コトバナ

食から始めるart de vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル) 〜後編〜

VOL.002 「食から始めるart de vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル)」

2015.01.15(木)

基本を知れば、手の抜き方もわかる

三好さん(以下三好) 料理の背景にある思想とは、例えばどんなことでしょうか。

井口さん(以下井口) 料理を辿っていくと、その地域の歴史や思想が見えてきます。例えば、フランス料理では頻繁にオーブンを使いますが、それは居間に暖炉がある文化の影響なんです。年長の人が大皿から取り分けるのは、家父長制の影響が色濃く、そういう食卓で育つことで、公平な分配という考え方を自然と身につけます。またひき肉のラグーは、上等な肉より屑肉を使った方がおいしいのですが、それは王侯貴族が刃物で肉を切り分けて食べ、残った屑肉を庶民がおいしく食べるために生まれた料理だからです。こんな風に、料理を通じて背景の歴史や人々の暮らしが見えてくるんです。

三好 へえ。何気なく食べている料理も、背景を知るとまた見方や選び方が変わってきますね。

井口 とても面白いのですが、時と場所をわきまえることも大事です。以前習っていた料理の先生に「絶対に人の家のお雑煮を尋ねるな」と教えられたことがあります。

三好 えー、そうなんですか? 人の家のお雑煮けっこう気になりますよね。

井口 博多のお雑煮は、驚くほどさまざまな具材を入れますよね。まる餅にかつお菜に、大根、椎茸……中には高級魚のくえが入っているお宅もあります。でも、地域によっては、とても質素なつくりだったりするんですね。今でこそ楽しい話題ですが、当時、お雑煮の中身を尋ねることは、その地域のお財布を尋ねることであり、相手に恥をかかせることにもなる、ということになるんです。

三好 なるほど、奥が深いですね。普段の料理教室でも、そんな井口さんのエッセンスを伝えているのですか?

井口 そういう話もしますが、料理教室はもっと実践的に、作り方や手の抜き方を教えています。

三好 手の抜き方?

井口 料理教室に来る人は、基本的にまじめで、手を抜くことが苦手な方が多いんです。世の中に溢れている”素敵な暮らし方”に憧れるのはいいことですが、無理をしては仕方ないと、私は思っています。仕事で疲れて23時を過ぎて帰宅したのなら、無理に土鍋でご飯を炊かなくても、サトウのご飯でもいいんじゃないでしょうか。そのかわり、好きな器によそい直して、漬け物をひとつ用意するだけでも十分だと思うんです。

三好 うんうん、賛成です(笑)もっと力を抜いて楽しんでもいいんですね。

井口 基本を知っていれば手も抜けますし、失敗しても気にしないで。レシピの調味料がなければ、積極的に代用してみましょう。好みの味だって、人それぞれ違うわけですから。もしおいしくできたら、他の人にも教えてください。レシピは、そうやってどんどん新しく変わっていけばいいと思うんです。

三好 ネットの世界でいうオープンソースのように、レシピもみんなが手を加えてよりよいものへと改良していくわけですね。

井口 日本は食材が豊かですし、食材ごとに旬があります。“旬”って、だいたい10日前後を指すんですよ。だから、レシピに載っている食材がその時の旬でなければ、その時に旬の食材を使ってあげればいいんです。素材のよさを引き出してあげれば、また違ったおいしさになるはずですよ。

素材のコンディションに合わせて、変化をつけて料理を作るのが好きと語る井口さん

あなたのためにしつらえる

三好 食にまつわる楽しみ方で、他に何かおすすめはありますか。

井口 そうですね、私はいつもマイカップを持ち歩いています。たとえ出張先でも、自分の好きな器でお茶を飲めればホッとできるんです。マリアージュフレールのティーバックとお気に入りの器があれば、どんなに忙しくても少しいい気分になれます。そんな自分の好きなアイテムを、旅行や出張先にも持っていくというのはぜひオススメしたいですね。

三好 それはいいですね!

井口 ピクニックも好きです。ヴーヴクリコのかわいいシャンパンバッグを持って、少しだけおしゃれをして、シャンパンピクニック。お花見だったら、ブルーシートで宴会は好きじゃないので、デパートで冷えたロゼと苺だけを買って持っていきます。

三好 おしゃれー!(笑)

井口 フランス人が、「もっともロマンチックな朝食は、恋人と呑む気の抜けたシャンパンと苺の組み合わせだ」と言っていたので(笑) 近所の公園でも十分に恰好がつきますよ。

三好 でも、高くつきそうですね。

井口 いやいや。質素でも、自信を持ってここちよいと思えるものなら何でもいいんです。コンビニで500円のワインを各々3本ずつ買ってきて、ブラインドテイスティングするなんて楽しみ方もあります。とても盛りあがりますよ。お金がなくても、その時間を楽しめるエッセンスがあれば十分に楽しめます。

三好 制約がある中で、いかに知恵を絞って楽しむか、ですね。

井口 料理を作るときは、”あなたのために整えました”というしつらえ感を大切にしたいですね。相手へのおもてなしの気持ちが、相手にも私にとっても喜びとなり、日々の心地よさに繋がっていくと思います。

ピクニックで持ち寄るものに少し決め事をするだけでその場のしつらえ感が増すようです。ある日は果物を持ち寄るという会も。素敵ですね

井口さんの考え方や人柄が大好きだと話す三好さん。トーク中も井口さんの話に納得しきりのご様子でした。

ゲストに聞きたかったコト

会場ではこんな質問がありました

美しいものが好きという感性と、おもてなしの心は、何か関連性がありますか?
井口 あるかもしれません。好きということは、美しいものは他の人にも伝えたいし、その時間を共有したいということ。相手のことを考えないおもてなしは、単なる”おもてなしプレイ”。自信を持ってオススメできるもので大切な人をもてなして、相手にも自分にとってもいい時間を過ごしたい、ということですね。

コトバナ編集後記

愛嬌たっぷりの三好さんの進行のもと、食と料理にまつわるあれこれを縦横に語っていただいた井口さん。切れ味鋭い井口語録も多数飛び出しましたが、根底にあるのはやはりおもてなしの心なのでしょう。どうやって楽しくできるか、どうやって楽しませられるか、それをいつも考え実践していくパワーの持ち主で、会場一同元気をいただいたトークショーとなりました。2013年には狩猟免許の取得し、2015年2月には狩猟と料理をテーマにした初の著書が出版される井口さん。ますます活動の幅を広げた今年の展開が楽しみです。(佐藤)

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