穴バーレポート ACTIVITY

山を育てるために、豚を育てる 水俣モンヴェール農山の未来につながる取り組み

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ゲストに登場いただいた農山文康さん(写真中央)と諸橋賢一さん(写真左)。そして料理人の清水良一さん(写真左)

モンヴェール農山を代表して今回穴バーにご登場いただいたのは、創業者・農山照夫さんのご長男、文康さん。現在は、父・照夫さんと共に農場を運営し、父の背中を見ながら日々修行にいそしんでいるという若きホープです。
そして、以前「水俣食べるバー」にゲストとして登場いただいた、「水俣食べる通信」の編集長、諸橋賢一さんもご参加くださいました。同誌は、水俣ならではの食べ物や生産者のストーリーを食材と一緒に届けるという“食べもの付き”情報誌です。編集長である諸橋さんが、誌面でモンヴェール農山を取り上げたことを機に、農山家とも親しくされ、共に水俣を盛り上げていらっしゃいます。

モンヴェール農山がなぜ水俣の山奥に養豚場を作ったのか、「山を育てるために、豚を育てる」という経営理念とはどういう意味なのか、お二人に話を伺いながら、掘り下げてみます。

自由奔放で、愛情深い父親
創業者・照夫さんの開拓スピリッツとは

幼い頃から自然に親しんで育ったという、若き日の農山照夫さんが養豚業を始めたのは、高校3年生の時でした。林業と稲作を営む両親の元で育ったこともあり、自然の流れで農林学校に進学。養豚場に実習に行ったことをきっかけに養豚に目覚め、豚10頭を飼いはじめました。

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順調に頭数も増え、規模が拡大していく中で、照夫さんは豚にとってより最適な環境を探し求めます。そこでたどり着いたのが現在の場所。山を購入し、自らブルドーザーに乗って土地を開墾、何もなかった山奥に、豚舎のみならず、レストランや自作の滝、展望台まで造られたそう。常に好奇心旺盛で、一度決めたことをやり遂げる行動力はなかなか真似のできないものですが、今の時代にも私たちが見習うべきことかもしれません。

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なんとこの滝も照夫さんのお手製!

長男・文康さんは、3人の姉妹と共にこの大自然の中で育ちました。「水俣の市街地からは8キロも離れていて、近くに友達がいないのでずっと姉妹と遊んでいました。小さい頃から家業を手伝っていましたが、いつも楽しそうに働いている父の姿をみているうちに、僕もいつかこうなりたいと思うようになったんです」
文康さんだけではなく、豚肉の加工技術を学んで施設をオープンさせた長女の春香さんや、現在レストランを手伝う次女の果穂さんも、父に憧れ、父を支えたいと、自らモンヴェール農山に携わることを選んだそう。

「水俣食べる通信」の諸橋さんは、「僕から見ると、農山家はまるでひとつの山みたいなんです。マザーツリーとしての照夫さんがいて、その愛情をうけてゆっくりと育った木々のような子供たちがいる。そして今度は、彼ら子供たちが自分なりの森を作っていこうとしている。頼もしいですよね」と話します。

照夫さんの夢や生き方に家族みんなが共感し、それぞれが楽しみながら家業を支えている。その光景がとても理想的で微笑ましく、モンヴェール農山のこれからにもますます期待が膨らみます。

山と豚、そして人。
持ちつ持たれつのいい関係を構築する

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モンヴェール農山は4000頭の豚を育てることで得た資金を、継続的に山への投資に充てています。それは「山を育てるために、豚を育てる」という経営理念に基づいてのこと。
「父は、僕らの孫の代にも豊かな自然を残したいと考えています。良い山を維持するためには、間伐や草払いなどで人の手を入れる必要がありますが、その人件費や機械の維持費など、かかる経費を支えてくれているのが養豚業なんです。また豚の糞尿を肥料として山に返すことによって、時間はかかりますが木々が成長し、美味しい地下水が生み出されます」と、文康さん。

照夫さんが山奥に養豚場をつくったもうひとつの理由がここにあります。
よりおいしい豚肉をつくるには、新鮮な空気や水が重要です。豚は快適な環境を山から提供され、山は豚の恩恵によってメンテナンスされる。この場所で「山を育てるために豚を育てる」ことで、循環型のエコシステムができあがる、持続可能性を見据えた取り組みと言えます。

養豚を通じて、山だけでなく
地域にも貢献していきたい

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次世代を担う文康さんは、幸せの循環をもっと広げていきたいと考えています。「たとえば、豚の糞尿を肥料にした野菜づくり。地域の人にも参加してもらい、できた野菜を買い取ってレストランで多くの人に食べてもらうことで、作る人、食べる人、そして豚もハッピーになる。あるいは糞尿を活用したバイオガス発電。公害に苦しんだ水俣という土地だからこそなおさら、環境に配慮した取り組みを掲げていきたいです」と話してくださいました。

合わせて、水俣全体を盛り上げていきたいという思いも。おいしい豚肉を作ってモンヴェール農山に人が集まれば、観光客も増え地域が活気づくはず、と、県内外へのプロモーションにも奮闘しています。

豚へ、山へ、地域へと思いはどんどん広がりますが、揺るがない信念を持ち続け、チャレンジを恐れない。モンヴェール農山の未来、そして水俣の今後が楽しみです。

(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:末次優太・編集部)

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