コトバナ

撮る・つくる・残す 暮らしと写真の楽しい関係 〜前編〜

VOL.008 「撮る・つくる・残す 暮らしと写真の楽しい関係」

2015.04.07(水)

あたらしいライフスタイルを実践し、魅力溢れる地域づくりにはげむ方々をお迎えするトークイベント「コトバナ」。今回のテーマは、「撮る・つくる・残す 〜暮らしと写真の楽しい関係〜」です。福岡市中央区にある個性溢れる写真屋「ALBUS」の店長である山下真理子さんをゲストにお招きし、ALBUSでの活動をはじめ、写真を撮る楽しさ、現像する面白さ、ひいては暮らしの中での写真との付き合い方について、縦横無尽に語っていただきました。

三迫太郎 TARO MISAKO
1980年北九州市生まれ。アート・デザイン・暮らしに関わるデザインの仕事を並行して、ひとりwebマガジン「taromagazine」、「Prefab」の運営など、街と人を繋ぐメディアのあり方について試行錯誤中。。
山下真理子 MARIKO YAMASHITA
1985年福岡生まれ。警固の写真屋ALBUSにてフォトプリンターとして日々さまざまな記録と出会い、時に笑い、時に涙をこらえながら思い出に寄り添い色を繋いでいます。休日は、目的を求めては写真を撮ってます。
instagramのアカウントは「marippe_y

ちょっと変わった写真屋さん、ALBUS

三迫さん(以下、三迫) 今日のテーマは「撮る・つくる・残す 暮らしと写真の楽しい関係」ということで、中央区警固にある写真屋さんアルバスの山下さんにお越し頂きました。facebookやinstagramなどが流行し、写真を撮るという行為そのものはより身近になりましたが、フィルムで写真を撮る方をあまり見かけなくなりました。山下さんは、そのフィルムを使って写真を撮られている方のひとりです。どうしてこの時代にあって敢えてフィルムにこだわってらっしゃるのか、また、暮らしのなかでのデジタルも含めた「写真」の“在り方”について、お話をうかがいたいと思います。

山下さん(以下、山下) アルバスの店長、山下です。宜しくお願いします。

三迫 早速ですが、アルバスってどんなお店なのか教えていただけますか。

山下 はい。写真屋ということで、写真のプリントをメインにしています。写真関連のグッズやクラシックカメラも販売していて、もちろんフィルムも取り扱っているのですが、最近はどんどん少なくなってきましたね。


スライド左手がフィルムの棚。これは一年前の写真だそうで、この半分はすでに生産終了して棚には並んでいないのだとか。「すごくシビアな状況です」と山下さん。

三迫 色々とイベントもされていますよね。

山下 2Fが写真スタジオとギャラリーになっていて、写真展やトークショーもたびたび開催してます。写真に限らずイラストや鞄の展示、漫画家の方のトークショーなど様々です。


これまでに開催したイベントの様子。カメラの使い方を学べる「写真スクール」もされていて、生徒さんの作品は店内のギャラリーに展示される。

三迫 なるほど、人が集まるような仕掛けが沢山ですね。僕がアルバスのことを人に紹介するときは、よく「こども店長」の話もします。

山下 「こども店長」は、毎年夏にアルバスでやっている企画ですね。夏休み中の子どもたちに写真屋さんのお仕事を伝えてます。お店の準備、掃除、挨拶。それから警固には色んなお店があるので、気になるお店を訪問してお仕事について聞いたり、使い切りカメラを渡してるので一緒に記念写真を撮らせてもらったりしてます。ちなみに今言ったのが「こども店長」のA面だとすると、B面は隣の「トレネ」のごはんが食べられるということですね。これを楽しみにしてる子が最近目立ちます (笑) ごはんには適いません。。。

三迫 それは羨ましいですね(笑)。トレネさんは、お隣のカフェですね。

山下 はい、隣に併設しているカフェなんですけど、すごく美味しいんです! 初めていらっしゃった方はアルバスには見向きもしないで、美味しそうな匂いにつられてトレネに入っていくんです。そして帰り際に「あれ? 何ここ?写真屋さん〜」と……。ここはどこ、わたしは誰状態です。

三迫 ははは(笑)。

山下 「こども店長」では子どもたちにプリントもしてもらうんですが、彼らの個性って面白いです。

三迫 子どもたちはデジタルで写真を撮るんですか?

