コトバナ

撮る・つくる・残す 暮らしと写真の楽しい関係 〜後編〜

VOL.008 「撮る・つくる・残す 暮らしと写真の楽しい関係」

2015.04.09(木)

自分なりの写真の楽しみ方を見つける

三迫 面白いコラージュ写真ですね。

山下 これまで風景写真ってあんまり興味がなかったんです。それよりは、自分の言葉が通じる人=ポートレートのほうに魅力を感じてたんですね。でも一度、その“言葉が通じない”風景との関係性に注目してみたいと思って実際に撮ってみたら、そこにただ在るものを無言で撮るということが、自分の性に合ってるんじゃないかって気づきました。私、コミュニケーション下手じゃないですか(笑)。

三迫 いえいえ、そんなことないですよ(笑)。

山下 でも、それはそれでいいじゃないか、と。一方で、誰でもシャッターを押せばこれが撮れるのかもしれないとも思ったとき、だったら見せ方を工夫して、自分なりに遊んでしまおうと意識して撮るようになったんです。

三迫 その結果、この木の写真が出来上がったんですね。

山下 とっても大きな木で、この日は風が強かったんです。手のひらサイズだとそれは伝わらないだろうと思ったんですが、大伸ばしにすると値段が上がる。Lサイズをパズルみたいに組み合わせてみたら、動きも出て、立体感も出るんじゃないかな、と。

三迫 この作品についてはどうですか?

山下 昔から好きなバンドで「アナ」というアーティストがいて、ひょんなきっかけでアルバスでライブをしていただける機会があったんです。

三迫 写真屋さんでのライブは、普段のライブ会場などとは違う面白さがあるでしょうね。

山下 せっかくだから一緒になにかやろう!と。当日限定販売のCDを作ることになり、彼らが写真にまつわる曲を作ってくれ、私はCDのジャケットの写真とデザインを担当しました。彼らは福岡出身ですが今は活動拠点が東京なので、撮影は東京でやりました。

三迫 これはその時の写真なんですね。

山下 はい。カメラを構えながら、私はもうデレデレでした(笑)。

三迫 ただ撮影する、現像するだけじゃなくて、こうやって次に続く楽しみ方ができるのもいいですね。僕も、もらってきたDMや写真を仕事場の壁にペタペタ貼ったりして、フッフッフッ……と一人で遊んでます。

山下 それは楽しいに決まってますね(笑)。写真はこうやって人に見せるのもいいし、自分で眺めるのもいい。どんな形であれど、撮ったあとの楽しみ方が、写真の面白さを深めているのだと思います。


仕事場のコピー機の上に、コピー機の写真(トーマス・デマンド作)を貼って一人で遊んでいます、という三迫さん

デジタルの波のなかで

三迫 SNSで写真を投稿する人も増えてきて、最近ではみんな携帯電話で写真を撮ったりもしてますよね。昨年までに撮影されたinstagramの写真の数ですが、なんと400億枚なんだそうですよ。

山下 400億枚! その数を聞くと、写真がこれまで以上に生活の一部になっているということを感じますね。

三迫 そうですね。ケータイで撮った写真も、写真なんですよね。山下さんはSNSを使っていますか?

山下 はい。日々更新されるinstagramの写真も見ていますし、私自身も楽しんで更新しています。小さな写真展みたいで楽しいですね。SNSというと、一昔前はmixi、今はfacebookなどが盛り上がりを見せていますが、次々に新しいものが出てきているじゃないですか。次は何だと思います?

三迫 うーん。全然見当つかないですね〜。

山下 実は私、最近調べてみたんです。そうしたら「MixChannel」という10秒動画のコミュニティサイトが、次のSNSとして盛り上がりつつあるとか。

三迫 へ〜。どんな人たちがどんな動画を投稿しているんでしょうね。

山下 ユーザーは高校生くらいの年代が多いみたいです。内容は多種多様で、一発芸とか、カップルのやらせ喧嘩だったり、記念日動画とか。「いいね!」を一度に何度も押せるから、「いいね!」欲しさにみんな頑張ってるみたいです。若さが欲しいときに覗いてみるといいかも(笑)。

三迫 SNSもそれぞれに個性がありますよね。instagramだったらinstagramっぽい写真になるし、MixChannelだったらMixChannelっぽくなる。

