イベントレポート

散歩の楽しみ〜STYLE02 〜

the guide book to new life new style, my “walk”散歩の楽しみ

2015.04.21(火)

新しい生活がはじまるこの季節、春。「the guide book to new life style」をテーマに、アミュプラザ博多でトークショーが開催されました。2回目となる今回は「散歩」について。糸島市で、木工を中心に暮らしにまつわるさまざまな商品を販売する「糸島くらし×ここのき」の店主・野口智美さんをゲストに迎えて、自然溢れる糸島での日々の散歩のこと、散歩の楽しみ方を見つけるヒントをお話しいただきました。

ゲスト:野口 智美さん(糸島くらし×ここのき 店主)
間伐の仕事の経験などから、山の現状と課題を伝えるべく、2010年5月に前原商店街にショップ「糸島くらし×ここのき」をオープン。糸島の作り手による商品を販売する。商品を通して自然とともに生きる「暮らし作り」を模索中。
聞き手:曽我(アナバナ編集部)
「アナバナ」編集長。株式会社ダイスプロジェクト所属。広告ディレクター、編集を担当。散歩ではついつい横道にそれがち。路地を覗いて、人の暮らしが漂う感じを楽しんでます。

朝から開催されたこの日のトーク。イリーさんよりコーヒーと「コルネット」というイタリアの定番朝ごはんが用意されました。

野口さんのお店「ここのき」について

曽我 みなさま、朝からトークイベントへお越しいただきありがとうございます! 今日は糸島より「糸島くらし×ここのき」(以下、ここのき)の野口さんをお迎えしました。野口さんよろしくお願いします。

野口さん(以下、野口) 朝からありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

曽我 今回は「散歩」がテーマということで、野口さんが普段目にしている散歩の風景や特別な散歩の風景、また散歩って一体何だろう? ということについてもお話します。でははじめに、野口さんのお店「ここのき」についてお伺いしたいと思います。「ここのき」は、以前もアナ話でご紹介させていただきました。糸島の作り手のものを中心に取り扱いされているんですよね。

野口 はい。器やクラフト小物など雑貨をはじめ、農産物の加工品や焼き菓子などの食品も扱っています。今は60名くらいの作家さんのものを置いていて、半分以上は糸島の方です。


ぬくもり溢れる「ここのき」の店構え。看板や扉は糸島在住の木工作家が手がけた。店奥に入るコーヒー店「Tanacafe+Coffee Roaster」も人気。

曽我 「ここのき」をオープンされてもうすぐ5年ということですが、どんなきっかけでお店を始められたのですか?

野口 もともと山が好きで、山を元気にしたいという思いがあったんです。

曽我 山を元気にするというのは?

野口 山って、木が密集しすぎないように間伐(※)をして日光を取り入れてあげたりと、手入れしないと元気に保たれないんですね。でも間伐材はそのまま放置されているのが現状でした。だから地元の間伐材を使って何かできないかな、そうすれば流通も生まれて山の保全に協力できるんじゃないかなと思ったんです。
※ 間伐…森林を健康な状態に保つ為に木を間引くこと。

曽我 野口さん自らも間伐のお仕事の経験があるんですよね?

野口 そうですね。チェーンソーで木を切って、引っ張り出すという。

曽我 おお!

野口 間伐材を使った商品づくりもしているんです。通常、間伐材は市場に集まり、そこから製材所が丸太を買い、加工されて、そのまま流通に乗せるという流れなんですね。ですが、林業家さんが間伐された木を、私がトラック丸ごと買い取り、それを堀田製材所さんで製材してもらい、その木を使って作家さんに商品を作ってもらう。だんだんそんな商品を増やしていき、糸島産木材が糸島で流通する仕組みをつくっていけたらと思っています。

曽我 素晴らしい取り組み。そうした野口さんの取り組みを伺ってもわかりますが、地元の方と密なつながりがあるんだな、というのは、何度かお店に足を運んだ時もすごく感じました。

野口 お店には自然と作家さんが相談に来てくれることも増えたかもしれません。

曽我 糸島のことなら「ここのき」に聞け! と言いたいくらいの存在感ですよ!

野口 いえいえ、私は特に何もしてないんですが(笑)

曽我 お店は糸島の中でも街のほうにありますよね。

野口 はい。店がある前原商店街は、旧唐津街道が通っていた場所なのですが、昭和期には相当栄えていたようです。その名残で、商店街には立派な建物がいっぱい残っています。「ここのき」の駐車場の塀も、銀行の跡なんだそうです。


かつては宿場町として栄えた前原商店街には、その歴史がいたるところに残されている。情緒漂う商店や、ここのきさんの駐車場でもある銀行跡地の赤煉瓦塀など。周辺には下町の情緒も残る人の香りがある

前原商店街を舞台に毎月開催される「軽トラ市」。地元の農産物を使ったメニューが並び、過去には市で結婚式を挙げたカップルも。

糸島のゆるキャラ!? 糸島先輩も登場。今日の進行曽我さんは糸島先輩の大ファンだそうです。

そもそも「散歩」とは?

