コトバナ

食から始めるart de vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル) 〜前編〜

VOL.002 「食から始めるart de vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル)」

2015.01.14(水)

地域を魅力的にする人、あたらしいライフスタイルを実践している人をゲストに迎え、参加者とともに考えるトークイベント「コトバナ」。第2回目のテーマは、「食から始めるart de vivre(アール・ドゥ・ヴィーヴル)」。料理家として、料理教室の主催や企業へのレシピ提供、ケータリング、執筆などさまざまな活動をしている井口和泉さんをお招きし、作ることと食べることの豊かさについて伺いました。モデレーターは食やサブカルチャーに造詣の深いLOVE FMの三好剛平さんです。おふたりの人柄を反映した、和やかで笑いに満ちた時間となりました。

三好剛平
LOVE FMで営業・企画、Web「天神サイト」、イベントなどを担当。「10zine」への運営参加のほか、フリーペーパー「シティリビング」での連載「DVD耽溺ガイド」(2011~)、不定期のDJ活動など、映画・音楽・アートの分野で活動中。
井口和泉
料理家。代官山イル・プルー・シュル・ラ・セーヌにて弓田亨氏に師事。 本格フランス菓子、トゥレトゥール(総菜)、料理を学ぶ。同校、ル・コルドン・ブルー東京校、フランス国立製菓学校イッサンジョー校にてディプロム取得。現在は、自宅での料理教室のほか、企業へのレシピ提供、イベントケータリングなどを行っている。2015年2月に初の著書を刊行予定。

料理は誰にでも作れるアート

三好さん(以下三好) 本日はよろしくお願いします。さて、本日のテーマは「art de vivre(ルビ:アール・ドゥ・ヴィーヴル)」、日本では馴染みのない言葉ですが、どんな意味なのでしょうか?

井口さん(以下井口) 直訳すると「暮らしの芸術」です。アートや「美」というものを、美術館の中ではなく、自分たちの暮らしの中に見いだし作っていこう、というような意味です。その第一歩として、料理があると思っています。

三好 なるほど。井口さんは料理家としてご活躍中ですが、もともと料理の道に進むきっかけは何だったのですか?

井口 昔から綺麗なもの、美しいものが好きで、美術の道に進みたいと思っていました。それで高校三年の頃に美術の予備校に行ったんですが、私にはとても敵わない実力の持ち主が何浪もしている現状を知り、あっさり心が折れまして(笑)。料理を作るのは昔から好きで、みんなで食卓を囲めばいつでも楽しいし、物は残らないけどおいしかったという気持ちが残るのが、美しいあり方だなと思ったんです

三好 料理をアートのひとつとして捉えているんですね。

井口 アートと言っても、大げさなものではないんです。食べることは、どんな人でも文字通り死ぬまで続きますよね。
毎日料理を作って、1日1回でも何かを生み出した充実感や、それで得る達成感は、日々の暮らしにとても大切なことだと思うんです。料理は、日常の中にあり、誰にでも作れる小さな芸術と言ってもいいんじゃないでしょうか。

三好 たしかに! 仕事が忙しい時にこそ、料理を作りたくなったりしますね。ビジネスの現場で言われる”小さな成功体験”の最たるものが、料理かもしれません。

井口 うんうん。それに、食事は自分だけの楽しみではなく、他人と共有できるのがいいですね。私たちは子どもの頃、お母さんが作ってくれる料理を血や肉として成長してきました。料理は、一番近くにいる誰かのために作り、その人の心身を養っていくことができるんです。

三好 そう考えると、食卓とは、とても豊かな場ですね。

井口 そうです。食卓は、日々の滋養を蓄えるだけでなく、時に学びの場でもあり、時に愛を伝える場でもあると思っています。

ご自身の考えをわかりやすい表現で伝えてくれる井口さん。会場の納得度も高い

料理の背景にある思想を知りたい

三好 和食でもイタリアンでもなく、フレンチを選んだというのもアートと関係があるのですか?

井口 そうですね、フランスかぶれでしたから(笑) それに、当時は雑誌でようやくフレンチが紹介されはじめた頃で、フランスは豊かな土地と風土が食卓に直接繋がっていると、どの雑誌でも紹介されていました。私は福岡の早良区に住んでいて、糸島や三瀬も近いのに、最寄りのスーパーで売っているレタスは長野県産、パプリカは韓国産で、なぜ私の食卓は土地と分断されているのかを常々疑問に感じていたので、その糸口がフランスにあるんじゃないかと思って。

三好 料理そのものより、その背景にある思想に興味を持ったという事ですか?

井口 フレンチの実践的なテクニックより、フランス料理というものがどんな背景で立ち上がってきたのかという、思想を学びたかったんです。なぜフレンチには煮込み料理が多いのか、とか、調べると色んなことが見えてきます。

三好 うわあ。面白そうです、そのお話。後半はその辺りからおうかがいしたいと思います!

私の一冊

(左端)米原万里『旅行者の朝食』
(中央左)池澤夏樹『スティルライフ』
(中央右)吉本ばなな『キッチン』
(右端)村上龍『料理小説集』

「おすすめはたくさんあるのですが、厳選して4冊をご紹介。(右端)は、文中に出てくるコート・ダ・ジュールのレストランにどうしても行きたくなり、結局行ってしまったほど描写が魅力的な本ですし、(中央右)も本が背割れを起こすほど読み込みました。台所が人の営みの中心にあることを再確認させてくれる本ですね。(左端)は、ロシア語の通訳者だった著書の経験が面白く、(中央左)は冒頭の「この世界がきみのために存在するとは思ってはいけない。」という一文からして素敵です」

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