コトバナ

愉快な物語から見えてくる、これからの『福祉のしごと』 〜後編〜

VOL.007 「愉快な物語から見えてくる、これからの『福祉のしごと』」

2015.03.26(木)

人それぞれの関わり方があっていい

山内さん(以下、山内) 現在は、どの市場にも多くの似通った商品があり、消費者の商品選びもシビアです。「日々のてまひま」で商品をブランディングして売っていく時に、一番ポイントになるのはどこでしょうか。

樋口さん(以下、樋口) 施設の中で起こっている日々のやりとり、その楽しさ、人と人との豊かな物語をいかに商品にのせていくか、がポイントになると思います。第一弾のパスタにしても、たまたまMUKAさんがゆかいな現場だったというわけではなくて、施設それぞれに豊かな人間関係があります。障害のある人同士や、僕ら支援員とのあいだで、心を解き放った特別な関係が生まれていて、それを障害福祉施設の暗いイメージに閉じ込めておくのはもったいないと思うんです。単に「障害がある人が作ったものを売る」というイメージには収まりきれない、仕事としての価値を伝えていきたいんですよね。

先崎さん(以下、先崎) 私も、持って生まれた反骨精神なのか(笑)、既存の枠組みの中でうまくいっているものに手を加えるのは、あんまりテンションが上がらないんですよね。自分が一番好きなのは、みんながまだ見えていない、気づいていない価値を拾い出すこと。障害者のことも同じだと思うんです。この多様性に気づいてもらうために、まずは開かれていることが大事だなと。

山内 「日々のてまひま」の皆さんは、障害者の方と積極的にコミュニケーションを取れるタイプなんですか?

樋口 いやいや、そんなことはないです。メンバーにもいろんなタイプがいますし、全員に肩を組んでガハハと笑い合うようなコミュニケーションをしてほしいとは全然思っていません。

山内 なるほど、ちょっと安心しました(笑)。全員にそういうコミュニケーションを求められるのはハードルが高くも感じるので。

樋口 多様な関わり方があっていいですし、その考えを伝えていきたいと思っています。直接仲間付き合いできる人はそれもいいし、単に情報をシェアするだけでもいいかもしれない。先崎さんにデザインを通じてやってもらっているのも、間口を広げる仕掛けづくりですから。


この日ご来場のお客様のうち、1/3は福祉関係の仕事経験者。熱心にメモを取る様子からも、関心の高さがうかがえる。

無理なく持続できる仕組みをつくる

山内 いち消費者としてもさまざまな関わり方ができるとなってくると、今後の展開が楽しみですね。「日々のてまひま」で現在進行中のプロジェクトはありますか?

先崎 ほのぼのHaKaTaという施設のオリジナルノートのディレクションをしています。生産体制の整理や原材料の見直し、ノートのデザインなども含めて受け持っています。


施設のメンバーが納得するまで何度も提案し直し、完成にこぎつけたロゴデザイン。この施設らしい温かみのある仕上がりになった。
(上段2つがボツ案で下が決定案)

山内 デザインだけでなく、生産体制そのものの改善まで行ったのですね?

樋口 そうです。この施設ではもともとノートを作っていて、製本の技術も高かったんですが、原価が180円かかっていて、利益が出ていなかったんです。売りたいという気持ちがあり、就労支援という意味でも大事な取り組みが、作るたびに赤字になるようでは継続できません。そこで、紙や材料を選び直してコストを下げ、卸でも利益が出るように改善しました。

山内 なるほど。そういう場面で皆さんの経験や知恵が役立つわけですね。

先崎 オリジナルノートの受注も受け付けているのですが、これまでは値段も高いし、一般消費者が見て頼めるような設定になっていなかったんです。それを、紙見本帳から選べるようにし、選びやすさを取り入れました。今は客観的にみても引けをとらない品質のものが作れるようになっています。

山内 自分好みのオリジナルノートが発注できるのは嬉しいですね。

先崎 はい。他にも、工房まるでデザインしたランチョンマットを食品カタログで販売することが決まっているのと、新設する児童会館の工事中の囲い壁をデザインさせてもらうなど、複数のプロジェクトが動いています。

樋口 工房まるやアトリエブラヴォがアーカイブしている作品はすでに8,000点近くあって、これをレンタルフォトのように著作権管理してレンタルできる仕組みも考えています。

山内 一人のアーティストとして作品に著作権を発生させるというのは、とても健全な仕組みだと感じます。

先崎 これからも施設と社会を繋ぐ“あいだ”の部分を見つめ直し、デザインしなおす作業ができればと思います。

山内 今後の展開に期待しています。本日はありがとうございました。

ゲストに聞きたかったコト

会場ではこんな質問がありました

質問1 商品を買うというだけでなく、実際に私たちも参加できるような双方向のコミュニケーション、イベントなどはお考えですか?

樋口 はい。実は現在検討中でなんです。「糸島生まれの彩りパスタ」でも、作る過程を見せるイベントを開催しようと思っていましたが、準備不足で実現できませんでした。ただ、商品を支持して買ってくれるお客様にとっても、実際に生産者と出会えるのは安心感が増す良い機会だと思うので、実現させたいですね。

質問2 今後の商品ラインナップはどのようなものをお考えですか?

樋口 現在、九州の施設情報をかき集めて、見て回っている最中ですが、食品をこだわって作っているところが多いので食品中心のラインナップになると思います。ただ、それに限定しているわけではありません。各施設の特徴を生かせる方法をとっていきたいですね。

「日々のてまひま」も出店!
第2回「ヒナタすまい・る
【日時】4月25日(土)〜4月26日(日) 10:00〜17:00
【場所】西部ガスショールームヒナタ福岡
(福岡市博多区博多駅東2-7-27 TERASO-II)

暮らしに大事な「衣・食・住」について、『つくる』をキーワードに楽しむワークショップ「ヒナタすまい・る」の第2回を開催します!

コトバナ編集後記

思い返せば、小中学生の頃は障害を持つ子どもたちが隣のクラスにいて、一緒に廊下でふざけあったり、校庭でボールを追いかけたりしていたものでした。しかし大人になるにつれて住む世界が分かれ、いまは彼らと接する機会もありません。「日々のてまひま」の活動を通して、障害を持つ人をその障害ゆえに注目するのではなく、いいものを生み出せる一人の人として接することができるようになったら、表現やアートの世界ももっと豊かになるのでは。そんなことを考えました。(佐藤)

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