曽我 今日のテーマは「散歩」。でも私、実は散歩について深く考えたことがありませんでした。

野口 私もありません(笑)。

曽我 そこで「散歩」について簡単に調べてみましたのでちょっとご紹介しますね。

散歩とは?

‘気晴らしや健康のためにぶらぶら歩くこと。散策。’(広辞苑より)
‘気分転換や健康のために、あるいは好奇心のために、特に目的地を設けずに歩く行為。散策。’(Wikipediaより)

曽我 つまり、とくに決まりはなく、自由に歩くことのようです(笑)。ちなみに語源は「麻薬の効果を散ずるために歩く行為」(※)なんだそうです。

※散歩の語源は「中国の三国時代に「五石散(現在のドラッグ)」が貴族や文化人の間で滋養強壮薬として流行。しかし服用後に発汗しなければ体に毒が溜まり死にいたるという副作用のため、散発を促すべく歩き回るようになった。(Wikipediaより抜粋)」のだそう。

 

野口 へ〜!

会場 へ〜!

曽我 散歩に期待できる効果としては、基礎代謝が上がる、良質な睡眠のもとになる、幸せなホルモンが増える、カルシウム分が増える、コレステロール値が下がる……。つまり散歩とは、身体にとっても良いということが医学的にも証明されているみたいですね。

野口 散歩、すばらしい(笑)。


「散歩」についてアツく語る二人。写真のスライドは、散歩をするにあたって併せて行うとより良いとされる4つのポイント。散歩、意外と奥が深いです。

日々の風景

曽我 今回は野口さんに色々と散歩で見る景色の写真を撮ってきていただきましたので、それを見ながらお話を伺っていきましょう。

野口 散歩するからといって、普段からカメラを持ち歩いたりはしないんですが、今日のイベントのお話をいただいてから急遽カメラを持ち歩いてみました。

曽我 ありがとうございます!

野口 自宅から店まで歩いて10分くらいの距離なんですけど、いたるところに草花が咲いていて。カタバミ、キュウリグサ、カラスノエンドウ、ヒメツルソバ、タンポポ、スズラン、スイバ……。いわゆる雑草なんですけど、街の中でも力強く咲いているので、わりと探しやすいです。

曽我 普段は通り過ぎてしまうような場所も、意識することで新たな発見があったりしますね。

野口 そうですね。普段からいいなあ、可愛い花だなあと思っていることを、カメラを持ち歩くことであらためて気づかされるというか。散歩中に摘んだ草花を、家で飾ったりもしています。

野口 あとは個人的に古いものとか、ちょっと変わった景色なども好きなので、古いおうち、不思議な看板、ちょっとレトロな風景なんかも散歩の楽しみのひとつですね。

曽我 わかります。新しいものにはない時間が経って味わいとか、今はあまり見かけないデザインとか、そそられます。

野口 糸島には特に、そういう場所が残っているような気がします。そういう風景って、アイディアやヒントになっていたりするんです。


「ここのき」には自分のお店を開きたいという方の来店も多いとか。そんな方々の相談にのっているうちに、ついつい空き物件に目がいくようになったという野口さん。

いろんな散歩

曽我 美しいですね。これは日の出ですか?

野口 井原山第一古墳からの日の出です。古墳も好きなスポットです。

曽我 糸島って古くは弥生時代に1万戸の家に5~6万人が暮らしたという歴史も残っているんですよね。昔から栄えていた土地ということもあって、こういう史跡も多く残っているんでしょうね。

野口 え、そうなんですね・・・

曽我 あれ? 私は野口さんが手がけた「糸島おくりもの帖」で勉強しましたよ(笑)

野口 すみません! ちゃんと見ておきます(笑)


ここのきさんが主体となって2014年に発刊した本。糸島のものづくり、糸島で暮らす人たちの声を通して、糸島の魅力に触れることができる。

曽我 では次の写真を見てみましょう。

曽我 美しい! これは何の木ですか?

野口 これは雷山の千如寺の境内にある大カエデです。秋は圧巻ですよ。ほかにも、加布里湾から見る夕陽や、荻浦地区の田んぼの風景などなど、糸島の自然って四季折々美しいです。自分にとっての特別な場所に行くための散歩も、よくしていますね。

曽我 糸島には山がたくさんありますが、おすすめの山があるそうですね。山登りとか運動のために山を歩くこともありますか?

