コトバナ

“あるもの編集”でみえてくるローカル観光再発見 〜後編〜

VOL.005 「“あるもの編集”でみえてくるローカル観光再発見」

2015.02.26(木)

本当におすすめしたいものしか載せない

三好さん(以下、三好) 実は今回のトークショーの事前打ち合わせで、主催側としては「いまの時代に相応しい情報編集のあり方」とか「編集におけるサードウェーブ」とか、何か新しい概念を打ち出せたらと話していたんですが、ゲストのお二人にお話を聞いてみると、それも少し違うなと感じまして。そういった大上段に構えた話ではなく、お二人とも、もっと地に足がついていて、自分の個人的な情動で、かわいいとか面白いと感じたものを積極的に紹介していますよね。

西村さん(以下、西村) そうですね。この本では基本的に、私が好きと思うものしか載せていません。「グッドルッキングな福岡みやげ」というコーナーがあるんですが、昔からある感じの、かわいい見た目な福岡のお菓子を買って来て、おすすめしたいものだけを載せています。博多駅のマイングに昔のお土産をいっぱい集めたコーナーがあって、そこに何度も通いました。パートのおばちゃんに商品のバックボーンとか作る行程とかしつこくあれこれ聞き出しながら、やたらと買いまくるので、きっと「この人なんなんだろう…」って思われてたと思いますけど(笑)。

曽我さん(以下、曽我) 次ページの「なぜか福岡土産に多く見られる筒状菓子の謎」も面白いですね。

西村 「渦巻きの呪いがかかっている」とか、好き勝手に書いてます。こんなヘンテコな本を作っておきながら普通の紹介になったらそもそも誌面を作る意味がないので、「何それ?」と読者の目に留まるような、冗談混じりの記事にして載せているものも結構ありますね。見る人が見たら、怒られちゃうかもしれない(笑) 関係者の皆さんには、この場で謝っておきたいと思います。

曽我 でもすごく愛情を感じるから、怒られないと思いますけど。

三好 出版社を通した正規のルートで出すのではなく、自費出版にしたことも関係ありますか?

西村 古くてかわいい建物好きは結構いるので、出版社から出すこともできたと思います。それをあえてZINEのようにしたのは、自分が載せたいものを載せて楽しく作れるからですね。

曽我 その気持ち、よくわかります。Webサイトの場合も、出版物よりはスピードも速く分量の制限も少ないので、自由度は高いですね。

西村 それから、この本が広まることで、単に「かわいい」というだけでなく、こういう古くてもいい建物を簡単に壊さないでほしい、価値に気づいてほしい、という気持ちもあります。

面白がり方をどう伝えるか

三好 西村さんや曽我さんが紹介する情報が面白いのは、お二人が特別なセンスを持っているから、ということなんでしょうか。ちょっと会場の皆さんにも聞いてみていいですか? お隣の人同士で、自分の隠れたおすすめを紹介しあってみてください。

〜会場のみなさんに聞いた「福岡のおすすめスポット」〜

隣同士でおすすめのスポットを紹介し合い、「面白い!」と思った場所を紹介いただきました。 想像以上に盛り上がる会場。こうしてあらためて聞いてみると、みなさん個々の視点で選ぶお気に入りの場所、意外とお持ちなのです! そんな視点が集約できたら新しい観光案内になる! というコンセプトなのが、実はアナバナで更新中の「あなたのアナバ教えてください。」なのです。

Aさん
呉服町に、看板も何もないラーメン屋さんがあります。店先にバケツが出ていれば、開いているサイン。店主がまたこだわりの人で、スープから飲まないと店から追い出されるという、強烈な個性のお店です。

Bさん
ミーナ天神の郵便局側の階段って、途中で行き止まりになっている箇所があるんです。なぜそんな設計になってるのか、不思議。ぽっかり空いたその空間で、電話をするのが好きです。

Cさん
西鉄平尾駅近くにある、ベーカリーハカタというパン屋さんの町工場みたいな雰囲気が好きです。いつも半斤買って、切ってもらう時のおばちゃんとのやりとりも楽しいです。