山下 フィルムだったらフィルムの個性に引っぱられちゃう。

三迫 僕は仕事柄、SNSも好きなんですけど、フィルムにはフィルムの良さがあるなと思っていて。フィルムは一度きりしかないですもんね。フィルムのカメラを手にした瞬間に、人はどこかでそのことを考えて写真を撮っているような気がします。今日はフィルム、明日はデジタルと、知らず知らずのうちに使い分けている。

山下 そうですね。私もフィルムで撮ったものはプリントするけど、ケータイで撮ったものはプリントしてない。要は同じ風景を二つのカメラで記録してるので、携帯は画面で見るまでの記録になってます。いつの間にか知らず知らず使い分けてますね。

三迫 フィルムは年々少なくなってきていますね。

山下 もう、今にも消えてしまいそうです。でもそんな時代にある中で、こだわりを持ってフィルムで写真を撮っている人もたくさんいます。そういう人達がいる限りは、一緒にフィルムもあるだけ販売を続けて、アルバスという写真屋もあり続けられるよう最後の写真屋さんと言われるくらいになりたいです。なくなる時は愛をもってさよならしたいです。

三迫 だからと言って、アルバスってセンチメンタルな感じじゃないんですよね。古いものが残っているというよりは、むしろ新しいものが目の前にあるというか。

山下 フィルムを残したいからフィルムだけ、写真だけ。それだとパワーが足りないとは思います。そこからつながるものにも目を向けることで、少しでも写真が広がっていったらと思うんです。幸い素敵な人たちが周りにたくさんいらっしゃるので、そういう方々と一緒に何かを作っていけているという感じです。

三迫 さきほどのアナさんとの関係じゃないけど、写真があって音楽が生まれたり、音楽があって写真が生まれたり、そんなふうに異なった表現どうしの関係をつなげつつ活かしているのがアルバスなのかなという気がします。今日はありがとうございました。

会場のみなさんにも聞いた「あなたの一枚」

みなさんが撮った写真を隣同士で見せ合っていただきました。最後は数人の方にスライドを使って発表! どうしてこの写真を選んだの?どんなシチュエーションで撮ったの? 他人に見せるつもりではなかったはずの写真でも、こうしていざ公開すると、みなさんちょっとお恥ずかしそうです。


山下さんと三迫さんも見せ合いっこ。
ゲストに聞きたいコト

会場からはたくさんの質問が飛び出しました。そのいくつかをご紹介。

質問1 山下さんは美容師さんだったそうですが、美容師のお仕事がどんな風に今のお仕事に活かされていると思いますか?

山下 ひとりで写真を撮るのもいいのですが、私は誰かと一緒にモノを作るのが好きなんです。それは美容師時代に仲間と一緒に何かひとつのモノを作ってきた経験があるからじゃないかなと思います。あと「色」を使う仕事であることは大きな共通点だと思いますね。

質問2 今は誰でも携帯電話で写真を撮ることが当たり前になって、僕自身これまでの人生で一番カメラを持ち歩いているというくらい写真が身近になりました。山下さんは、デジタルとフィルムの関係をどんな風に捉えていますか?

山下 デジタルのおかげで写真がここまで人々の暮らしに浸透したのは、本当に素晴らしいことだとも思うのですが、一方でアナログ的な価値がなくなっていくのはやっぱり寂しい。デジタルカメラはその場で確認ができたり後で削除できたりするから気軽に撮れるし、もちろんそれが良さでもあるわけですが、フィルムはそんなことできません。その代わりというか、いざ現像してみると予測もしていなかったものが写っていることがあるんです。予想以上に面白い反応を起こしてくれる。それもフィルムの価値だと思います。何よりも私の仕事はプリントをすることなので、だからこそフィルムの良さをずっと伝えていきたいです。

コトバナ編集後記

デジタルカメラになって写真を現像に出す機会はめっきり減ってしまいましたが、それでもたま〜に現像すると、やっぱり嬉しくなります。うまく撮れていたらなおのこと。でも今日のお話を聞いて、写真がうまく撮れていたり思い通りじゃなかったりするその裏には、フォトプリンターという存在があったのだ! と正直びっくり。山下さんはそのなかでも、撮った人のイメージをより大切にプリントされている方なのだろうなと感じました。近々、アルバスさんに現像をお願いしにいこう。そして帰りはトレネでランチに決まり。(堀尾)

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