野口 はい。たまに登ります。以前山の仕事をしていた時は、仕事じゃないのに山に行くなんて、と思った時期もあるんですが、今は山登りも散歩もしています。木の実を拾ったり、野イチゴをつまんだり。

曽我 そんなに標高も高くないのでフル装備で出かける必要もないとか。

野口 そうなんです。糸島には山がいろいろありますが、可也山、二丈岳、立石山は山頂からの景色が最高です。しかも途中まで車で行けるので、ちょっと運動したい時にもオススメです。

野口 「散歩」とひと言で言っても、日々の散歩、運動するための散歩、敢えて景色を楽しみに行く散歩など、その人なりの散歩のスタイルがあると楽しいかもしれませんね。


それぞれ可也山(左)と立石山(右)から糸島半島を臨む。

会場のみなさんに、お隣の方と“散歩”について
話していただきました。

・家から仕事場までの道のりを毎朝散歩
・食後、満腹感を落ち着かせるために散歩
・パン屋さんなど買い物“ついで”に散歩
・目的を持たない散歩は一人でのんびりと
みなさんあまり目的を持たずふらりと出かけることが多いようです。

編集部曽我の散歩の風景


「気になったものは写真を撮りながら、路地とか建物とか、横道にそれつつウロウロ散歩を楽しんでいます」(曽我)。散歩での行動を整理すると、「人んち(のぞき?)」「見上げる」「見下ろす」「路地」「猫」など、いくつかのワードに分けられることに気づいたそうです。

散歩の達人たち


この日配布されたのは「あなたがつくる糸島地図」。行きたい場所、お気に入りの場所を書き込んでいけば、自分だけの地図になる。糸島のものづくりや、作家の想いなどが紹介されている『糸島おくりもの貼』(2014年4月刊行)のカバーとして制作されたもの。

曽我 野口さんから見て、理想の散歩ってどんな散歩ですか?

野口 理想というか、散歩の達人はやっぱり子どもだなあと思いますね。

曽我 ああ、分かります。気になったら躊躇なく寄り道(笑)。

野口 糸島に「ワクワクこども園」という保育園があって。朝から夕方まで子どもたちが泥んこになるまで外で遊ぶんです。登園したらまずは「今日は何をする?」という作戦会議からはじまる。“散歩”というより“探検”という感じなんですが、みんな思い思いに歩いて、遊んで、本当にワイルド。これこそ“散歩”だなあと思いますね。

曽我 子どもにとっては、日々、散歩なんですね。大人は、あんな風に歩きたくても歩けないですね。


「ワクワクこども園」の様子。自然を体中で感じることで、体力・自立心・好奇心等が養われ、園児は驚くほど逞しく成長するそう。(ワクワクこども園では只今園児募集中だそうです!)

野口 見過ごしがちな景色に気付くという点でいくと、「ここのき」でも取り扱いしている作家の「マイマイ計画」さんも、散歩上手だと思います。身近な自然をポストカードにして販売しているんですが、感動する風景を撮ってポエムを乗せています。見たことあるはずなんだけど、ついつい見過ごしてしまいがちな風景に気付かせてくれるというか。

曽我 今日は「散歩」についてお話ししましたが、あらためて考えてみてどうでしたか?

野口 まず、自分は散歩が好きなんだなあというシンプルなことに気付けたことが良かったです。それに、糸島はすごく良い環境なんだということも、あらためて実感できました。

曽我 これから散歩が気持ちいい季節になりますが、糸島でどこかおすすめの場所などあれば最後に教えてください。

野口 やっぱり山とか田んぼのあぜ道とかですね。私自身、自然の中が大好きなので。そうそう、余裕がある人は、「糸島三都110キロウォーク」もおすすめです。糸島半島を2周するんですけど、完歩率40%くらいらしいです。

曽我 完歩率低いですね……(笑)。

野口 今年は募集を締め切られていますが、毎年開催されていますから、来年はぜひ。かくいう私は、こういった運動のための散歩は苦手なんですけれど(笑)。

曽我 こうして話してみると、散歩って“余裕を楽しむ”ということかもしれませんね。緊張していたり、焦っていたりしていると、景色にも足下の草花にもなかなか気付けません。今日は野口さん、いろいろな散歩の風景を紹介していただきありがとうございました!


「散歩」がテーマということもあり終始和やかな雰囲気のトークとなりました。野口さん、ありがとうございました!

糸島くらし×ここのき

糸島市前原中央3-9-1 唐津街道前原宿通り
TEL 092-321-1020
営業時間毎日10時~18時/火曜定休
http://www.coconoki.com/

編集後記

トークの後、故赤瀬川原平さんらが提唱していた「超芸術トマソン」を思い出しました。トマソンとは、「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物」。例えば高所にある扉、埋め立てられた門、用途を失ったまま残された階段……。トマソンは不動産に限定されていますが、「トマソン的なるもの」は、街や自然のいたるところに存在しています。一見役に立たなそうなもの、ついつい首を傾げたくなる「?」なもの。役立ちそうでも、自分の“トマソン心”をくすぐるものもよく目にします。お散歩の楽しさが身にしみて、だんだん没頭してくると、カメラを片手に自分だけの「トマソン的なるもの」を探すのもまた一興。野口さんの言葉をお借りすれば、そういったものにこそ「暮らしのヒントが隠されているかも」しれません。(堀尾)


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