山下 いえ、フィルムを使ってます。というのも、ちょっと前に写ルンです(※)を見たことがないという20歳の子がお店に来たんです。とうとうそんな時代がやってきたか、とびっくりしました。だからという分けではありませんが気軽に使えるのもあり子どもたちには写ルンですを渡して、好きなように写真を撮ってきてもらってます。それを自分たちの手でプリントしてもらっています。
※写ルンです…1986年に富士フィルムより発売されたレンズ付きフィルムカメラ。安くてどこでも手に入り、誰でも簡単に使えて壊れにくいなどの理由から、これまでに世界中で19億台が販売。今でもコンビニで手に入る最強のカメラ


こども店長の体験の様子。

子どもたちの手によって撮影、現像された写真。「肝試しみたいな色ですね…」(三迫)「これ、昼間の写真ですよ。子どもの感性は侮れないですね〜(笑)」(山下)

三迫 この体験がきっかけでカメラに目覚める子もいそうだなあ。

山下 それはあると思います。5年前に参加してくれた大ちゃんという子は、もともと写真に興味がなかったんですけど、「こども店長」をきっかけに写真にハマっちゃって。最近では毎週末お父さんと写真を撮りに出かけたり、一緒に現像して腕試しをしたりしてるみたいです。その大ちゃんが中学生になって、今では家族写真を撮りにきてくれたり、用事がなくても「ハムスター飼いはじめたとよ〜」と話をしに来てくれたりするんですよ。

三迫 アルバスって“開かれている”んですよね。用事がなくても、ふらっと入ってお店の人と話して帰っていく人がいてもいい。そういうアルバスの良さを、大ちゃんも感じているんでしょうね。

山下 わあ、だと嬉しいです。

三迫 実はアルバスさんには、僕も大変お世話になっています。2Fのギャラリースペースで「10zine」というzine(※)を作ったり販売したりするイベントをやらせてもらったり。山下さんにも作家の一人として参加してもらいましていますよね。
※zine…個人が自由に作る自主制作出版物

山下 はい。そのイベントの時、私は友人でもある画家の沖賢一さんという方と「pudu」というユニットで参加させてもらいました。沖さんが描いた絵を元に私が妄想して写真にするという大喜利スタイルの作品を出しました。一緒に1から生み出したり。このイベントをきっかけに自分の幅を広げてもらってるように思います。

三迫 ほかにもフリーペーパーを作るときに山下さんに写真をお願いしたり、本当にお世話になってますね。


三迫さんがデザイン、写真は山下さんが担当したフリーペーパー。「“アートデート”ということで、私だったらこんなデートがしたいなあと妄想しながら撮りました」(山下さん)

「アルバスの台紙は三迫さんデザインなんですよ〜」と話す山下さんに対して、「実は、初めは台紙って何?と思ったんです(笑)」と三迫さん。終始笑いの絶えない二人。

フォトプリンターという仕事

三迫 僕はブログを更新するために写真を撮るんですが、“作品”として撮っているという意識はないんです。でも山下さんの写真は“作品”というか、一枚の絵としての“表現”しようとする気持ちが伝わってきます。

山下 puduの沖さんに声をかけてもらうことで、最近では目的を持って撮影するようになったんですが、それまでは日常の記録でしかなかったんですよ。なので、そんなふうに見ていただけるとは… ! という感じです。

三迫 山下さんの日常の視点がすでに作品的なのかもしれませんね。もともとフォトプリンターになりたいという思いはあったんですか。

山下 いえ、小学校の頃から美容師になりたいと思っていたんです。専門学校を卒業後は東京の美容室に就職したんですが、1年もしないうちに辞めてしまって。それで福岡に帰ってきたあとにアルバイトを3つくらいかけ持ちしていた時期があったんです。そのうちのひとつが写真屋さんだったんですね。とはいえ、写真にはまったく興味がなかったんですよ。

三迫 そうなんですね!

山下 写真屋で3年くらい働いているうちに、カメラにだんだん興味が出てきて。そのとき初めて買ったのがフィルムカメラで、フィルムって楽しいなあと思うようになりました。


写真は山下さん。彼女の原点となるのが、ライカのAPSカメラ。初めて手にしたフィルムカメラだった。

三迫 アルバスにはどうやって?

