今回、穴バーのゲストとして登場いただいたのは、きつき茶生産組合代表の佐藤和明さんと課長の稲吉政幸さん、そして組合の活動をバックアップする立役者、杵築市役所の宮川誠二さんと大分県職員の安部元一郎さんです。取材を通じて垣間見えた抜群のチームワークは、穴バー当日にもしっかりと生かされていました。

写真右から、大分県庁の安部さん、組合長の佐藤さん、課長の稲吉さん、杵築市役所の宮川さん
風穴を開けて意識改革を。
きつき茶生産組合としての一大決断。
そもそも、杵築でのお茶の生産は、地元の有志だった松山意佐美氏の呼びかけによって、昭和30年頃に本格化しました。学校給食にパン食が普及したこともあり、紅茶栽培を軸に取り組んでいましたが、外国産の紅茶が輸入されるようになると、国産紅茶の需要が減少し、緑茶への転換を図ったそうです。

きつき茶の祖・松山意佐美氏の石碑は今も顕在
きつき茶生産組合が昭和46年に設立された当時は、7~80軒の農家が加盟していたそう。現在組合長を務める佐藤さんは、大学卒業後に故郷である杵築市にUターン。農協で働く傍ら、祖父の茶園を手伝ううちに、「手をかけるほどいいものができる」という農業の真髄に魅せられて祖父の後を継ぎ、兼業農家として30年を過ごしてきたそうです。
「その間に、時代は大きく変化しました。お茶のペットボトルが主流になってきたため、主力商品であるリーフ茶(急須で入れるお茶)の価格が下がり、生産者の収入も減少傾向に。収入が減ると、肥料や設備に投資もできなくなるという悪循環に陥りますし、品質向上への意欲も生まれません」

お茶づくりに、強い覚悟と熱い想いを秘める佐藤さん
現在の組合は、お茶農家が17名、桑農家が3名という状況。穏やかな雰囲気の佐藤さんですが、立ちはだかる課題について語る表情は真剣そのもの。「このままではいけない、という大きな危機感を感じ、2年前に農協を辞めて組合に専念することにしました。次世代に負の遺産を引き継ぎたくなかったし、どうせやるなら自分の代でできる限りの努力をしてみようと思ったんです」
こうなったら「やるしかない」という気持ちだけ
その後、組合長に就任した佐藤さんを中心として、組合による本気の挑戦が始まります。まず取り組んだのは有機栽培への切り替えです。雑草取りなど、以前より格段に手間はかかるものの、品質管理の徹底や、お茶の付加価値を見込んでのことです。組合員の理解を得られるよう根気強く働きかけて、現在では組合で所有する21haのうち、約半分が有機栽培を実施するまでとなりました。
また、緑茶の品質向上と並行して新たな可能性を模索した結果、たどり着いたのがオーガニック抹茶でした。近年、特に海外での抹茶人気は高まるばかり。おいしくてヘルシーな「MATCHA」は、飲み物としてだけでなく、料理やスイーツに利用されるなど活用の幅も広がっています。きつき生産組合は、大きなポテンシャルを秘めるこの抹茶に、未来を賭けてみることにしたのです。そこから試行錯誤を重ね、ようやくこの春、抹茶の原料となる碾茶ができあがりました!

今年できたばかりの碾茶を、巧みなトークと共に会場で披露してくれた杵築市役所の宮川さん
杵築市職員の宮川さんは、この春お茶の担当に就任されたそうです。「組合が碾茶生産に取り組んでいるという話を聞いて、これは面白い!と感じました。私の役割は、生産者と飲食店や加工業者などをつなぐこと。抹茶を使ったいろいろな商品が生まれるような、きっかけづくりの役に立ちたいです」と意欲的。組合にとっては実に頼もしいサポーターとして大活躍してくれているそう。
大分を代表する県産品を目指して
きつきのお茶を盛り立てていきたい
大分県下で唯一となる甜茶の加工場も整い、県内各地の碾茶生産組合とも情報を交換しながら協力的な関係を築きつつあるといいます。「まずは栽培技術を高めて、碾茶を安定して生産できるようにしたいですね。そして緑茶も含めたお茶の産地・きつきのレベルを底上げし、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています」
歴史に胡座をかくことなく、素直な意見を受け止めながら改善を重ねること。栽培管理を徹底し、手間と愛情をかけて、より品質の高いお茶をつくること。魅力的な組合を形づくり、後継者を育てること。
佐藤さんが目指すゴールに向けてこれから取り組んでいくことは数多くあるものの、まっすぐに前を向く姿勢とみなさんの温かな人柄、強い意欲に、きつき茶の未来を心から応援したいと思いました。
(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:末次優太・編集部)