Dさん
出身が鹿児島の指宿で、開門岳のふもとにある細い道がお気に入りです。くぐり抜けるとぱっと海が見えて、爽快です。

Eさん
大橋に住んでいた頃、近くのうどん屋ウエストによく行きました。かずみさんという店員さんが個性的で、いつも丁寧にねぎや天かすの説明をしてくれます。「お会計は、400万円になります」なんて茶目っ気のある接客も、楽しかったです。

三好 こうやって皆さんのおすすめを聞いてみると、やはりどれもマニアックで面白いし、紹介者の人柄のようなものも見えてきますね。

西村 場所そのものの面白さ、というよりも、みなさんのコメントの中に込められてる個人的なエピソードとか、視点のユニークさがいいですねー。

曽我 すごく個人的なエピソードだからこそ、それに熱量とか愛を感じると、聞き手にとっては特別な印象が残りますよね。

三好 見慣れたものを別の角度から再発見する、そのために、紹介者がどう面白がっているかを伝えることが大事なんですね。でもそれは、普段皆さんが友人や家族に何かを伝える時に、自然とやっていることなのだと思います。自分の感動を、誰かと共有したい。その熱量をかたちにすることが、編集という作業なのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

西村さんが手がけた最新刊「SAKI」発売中!

「福岡ついで観光」にも出てもらった、いま注目のインフルエンサー・西本早希ちゃんのパーソナルブック(「SAKI」)が2月26日に宝島社さんから発売されました。今度は、かわいいくて、早希ちゃんらしい早希ちゃんを見たいファンの期待にも応えられるはずです(笑)。すべて福岡で撮影したものなので、見慣れた風景もちょいちょい写り込んでます。よろしくお願いします。

コラム(おまけ)

モデレーター三好さんのおすすめスポットは?

トークイベントでは急にふられてお答え出来なかったため、イベントレポート公開時まで延長された「モデレーター三好がオススメするスポット」情報をいよいよご披露いたします。
「他所から福岡に来た知人を案内する」+「自分だけの特別なエピソードがある」スポット、という線で絞り込むと、僕にはここをおいて他にありません。
現在エルガーラ5Fに店を構える「コンチネンタルカフェロイヤル」。
もともと福ビル地下1階にあったこの店は、筆者が幼少期、特別な日にだけ親に連れて行ってもらった思い出の店であり、そこで過ごした上等な時間、今なお変わらない味で供される「ベイクドアップル」の完璧な(本当に完璧な)美味しさ、時が止まったようにどこか懐かしく上品なインテリアの数々など、この店のことならどんな誰でも大好きにさせるだけのプレゼンが出来る自信があるぜってくらい特別なお店です。
さらに言えばここで幼少期に僕が得た体験は「ハレの場所」としての「天神」に憧れた原体験でもあり、それはつまり現在の自分の仕事の原点でもある、と言えます。
て、トークイベントで得意を自称したサブカル関連でもなきゃ、あまりに清潔なレコメンドなので、西村さんと曽我さんはこれじゃ絶対許してくれないと思いますが(笑)、本当にオススメですので気になられた皆さんは是非。
ちなみにこのお店と“完璧な”ベイクドアップルについて個人的なエピソードも交えて書いた記事はコチラです(宣伝!笑)
↓↓
http://tenjinsite.jp/topics/detail.php?hid=37730

コトバナ編集後記

『証言構成「ポパイ」の時代』という本があります。若者カルチャーのバイブルとして社会現象にまでなった創成期の「POPEYE」を作った人たちへのインタビュー集なのですが、この本を読むと、紹介するトピック一つひとつを編集部がいかに本気で面白がり、自信を持って誌面を世に送り出していたのかがよくわかります。やがては世の中の大きな流れを作ることでも、きっかけは誰かの個人的な思いから始まるのかもしれません。目を輝かせて、自らの思い入れを語るおふたりの様子から、伝えるということの原点を感じさせられたトークショーとなりました。(佐藤)

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