは目の前の果実をいただくことだけではありません。胸のすくような耳納連山と果樹園の景色を眺めながら、「自分の手でもいだ柿を味わう。この場所でしかできない思い出も持ち帰って欲しい」と、農家の枠を超えてさまざまな活動に取り組んでおられます。

柿を植えた初代、観光農園を開拓されたお祖父様、観光としての「柿狩り」で田主丸を盛り上げたお父様、アイデアと共に受け継がれたバトンを手に、3代目の右田さんはこれからどんな道を歩むのでしょうか?

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右田果樹園の柿畑は全部合わせて6ヘクタール、その一角にある観光農園には約3000本もの柿の木が植えられています。「普通は柿8年と言いますけれども、うちの柿の木は僕の曾祖父の時代に植えたものなので、樹齢は100年近くになります」

耳納連山の斜面にしっかりと根を下ろした柿の木は、よく見ると上ではなく横へ枝を伸ばしています。実はこれも観光農園ならではの心くばりです。

「9月初旬〜12月上旬の収穫シーズンが終わったら、冬の間に落葉した枝の剪定を始めます。観光農園として、子どもでも手が届くよう背の低い枝をあえて残したり、車いすの方でも移動しやすいように果樹の間を整えたり、お客さん目線で調整するように心がけています」

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観光農園の果樹は、どれも横に伸びて枝ぶりも立派。樹間も広めに取られている

温かくなってきた後も、土造りや草むしりをこまめに行います。右田果樹園では、自然に近い形で育てたいと化学肥料を使わず有機質の肥料を使用しています。できるだけ回数を減らして撒いているため、じっくりと畑と向き合いながら管理をする必要があります。その後、新芽を選別して、多すぎるものは摘み取る「摘蕾」を施します。

「5月下旬ぐらいになると柿の花も咲くんですよ。花が小さくて、薄いクリーム色。地味なんですけど、素朴でかわいらしいんです。その時期には受粉のために放たれたミツバチが畑を飛び回っているんですよ」

収穫期の後も、四季折々の表情を見せる柿畑。実をつけるまでのささいな変化を愛おしみながら、右田さんは一年かけて柿作りに取り組んでいます。

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枝が茂りすぎると地面に日が射さなくなるので、紐で引っ張って調整したり、実が太っても折れないように枝を支えたり。来年の畑を想像しながら手を入れる

柿畑で遊んでもらいたい!
地域で取り組むマルシェイベント

今でこそ当たり前のように楽しめるフルーツ狩りですが、実は柿狩りができるところは全国でもかなり珍しいのだそうです。

「柿の生産地は山間部ですし、トイレや駐車場なども整備されていないところがほとんどです。柿畑自体をイチから作るとしても、ものすごく時間がかかる。幸いにも、右田果樹園の畑は傾斜がゆるやかで歩きやすいので、観光農園にバッチリの場所だったんです。この果樹園は本当に先祖代々の宝です」

そう語る右田さんにとって果樹園の思い出といえば、お祖父様やお父様が果樹園で仕事をする姿や、お客さんの笑顔が一番に浮かぶそうです。

「いつか僕も祖父や父のようにおいしい柿を作って、お客さんに喜んでいただきたいなと思って、早くから果樹園に就農をすると決めていました。実際に継いでみると毎日本当に楽しいです。よく農家は休みがないとか、ネガティブな意見もありますけど、遊ぶ時は遊びますし、遊びで出かけた先でもヒントを探しています。いい意味で公私混同。遊びながら、休みながら、次の一手を考えています」

柿作りを日々楽しんでいる右田さんは、4年前からある画期的なイベントをスタートさせました。なんと、柿畑の中でマルシェを開催したのです。

「柿狩りに加えて、畑で何か面白いことができないかなと思って、飲食店のシェフやデザイナーなど、さまざまな業種の人たちに声をかけたのが始まりです。

これは2018年の動画です。コーヒースタンド、ハンバーガーショップ、サンドイッチ専門店など、賛同してくれた飲食店を柿畑に招いて、マルシェを開催しました。地域一体型というか、右田果樹園だけではなくて久留米市、うきは市、ひいては福岡県全体を巻き込んだイベントになっていければいいなと思っています」

こちらは、2018年のTOIRO PARK動画。ちなみに「TOIRO PARK」とは、十人十色からきているそう。最初に開催した時、出店者が10名だったことから名付けた。「PARK」とは、柿畑がいつか公園のように人々が憩う場所になればとの思いが込められている。

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写真は2019年のマルシェの時に柿畑の中に作られた迷路。「2019年は会場の規模を増やして、マルシェの店舗数も増やしたんです。過去最高の人出で地域がかなりにぎわいました。もちろん2020年も開催しますよ」

イベントの準備や講演会、柿のPRなど、農業以外でもさまざまな活動をこなす右田さん。忙しい日々を楽しんでいるかのようなイキイキとした表情が印象的です。

「観光農園もやっぱり農業ですから、ものづくりが基本です。今まで先代が築いてきた柿作りを守りつつ、新しい発想を農業に取り入れたいと思っています。例えば、柿以外にも桃やオリーブ、ブルーベリーの栽培もしていますし、冬から春にかけてはイチゴ狩りがスタートします。僕は農村、農家のイメージをおもしろく、カッコよく変えていきたいと思っています。地域を盛り上げながら、まずは右田果樹園がそのモデルケースを目指そうと思っています」

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右田果樹園では、収穫シーズンも終わりを迎え、しばし準備期間…と思いきや、年明けからはイチゴ狩りがスタートするそう!

一年を通じて、四季の恵みと田主丸の自然、プライスレスな思い出を体感できる特別な空間へ。右田さんの挑戦はこれからも続きます。

(取材:編集部、文:ライター/大内りか、写真:末次優太・編集部)

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