コトバナ

やっぱりシエマはやめられない! まちで文化を発信し続けること 〜後編〜

VOL.009 「やっぱりシエマはやめられない! まちで文化を発信し続けること」

2015.04.23(木)

ファンの思いが結実し、デジタル化に成功

三好さん(以下、三好) シエマではつい最近、クラウドファンディングを利用して映画館のデジタル化に成功しましたね。これは、映画関係者だけでなく、地域で文化発信を考えている人にとって、大きな希望となった出来事でした。この経緯を教えてもらえますか?

重松さん(以下、重松) 映画業界では2008年ぐらいから、デジタル化という問題が騒がれ始めました。これまでの35mmフィルムと映写機がなくなって、デジタルでの上映に移行するということです。配給される映画自体がデジタル素材ですから、専用の上映設備がないと映画そのものを上映できなくなってしまうわけです。

三好 一般のお客さんからすると、実感がないのでわかりにくいですけど、映画館にとっては致命的な問題ですね。

重松 そうなんです。本来なら新しい機械は運営の利益で買うべきですが、なんせ1,000万円という大金で。しかし待っていれば安くなるわけでもなく、配給はどんどんデジタル化が進み、2013年には喫緊の課題となりました。

三好 1,000万円は、すぐに捻出できる金額ではないですからね。

重松 その頃、いつもシエマを気にかけてくれていた常連さんが、寄付をしたいと言っていただきました。そこで、これをきっかけに多くの人に呼びかけて、募金活動を始めたんです。


映画ファンや文化発信に関心のある方々、クラウドファンディングに注目する方などが集い、トークショーは今回も盛況でした

三好 どういう風に計画したんですか?

重松 2014年にデジタル化プロジェクトを進める組織「シエデジ会」を立ち上げて、戦略会議を丁寧にやり、各地で募金活動をしていきました。その時に、行く先々でクラウドファンディングがいいと薦められて。

三好 クラウドファンディングとは、何かの目的を達成するために、ネット上で寄付を募って資金を広く集める仕組みのことですね。クラウドファンディングを始めた時には、すでにシエデジ会の活動は伝わっていたんですか。

重松 そうです、それが今回成功した要因の一つだと思います。シエデジ会で約100箇所に募金箱を設置したり、チャリティーコンサートをやって新聞にも取り上げられたり。みなさんが活動を理解してくれていたので、クラウドファンディングが始まった時の注目度も高かったように思います。

三好 なるほど。それはすごく自然な流れですよね。「なにか貢献したいけど、現地にも行けないし、どうしよう」と考えていた人が、クラウドファンディングが始まったことで、「やっと払える!」と思ったと。

重松 そうですね、遠方からも応援してくださる方が多くて。結果、目標額の100万円を達成し、寄付と合わせてデジタル化の資金を準備できました。

三好 いきなりクラウドファンディングに踏み込むのではなく、地道な募金活動が最初にあったのも、成功の理由の一つではないでしょうか。その活動が広まって、シエマを応援したいという皆さんの気持ちが高まっていたからこそ、オンラインのクラウドファンディングも達成できたのでしょうね。

当事者意識を持って関わる

三好 この活動を通して、何が一番よかったことですか?

重松 目標を達成し、年末にデジタル上映機を購入して、上映できるようになったことが第一ですが、それに加えて、たくさんの人と関わることができたことが大きな財産になりました。

三好 100円でも払った人は、「私が協力した映画館」という気持ちになりますからね。

重松 たとえば国や県からポンと助成金をいただいてデジタル化を達成しても、こんなに多くの人を巻き込み、思いが集まった活動にはならなかったでしょう。

三好 まるで自分の映画館であるかのように、当事者意識を持つきっかけになったということですね。

重松 「高尚な文化施設である映画館は守るべき」というより、シエマを街中にあるスーパーのような生活必需品の一つと捉えて、街中の映画館を残したい、映画のある日常をなくしたくない、という皆さんの思いを感じることができてよかったし、だから募金も集まったんだと思います。映画を見なくても、コーヒーを飲みにきて、カウンターでおしゃべりをして。そういう日常の中の場所としてシエマを大切に思っていただけるのは嬉しいことです。

三好 なるほど。そう考えると、この施設はもともとの設計がとてもいいですよね。フリースペースがあって、いつもいろんな企画があって、人が気軽に集えるようになっていて。

重松 それは恵まれていますね。


ライブやワークショップ、結婚式もやっちゃいます。お客様の要望からスタートすることが多いのだそう。市民にとっては公民館のような場所なのかも。

三好 さてここで、ご来場の皆さんにとっての大切な文化拠点、自分が刺激を得られる場所を考えていただく時間とします。ぜひどなたかご紹介ください!


