コトバナ

“あるもの編集”でみえてくるローカル観光再発見 〜前編〜

VOL.005 “あるもの編集”でみえてくるローカル観光再発見

2015.02.25(水)

地域を魅力的にする人、あたらしいライフスタイルを実践している人をお招きし、昨年12月より始まったトークイベント「コトバナ」も、はや5回目。今回のテーマは、「“あるもの編集”でみえてくるローカル観光再発見」。代表的な観光スポットとは無縁の、個人的な思い入れに満ちた「福岡ついで観光」の編集者・西村依莉さんと、ついで観光ファンな「アナバナ」の編集長・曽我も参加し、紹介したものや場所について、愛情たっぷりに語っていただきました。

三好剛平
LOVE FMで営業・企画、イベント、webサイト「天神サイト」の編成チーフなどを担当しながら、「10zine」への運営参加のほか、フリーペーパー「シティリビング」での連載「DVD耽溺ガイド」(2011~)、不定期のDJ活動、映画・音楽・アートの分野で活動中。
西村依莉
制作会社、出版社勤務を経て、2012年に独立。結婚を機に福岡へ移住し、現在はフリーランスのエディター・ライターとして、ファッション、インテリア、ライフスタイル等のジャンルを中心に活動中。
曽我由香里
2011年よりダイスプロジェクトに所属し、広告ディレクターと編集を担当。九州のワクワクを掘り起こす活動型ウェブマガジン「アナバナ」編集長として、2015年からは「食」をテーマに九州を奔走中。

趣味の合う友人を案内する気持ちで作った

三好さん(以下、三好) 本日はよろしくお願いします。

西村さん(以下、西村)、曽我さん(以下、曽我) よろしくお願いします。

三好 まずは西村さんからご紹介しましょう。西村さんが編集した「福岡ついで観光」は、自費出版ながら初版600部を売り切って現在重版中で、ちょっと変わった福岡の観光本として人気を集めていますね。この本は、どんな本なのでしょうか?

西村 「観光」とついてますが、観光地というより、福岡市内の今にも無くなりそうだけどかわいい場所を紹介した本です。地元の人には当たり前すぎて見過ごしてしまいがちだけど、よそ者の私から見て面白いと感じた場所をいろいろと紹介しています。

三好 どこかから依頼されたのではなく、個人的な動機から作ったんですよね?

西村 ええ、暇だったんで(笑)。福岡って、県外から友人が来た時に案内するようなわかりやすい観光スポットが少ないですよね。だから、私と趣味の合う友人たちを、ぜひ案内したいと思うような場所を載せました。


ひょうひょうとした語り口で、会場の笑いを誘う西村さん

三好 では実際にページを見ながら話していきましょう。

三好 これはどこの階段ですか?

西村 西日本シティ銀行が入っている、とあるビルなんですが、舗道の拡張でビル自体がなくなるらしいです。この卑猥な感じが好きだったのに(笑)、残念ですね。

西村 これは、福岡法務局の階段がかわいいので撮影に行った時に、途中で見つけた壁です。

曽我 あぁ、浜の町公園のすぐ近くの!

西村 そうそう。熱帯魚屋さんですね。

曽我 お店の人に話を聞いたりしました?

西村 いえいえ。『冷たい熱帯魚』を連想して恐かったんで聞いてません(笑)

三好 ここは? サンセルコですか?

西村 そうです。この本のほとんどは、私のサンセルコ愛でできてます! 勝手にサンセルコ保存協会を立ち上げようかと思うくらいで。この(右ページ)回るでもなく、周りのケバケバしい看板に埋もれてまったく目立ってないオブジェとか、最高によくないですか? この(左ページ)シャンデリアもめっちゃかわいいのに、初めに行った時は電気さえ点いてなかったんですよ。

曽我 撮影のために点けてもらったんですか?

西村 そう。管理してるおじちゃんが点けてくれたけど、明るくなるのに10分くらいかかるもので。この本に載せた効果かどうかわかりませんが、私がこの間行った時は電気が点いていました。

三好 このかわいい娘は誰ですか?

