2015.04.22(水)
新しいライフスタイルや面白いコトの実践を通して、いまの時代をいきいきと生きる魅力的な方々を招いたトークショー企画「コトバナ」。今回のテーマは、「やっぱりシエマはやめられない! まちで文化を発信し続けること」です。佐賀市内中心部に唯一ある映画館として、上映だけでないユニークな活動を続けるシアター・シエマの支配人・重松さんをお迎えし、街の人々に愛される施設づくり、文化発信の仕方についてお聞きしました。
- LOVE FMで営業・企画、イベント、webサイト「天神サイト」の編成チーフなどを担当しながら、「10zine」への運営参加のほか、フリーペーパー「シティリビング」での連載「DVD耽溺ガイド」(2011~)、不定期のDJ活動、映画・音楽・アートの分野で活動中。
- 佐賀市の中心部にある、映画と音楽と本とカフェに親しめる小さな映画館「シアター・シエマ」の支配人。学生時代は名画座に通い詰め、上映会イベントなども開催。都内の映画館に就職し、東京国際映画祭の運営スタッフ等を経て、2007年より現職に。
食事も読書もできる、街の映画館
三好さん(以下、三好) 今回は、映画館の中でもそのユニークな取り組みで全国から注目されている、シアター・シエマの重松さんをお招きしました。私自身も、天神サイトの編成チーフやアートイベントなど文化発信企画をさまざまに考え運営している立場ですので、今日のトークはとても楽しみにしてきました。重松さん、どうぞよろしくお願いします。
重松さん(以下、重松) よろしくお願いします。有限会社69’ersFILMが運営するシアター・シエマで、支配人をしている重松です。
三好 今日のお客さんで、シエマに行かれたことのある人はどれぐらいいますか?
(1/3ぐらい手が上がる)。
重松 福岡の人は行かれたことない人も多いかもしれませんね。シエマは佐賀市内中心部、佐賀神社の北側にあるセントラルプラザという建物の3階にあります。
三好 佐賀神社北側の繁華街の辺りは、かつては映画館がたくさんあったらしいですね。
重松 そうなんですよ。現在では郊外型の商業施設やシネコンに押されて、街中の映画館はシエマ1軒だけになってしまったんです。
三好 オープンまでにどんないきさつがあったんですか?
重松 96年にオープンした前身のセントラルシネマは、3スクリーンを持つ中心市街地にある最後の映画館でした。しかし次第に運営が厳しくなり、福岡で上映イベントなどを開催していた有限会社69’nersFILMが運営をすることになって、2007年12月にミニシアターとして再オープンしました。
三好 映画を見るだけでなく、ご飯を食べたり読書もできる、一風変わった映画館ですね。
重松 使わなくなったスクリーンのひとつをカフェスペースに改装していて、日替わりのランチや軽食を提供しています。
三好 ソファも机もバラバラなのがいいですよね。カフェでご飯を買って、きままに中で食べながら映画を見られて。本もたくさんありますね。
劇場内の客席には様々な形のソファーが並ぶ。リラックスしながら映画が楽しめます。寝てしまいそう!
以前入っていた映画館の上映ルームをカフェスペース、イベントスペースに改装。本や雑誌はお客様の持ち込みで自然と増えていくのだそう。これもまたシエマの愛されエピソードです。
地域に根付き、愛される
重松 映画は見ずに、本を読んでコーヒーだけ飲んで帰る人もいますよ。
三好 映画関係の本が充実していますけど、どうやって集めたんですか?
重松 みなさんが持ってきてくれて、自然に集まったんです。うちにいいのがあるからとか、引っ越すから、とおっしゃって。
三好 フリースペースでも、いろんな催しがありますよね。
重松 ええ。子供たちに8mmフィルムに絵を描いてもらって、それを上映する会は好評でしたね。洋服の受注会やお料理教室もこれまでにやったことがあります。
三好 誰が呼びかけたんですか?
重松 近所に私もよく行く小料理屋さんがあって、そこのおかみさんと話しているうちに、やりましょう、となって。結婚式の二次会で使ってもらったりすることもあるのですが、その時には、うちのカフェでこんなオードブルを出したりもします。
三好 いいですねぇ(しみじみ)。皆さん、なんとなくわかりますよね? この地元にしっかり根付き、愛されている感じ。行ってみたくなったでしょう?
重松 ありがとうございます(笑)
三好 本日皆さんの手元にお配りした「凛」という雑誌も、発行者の方が今日のイベント開催を聞きつけて、在庫を無償で提供してくださいました。こういう、「シエマが何かやる時には自分も何か関わりたい」という熱い気持ちにさせる、魅力的な映画館ですね。
この日会場にいらしたエディターの方が制作した、2008年4月発行の小雑誌「凛」創刊号 。定価は500円だが、シエマのファンということで、ご好意により来場者全員に特別プレゼントされた。特集のシエマ誕生秘話も読み応えアリ
三好 でも最近は、シネコンと呼ばれる大型の複合映画館が増えて、単館系映画館はこぞってなくなっていくという、シエマにとっては逆風が続いていますよね。実際の運営状況はどうなんでしょうか?
重松 来客数は月平均1,300人程度で、経営的にはなかなか厳しいのが現状です。本当は2,000人平均くらいあるといいのですが……。
三好 これまでに一番お客さんが多かった映画は?
重松 「牛の鈴音」という韓国のドキュメンタリー映画です。佐賀県にも協力してもらい、題字を書いている菅原文太さんをシエマにお呼びしてトークショーを開催しました。イベントを打つと盛り上がりますね。
三好 69’ersFILMでは上映以外の事業もあるんですか?
重松 映像制作や、ぴあフィルムフェスティバルin福岡の広報・運営なども担当しています。幸い、佐賀県が映画にとても協力的で、フィルムコミッションも盛んなので、いろいろな活動を展開できます。
三好 そういった活動によって、シアター・シエマの運営も支えられているわけですね。
ご自身の専門分野ということもあって、進行にも力が入る三好さん
私の一冊
井上ひさし「ボローニャ紀行」
かつては戦争で荒廃したボローニャの街が、文化を中心に立ち直っていき、現在ではヨーロッパでも有数の文化都市になっていることを書いた本です。ちょうどシエマのデジタル化募金が終わった頃に読んで、自分達がやってきたことに通じる部分があまりに多くてびっくりしました。自分たちの生活に必要なものを、自分たちの手で作り、運営して維持していく。そういう当たり前のことの大切さを実感した本ですね。
川原テツ「名画座番外地―「新宿昭和館」傷だらけの盛衰記」
新宿昭和館という、任侠映画専門の映画館を舞台にしたノンフィクションです。作者はそこに20年務めた人で、個性豊かなお客さんや従業員の人たちの人間模様が、さまざまなエピソードとともに軽快なタッチで書かれています。映画館が、単に映画を観るだけでなく、大衆的で人情のある地域の場所として存在する姿は、シエマも参考にしたいですね。