梅雨空を吹き飛ばすかのような、鮮やかな新緑色が食卓を彩った6月の穴バー。今回注目した主役食材は、大分県・杵築市でつくられるオーガニック栽培の抹茶です。城下町のイメージが強い杵築市ですが、温暖な気候と山間部の気温の高低差は、おいしい茶葉が育つ条件にぴったり。県下でも、お茶の産地としてその名を轟かせているんです。
実際に現地を訪れてみると、お土産屋さんにもスーパーにも、たくさんの銘柄の「きつき茶」が並んでいました。地元の人にとっては昔から慣れ親しんだ味。日常茶として、贈答用として広く愛されていることがわかります。
お茶の種類はさまざまあれど、
紅茶も緑茶も、実は同じお茶の生葉から
そんな「きつき茶」づくりの核となっているのが、お茶農家さんが中心となって組成する「きつき茶生産組合」です。組合では、茶葉の生産から、加工、梱包、出荷まで一連の作業をすべて手掛けています。ちなみに、今でこそ緑茶を中心に生産していますが、実は、もともとは紅茶が主流だったのだとか。なるほど…でも、そもそも緑茶と紅茶のつくり方って何が違うのかみなさんはご存じですか?
実は、緑茶も紅茶もさらにはウーロン茶も、原料は同じお茶の葉です。違いは、その生葉を乾燥・発酵させてつくる際の発酵の度合い。簡単に言うと、完全に発酵させたものが発酵茶と呼ばれる紅茶、半分ほど発酵させたものが半発酵茶のウーロン茶、ほとんど発酵させずに作るのが緑茶なのです。さらに緑茶にもいろいろと種類があり、普段私たちが多く飲んでいるのは煎茶という種類で、その他にも玉露やかぶせ茶、釜炒り茶などがあります。ちなみに抹茶の原料となる「碾茶(てんちゃ)」も緑茶の分類に入ります。
実際に、組合長の佐藤さんの茶畑におじゃましてみました。細い山道を車でぐんぐん上ること15分。到着した先に広がっていたのは、守江湾を見渡す広大なパノラマビュー! 青空の下、陽光を受けて輝く緑がまぶしくて気分爽快です。
訪れたのは5月で、ちょうど一番茶の収穫が終わったばかり。聞けば、収穫は年に3回行っているのだそう。冬の間にたっぷりと栄養分を蓄えて成長した新芽を摘み取ったのが、新茶と呼ばれる一番茶で、香り高くさわやかな味がして品質がよいといわれています。さらに、6月下旬~7月上旬に摘み取るのが二番茶、9月頃に摘むものを秋冬(しゅうとう)茶と呼ぶんですって。
組合で栽培しているお茶の葉は、日本茶の代表的な品種「やぶきた」をはじめ、約10種。それぞれの茶葉がもつ独特の味や香りなどの特徴を生かして、昔ながらの製法で煎茶をはじめ、ほうじ茶や玄米茶なども作っています。ちなみに今年は気候に恵まれ、出来は上々!とのこと。嬉しいですね。
急須で淹れるお茶、飲んでいますか?
おいしい煎茶の淹れ方を伝授!
きつき茶の特長は、なんといってもほのかな渋み。そして独特の甘みと豊かな香りなのだとか。早速味わってみたいところですが、最近はお茶を飲む機会もペットボトルが主流で、正しい急須茶の淹れ方を知らないという人も多いのでは。そこで、組合の中で「お茶の達人」と呼ばれている課長の稲吉さんに、煎茶を淹れる際のポイントを教えてもらいました。
1.水はできれは地下水を。水道水の場合は、一度沸騰させてからひと晩置くのがおすすめ
2.沸騰したお湯を、人数分の茶碗の8分目まで注ぎます。お湯を適温に冷ますとともに、湯量の計算をしながら茶碗を温めることもできるのだとか
3.急須に煎茶を入れます。目安は1人2~3g(ティースプーン1杯)程度。そこに、茶碗に注いでおいたお湯を移します
4.普通の煎茶なら1~2分、深蒸し煎茶なら30秒~1分くらい蒸らします。ここはじっと我慢どころ…
5.茶葉がわずかに開き始めたら、茶碗に少しずつ均等に注いでいき、一滴も残さないように注ぎきるのがコツ。そうすると同じ茶葉で2~3回は楽しむことができます
「お茶は、高い温度で苦み、低い温度で甘味が引き出されます。お茶の種類によっても多少適温は異なり、上級茶の適温は70℃、中級煎茶で80~90℃くらいですね」と、稲吉さん。こうして注がれた煎茶は、ほんのりと甘みがあり、しっかりと余韻が感じられました。ちょっとのコツで、こんなに味わいがグレードアップするなんて! みなさんもぜひ実践してみてくださいね。
噂のオーガニック抹茶を先取り!
抹茶の持つ特別感にはワケがある
煎茶をいただいてほっこり和んでしまいましたが、そうそう、今回の主役食材は、煎茶ではなく抹茶! 実は今、組合と杵築市が一丸となって、県内初の「オーガニック抹茶」づくりに取り組んでいるのです。今秋の商品化を目指し、只今ゴールの一歩手前ということですが、編集部としてはその抹茶をぜひいち早く味わってみたい! …ということで、組合に懇願し、今回の穴バーのために特別にご用意いただきました。
ところで、抹茶も緑茶の種類のひとつ、ということは先に述べましたが、具体的にはどのようにして作られるのでしょう。「抹茶には、碾茶(てんちゃ)というお茶を使うんですよ。碾茶は、茶葉の成育&加工の過程が煎茶とは少し異なります」と、佐藤さん。
一般的な緑茶は、サンサンと陽の光を浴びて育てられた茶葉を使用するのですが、碾茶の場合、新芽が出るとまもなく、茶畑をカバーで覆って育てるのだそう。日光を遮ることによって光合成の働きを抑え色濃い茶葉になり、うまみや甘みもしっかりと蓄えられるのだとか。
収穫した茶葉は蒸して乾燥。煎茶で行うような乾燥の前の揉みの作業はなく、葉の形状を残して鮮やかな緑色に加工します。こうしてできあがるのが「碾茶」です。この碾茶を石臼などでひき、細かい粉末にしたものが抹茶、というわけです。ひと手間もふた手間もかかるからこその特別感、なのですね。
オーガニック抹茶への取り組みは、組合にとっても転換となる大きな試み。次のレポートでは、なぜ組合がこの抹茶づくりに取り組むことになったのか、また生産者として現在抱える課題などについてのお話を掘り下げていきます。
(取材・文:ライター・吉野友紀、写真:末次優太・編集部)