7月の穴バーは、熊本県水俣市の山奥にある畜産農場「モンヴェール農山」で育てられている豚肉「モンヴェールポーク」をテーマに開店しました。豚肉には、エネルギーの代謝を促すビタミンB1が豊富に含まれていて、夏バテ防止や疲労回復にも効果的。夏の暑さで疲れた体にたっぷりとエナジー補給です!
今回の開催は、編集部スタッフが、「モンヴェール農山」の長男・農山文康さんのお話を伺う機会があり、豚への深い愛情や「山を育てるために豚を飼う」という経営理念(詳しくは次のレポートで)に共感したことがきっかけでした。ようやく念願かなって、モンヴェール農山の豚に絞り込んだテーマで、穴バーを開店することができました。早速、モンヴェール農山の美味しい豚肉がどんな環境のもとで育てられているのか、掘り下げます。
「モンヴェール」とは、フランス語で「緑の山」という意味。モンヴェール農山の敷地はなんと約50ヘクタールもあり、東京ドームに換算すると約10個分というから驚きです。約4000頭を飼育する豚舎だけでなく、レストランや加工場、動物とのふれあい広場や展望台まで設けられ、まるで自然のテーマパークのような空間が広がっています。
ハイブリッドな四元豚・バブコック
魅力は優れた肉質と愛くるしさ
みなさんは「三元豚」という言葉を聞いたことがありますか? 三元豚とは、3種の豚をかけ合わせて飼育された豚のこと。交配によりそれぞれの品種の優れた特徴が生かされ、よりおいしく安定した豚肉の供給を行うことができるようになります。私たちが日常食べている豚肉の多くはこの三元豚なのですが、最近では三元豚にもう1種の豚をかけ合わせて、さらなる品質向上を目指した「四元豚」も注目を集めています。モンヴェール農山で育てているバブコック種も四元豚のひとつです。
比較的新しい品種で生産効率が高くないこともあり、日本ではまだあまり生産されていませんが、世界的には高い評価を受けているバブコック種。豚肉特有の臭みがなく肉質は柔らかで、脂身にある芳醇な甘みが特長です。実はモンヴェール農山創業者の農山照夫さんがこの豚を選んだのは、優れた肉質もさることながら、バブコック豚の優しくて素直な性格が気に入ったからだといいます。
品種はもちろん、ストレスの軽減や水、エサも
おいしい豚肉をつくる大切な要素
豚肉の味を左右するのは品種だけでなく、環境ストレスやエサ、水などさまざまな要素が影響します。子豚の約80%は水でできているため、いかにおいしい水がある環境であるかが重要。モンヴェール農山で暮らす豚たちは、山から湧き出る地下水と新鮮な澄んだ空気、とうもろこしを主に大豆などを混ぜて作る自家配合の新鮮なエサなど、自然の恩恵をたっぷりと受けて成長します。
また農山さん親子は、「人間が動物に対して与えるストレスをできる限り少なくし、健康的な生活ができる飼育方法」を積極的に取り入れるべく、この考え方を実践しているデンマークやアメリカなどの農場を視察するなどして、日々勉強を重ねていらっしゃいます。
たとえば、豚は食べる場所、寝る場所、トイレの場所をきちんと分けて暮らすほどのキレイ好きです。そこで、豚に極力ストレスを与えないようにするため、豚舎の清掃に力を入れるのはもちろん、夏には風通しをよくし、冬は外気を遮るような工夫を凝らしています。それもこれも、すべては「幸せな豚を育てたい」という想いの表れです。
そうして元気に育てられた豚は、わずか半年で115キロにまで大きくなり、出荷されます。モンヴェール農山では、肥育した豚を屠畜場に出荷した後、再び枝肉を買い取って精肉に捌き、レストランでお客様に提供したり、店頭やオンラインで販売したりするほか、自社での加工も行っています。
素材の良さは加工品にも表れる
敷地内に立つ加工場「FACTORY LARGE(ファクトリーラルジュ)」は、長女の春香さんが、父・照夫さんの「うちの豚でソーセージを作りたい」という願いを形にしたもの。加工品は全て自社生産の豚肉を使用した、手作りの商品ばかり。増量剤や保存料は使用せず、スパイスはドイツから取り寄せ、塩は地元芦北町の温泉塩「岬の御塩」を使い、ソーセージやウインナーをはじめ、今では30種以上の加工品が作られています。
脂身までおいしいモンヴェールポーク。「豚は捨てるところがない」と言いますが、あらゆる部位が余すところなく活用されていて、豚肉のさまざまな味わいを実感することができます。
人里離れた山奥こそ豚に最適な環境と考え、ここで養豚を営むことを選んだ農山家。それには「山を育てるために豚を育てる」という経営理念が大きく影響しているようです。次回はその理念について詳しくご紹介します。
(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:末次優太・編集部)