隣に居合わせた人とテーマについて話し合えるのも、このトークショーの特徴

石橋さん 私が今暮らしている能古島の島全体が文化拠点だと考えました。天気がよい日には、森や海辺で本を読んでいます。 ちなみに最近シエマへ行きましたが、近くの佐賀県庁の桜がとてもきれいで、新たなお気に入りとなりそうです。


「占いが趣味で、シエマにも占いをしてもらいに行きました」と発表者の石橋さん。後日、編集部へ佐賀県庁横の美し桜の風景写真を送ってくださいました。

Bさん 天神の昭和通り近くにあるECRU.というお店が好きです。僕はコーヒーが好きで、自分で淹れて飲むのですが、ここでマスターが淹れてくれる丁寧な一杯を飲むと、気が引き締まります。

Cさん 護国神社の蚤の市が好きな場所です。定期的に開催されていて、行こうと思えばいつでもいけるし、ふらっと立ち寄れば何か発見がある気がします。

三好 皆さん、それぞれに大切な場所をお持ちですね。シエマはもちろん、私たちがこれから作っていく場所も、こんな風に誰かの心の拠り所になれたら素敵ですね。

重松 本当にそう思います。

三好 では、最後にひと言どうぞ。

重松 はい。佐賀に来たことがない人は、ぜひ一度足を運んでみてください。福岡から特急で40分で来られます。先日も岡山から来た友達を案内しましたが、どことも似ていないのが佐賀の特徴と言われて、嬉しかったです。そんな魅力が、佐賀にはあると思います。武雄温泉や伊万里が目的でも、どうぞ飛ばさずに(笑)、市内にも立ち寄ってもらえたらと思います。本日はありがとうございました。

ゲストに聞きたいコト

会場で飛び出した質問をご紹介。

質問1 映画を高尚な文化ではなく日常として楽しめるようになるには、レンタルビデオやオンデマンドも重要な手段のひとつだと思います。そういう人たちに対して、映画館で映画を観ることのよさを、どのようにプレゼンしますか?

重松 大きな画面を、たくさんの人が同時に見ることができるのは映画館の醍醐味ですね。また、DVDなどと違って、自由に止めることができないのも特徴だと思います。映画は時間の芸術ですから、流れていくものに、こっちが否応なくついていくしかないもの。そこに自分の身をゆだねるのが、映画らしい体験だと思います。家で飲むコーヒーとカフェで飲むコーヒーが同時に日常にあるように、家でDVDで見る映画と映画館で見る映画とが同時に皆さんの日常にあってほしいと思っています。

三好 映画館という現場に、事件的に居合わせるということですね。それから、次のいい作品を見るために、映画館でちゃんとお金を払い、映画産業に貢献することも大切なことですね。

今年も開催!
ぴあフィルムフェスティバル
4/24(金)~4/26(日)


福岡市映像ホールで行われる今年のぴあフィルムフェスティバルin福岡も、重松さんが所属する69’ersFILMが運営。園子温監督や石井裕也監督など、ぴあフィルムフェスティバルは毎年多くの素晴らしい監督を輩出する、映画好きならマストなイベント。「特に今年は、傑作が勢揃いとスタッフも太鼓判を押しています」と重松さん。

コトバナ編集後記

「映画は語るものじゃないので、感じたままに楽しんでもらえればいい」と語る重松さんは、ミニシアター映画館の支配人という肩書きとは裏腹に、とても気さくでやわらかい印象の方でした。寄付やクラウドファンディングを成功させたのも、重松さんやスタッフの皆さんの、映画を気負わず自然に楽しむ姿が共感を呼んだことが大きいのではないでしょうか。寄付をすることで当事者意識を持ち、遠く離れた場所からでも、そこに主体的に関わることができる。それは単なる消費とは違った、いまの時代らしいお金の使い方のように感じます。(佐藤)

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