山下 当時から漠然と、プリントに特化して“何か”したいなあとは思ってはいたんです。写真屋さんで働きはじめて3年くらい経った頃かな、市内にALBUSという写真屋さんがオープンするという記事が載っていたのをたまたま見つけまして。求人募集はしていなかったんですけど、勇気を出して問い合せたのがすべての始まりです。

三迫 そうなんですね。実際にアルバスに入って、何か変化はありましたか?

山下 根本的には、あまり変わらないという気がします。アルバスに入る前から「面白いことをやりたい」という思いはあったので、色々試したりはしていました。セロハンをカメラのレンズに貼付けて撮影してみるとか、写真好きの友だちと一緒に試行錯誤して。

三迫 なるほど。人が撮った写真をプリントするのは自分の作品に手を加えるわけではないので、また違った経験になりそうですね。現在のフォトプリンターとしての面白さはどんなところですか?

山下 フィルム現像の楽しさは、本当にいっぱいあります。例えば私は海外に行ったことがないんですけど、誰よりも行ってる気がします。というのは、海外で撮影した写真の現像をお願いされることもあって、多い方はフィルム30本くらい撮って帰ってくるんですけど、それを現像しているとまるで私もそこにいるような感覚になるんです。もうずいぶん連れて行ってもらいました。
あとは、普段出会わない人たちの日常に入り込むことができる。そんな日常に寄り添いながら撮った人のその時の心に近づいてプリントできたらいいな〜と思ってます。

三迫 人が撮った写真を現像するときに意識していることはありますか?

山下 お店では、お客さんがどんな仕上がりをイメージされているかヒアリングしてフィルムを預かります。「写真は真実を映す」と言いますし、報道写真のようになるべく見たものをそのまま残すほうが適している場合もあるけど、被写体によっては加工をしたほうがよく伝わる場合もある。それに、こんなに色がたくさんあるんだから使ってみて欲しい。色をひとつ足すだけでガラリと変わるんですよ。ここ日本なの? というくらい。

三迫 色の選び方でその人の個性が見えそうですね。

山下 まさにそうで、色は心を映してくれるということはあると思います。

三迫 人の写真を現像する際に、山下さんなりの加工を施すこともありますか?

山下 自分の写真だったら好きなように色味を加えて遊んだりできますが、人の写真だとその人のイメージもあるから、勝手にそうはいかなくてどうしても制限をかけてしまいますね。でも、自分の頭の片隅に「色ちゃん」が見えることがあって、「こんなふうに雰囲気を変えてみたら?」「こんな色にしてみたら?」と、ささやくんです。

三迫 「色ちゃん」・・・それは妖精ですね(笑)。

山下 はい(笑)。その「色ちゃん」と相談しながら、私なりの加工でプリントしていたら、「お任せで」と言ってくれる人が出てきて。色を変えてみた写真をおまけで1枚2枚差し上げることで、プリントの良さに気づいてくれる方も増え、楽しんでもらえてるように思います。


店頭に置いてある色見本。左上には「コンゲツ ノ イチマイ」が。写真の見せ方に対する工夫も楽しい。

山下さんの「私の一冊」

小波次郎『父を見る』

タイトルの通り自身のお父さんが被写体になっています。私は家族という身近な存在を作品にすることはすごく難しいように思ってます。小波さんの写真からは、少し距離を感じますが“父親”という存在を冷静に捉えられているなと感じました。

奥山由之『Girl』

奥山さんも小波さんも普段ファッション写真を撮られてて色々な方々と関わって仕事をされてらっしゃるカメラマンの方なのですが、そうではない一個人としての二人が考える写真が気になって購入しました。奥山さんは全体的にとても静かな写真が多いのが印象的で、その中でカラーと白黒の写真が混じり合ったり、同じ写真が何度も使用されていたり、不思議な感覚に陥ります。余談ですが、私の大好きな映画『地雷を踏んだらさようなら』の監督は奥山さんのお父さんなのだそうです!知ったときは震えました。

三迫さんの「私の一冊」

TRUCK『TRUCK NEST』

大阪にある家具屋さん「TRUCK」のカタログの集大成。“家具屋”という範疇を完全に超えて、ものづくりや暮らしに対する思いをはじめ、写真もご本人たちが長年撮りためてきたものがまとめられています。こんな風に見せたいという彼らなりの思いをストイックに表現している一冊です。

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