西村 大名にあるサロン「switch」のレセプションをしていて、SNSとか雑誌で人気の西本早希ちゃんです。福岡は新しいもの好きの人が多いように思って、古い建物やなじみの風景でも新鮮に見てもらえるように、かわいいモデルさんを立てました。早希ちゃん目当てでこの本を買った人は、変な建物ばかり写ってて戸惑ったかもしれませんね(笑)

個人の目線で、地域の魅力を掘り起こす

三好 続いて、曽我さんに「アナバナ」の紹介をしてもらいましょう。

曽我 「アナバナ」は、九州のワクワクを掘りおこす活動型ウェブマガジンです。九州の正直なものづくりや地域を魅力的にする人を取材させていただいたり、そういう方たちと一緒に企画してイベントをしたりする、“活動型”メディアです。株式会社ダイスプロジェクトと、カラクリワークス株式会社の共同で運営しています。

三好 このトークイベント「コトバナ」をsolid&liquidさんと一緒に企画しているように、Webだけではない活動をされているんですね。Webではどんなコンテンツがあるんですか?

曽我 ものづくりを紹介する「正直ブランド」や、人に焦点をあてる「アナ話」など、いくつかあるのですが、「あなたのアナバ、教えてください」は今回のテーマに近いコンテンツの一つです。個人の価値観で選ぶ、九州の“アナバ”をマッピングしています。普段、観光雑誌に載るような場所ではない、個人的なおすすめスポットや癒しの空間を紹介しています。また、「二人で旅する2リズム」は、二人のかけあいを楽しむ旅案内。先日は、長崎市でデザイン事務所をやっている古澤かのこさんに、長崎市内を「猫とコスプレ」をテーマに案内してもらいました。

三好 なるほど。やはり個人の目線で、地域の魅力を掘り起こす点が、共通していますね。

曽我 どの回でも、その人らしさが出てくると面白くなりますね。行く場所はグラバー園など有名な観光地でも、その人個人の楽しみ方の違いで、また違った場所に見えてきます。

三好 場所に対する愛を、コンテンツ全体に感じます。

曽我 そこは特に意識してますね。秘宝館の回が特におすすめなんですが、トークショーでは見せられない内容ですので(笑)、ぜひサイトをご覧ください。

三好 西村さんは、ご自身の本の中でも一押しの場所はありますか?

西村 サンセルコの前にある、ブルマーシャンという喫茶店です。古き良き昭和を感じさせる店内で、花柄のカーペットやビロードのようなソファ、フェルトの壁まですべてがかわいいんです。徹底したこだわりがあるのかと思ってお店のお母さんに話を聞くと、「私は三代目やけん何もわからん」と。何度も行ってるのに私のことは全然覚えてくれなくて、しばらく話していると思い出してくれるんですけど、後継ぎがいないそうで、「あなたこの店継がない?」とか誘ってくれたりします。とにかく店とお母さんの醸し出す雰囲気が最高なんです。ちなみに、お母さんの作る定食はどれも絶品で、BM(ブルマーシャン)定食が特におすすめです。


西村さんと曽我さんは普段から仲が良く、一緒にスナック通いをしているとか

私の一冊

曽我さんのおすすめ三冊

坂本大三郎「山伏とぼく」

以前、須崎町にあるアートスペーステトラで山伏の人のトークイベントがあったときに、紹介してもらった本です。イラストレーターの坂本さん著とあって、眉間にシワがよりそうな内容も絵本のようにパラパラと読め、日本の文化の起源を再発見できる本です。

東海林さだお「目玉焼きの丸かじり」

週刊朝日で連載している「あれも食いたいこれも食いたい」をまとめたシリーズのうちの一冊。「さんまに大根おろしがない不幸」なんて、タイトルからして読みたくなりますね。

吉田健一「酒肴酒」

作家らしい個性のある文体で書かれた、日本各地の酒と肴の話です。いつかその場所で、それを食べてみたい!と思わせられる魅力がありますね。

西村さんのおすすめ三冊

安部公房「人間そっくり」

安部公房の文体は、昔の本と感じさせないモダンさを感じますね。視点を変えてものごとを考えることの面白さを知った本です。これを高校生の時に読んで、「人間って、普段は人の面をして生きているけど、本当は頭のおかしい人ばっかりなんだな」と思いました。

手塚治虫「ばるぼら」「上を下へのジレッタ」

70年代くらいの手塚治虫の漫画は、ストーリーうんぬんより、とにかく出てくる建築物がかっこいいと思います。私は田舎出身なので、ここに出てくる代々木のマンションや東京文化会館、当時のビルと道路の入り交じる都会の姿のモダンさに、どれだけ憧れたかわかりません。歪んだ世界観を描いている漫画は、建物の直線もわざと斜めに描いていたりして、そういう表現も好きです。

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