地域を魅力的にする人、あたらしいライフスタイルを実践している人をゲストに迎え、参加者とともに考えるトークイベント「コトバナ」。第1回目のテーマは、「みんなで作るシェアする暮らし」。糸島でシェアハウスやコワーキング・スペースを運営する畠山千春さんを迎え、暮らしを他人とシェアするだけでなく、生活に必要な食べ物、エネルギー、仕事を自分たちの手で作り出していく活動について伺いました。3.11の東日本大震災の体験をきっかけに、自らのライフスタイルを根底から見直して糸島へと移住し、狩猟や農作、ワークショップイベントなどを次々とパワフルに展開している畠山さん。新しいライフスタイルの実践を聞こうと、会場は満席でした。示唆に富んだトークショーの模様を、お伝えします。
- 「自分たちの求めるものを自分たちでつくる」文化的な社会を目指して、コミュニティデザインや文化事業に取り組むNPO法人ドネルモの代表理事。
- 新米猟師/ライター。3.11をきっかけに、大量生産大量消費の暮らしに危機感を感じ、自分の暮らしを自分で作るべく活動中。現在は「いとしまシェアハウス」の管理運営、コワーキング・スペース「RIZE UP KEYA」の運営にも関わっている。
お金に頼らず生きていけるように
山内さん(以下山内) シェアハウスの活動を始めた、そもそものきっかけを教えてください。
畠山さん(以下畠山) 直接のきっかけは、3.11です。当時私は横浜に住んでいましたが、その日は大きな地震があって電車が止まり、家にも帰れなくて。その後しばらくは都市の機能が麻痺して、水や食糧の買い占めが起こったり、ガソリンも手に入らなくなりました。当たり前だと思っていた暮らしが、わずか一日でがらっと変わり、自分がいかに不安定な生活をしていたのかを痛感しましたね。モノ自体は余っていて、お金を持っていても、信頼できる人間関係がなければ、手に入れることさえできません。いつかお金が役に立たなくなる日が来ても生きていけるように、自分自身の力で生き抜く技術と、信頼できる人とのコミュニティを作らなければと考えました。
畠山 また福島の原発事故をきっかけに、コミュニケーションの齟齬も起こってきました。例えば、汚染問題への考えのずれから友人と居酒屋へ行きづらくなったり、意見の食い違いからしなくてもよかったはずの喧嘩が起こったり。それまであたり前に過ごしていたことも、一緒に楽しめない場面が増えていったんです。
山内 なるほど。非常時への対応だけでなく、日常生活の次元から、これまでの付き合いが分断されてしまった、と。だから一方的に受容して消費するこれまでの生活に、疑問を持ったんですね。
畠山 そうです。食べ物はどこから運ばれてくるのか、電気はどこからくるのか、何も知らない自分がふがいなくて。生活の根底を支えているものをきちんと知って、そのことに責任を負いたかったんです。
シェアハウスの活動1:食べ物を作る
山内 それでは、シェアハウスの活動について教えてください。
畠山 2013年の5月から、275坪の古民家を改修して「いとしまシェアハウス」での暮らしを始めました。今、メンバーは6人。私は新米ですが猟師、鶏を絞めるワークショップの講師、ライターなどをしています。食べ物とエネルギーと仕事を自分たちで作ることをテーマにし、周りのみんなを巻き込みながら活動しています。
山内 具体的にどんな活動をしているんですか?
畠山 まずは、「食べ物を作る」ことです。今年から米づくりを始めて、先日ようやく脱穀できました。この写真は田植えイベントのものです。
山内 田植え自体をイベント化しているんですね。どんな人が参加されるんですか?
畠山 田舎の暮らしに興味のある福岡市内の人が多かったですね。2反の田んぼから、30kg×14袋の米を収穫できました。シェアハウスの住人は、ひと月に合計20kgのお米を食べるので、みんなが一年分食べられるぐらいの量は穫れました。苦労したぶん、新米はとてもおいしかったですよ。
山内 お米以外の食材はどうしてるんですか?
畠山 お肉に関しては、自給率100%です。もともと、ゆるベジ(ゆるいベジタリアン)で、お肉はスーパーで買わずに自分たちで捌いた動物の肉をいただきます。海が近いので魚も捕りますし、養蜂や、烏骨鶏をひなから育てて食べたりもします。捌いた後は、皮をなめしてバッグも作りました。いただいた命はなるべく無駄にせず、最後まで使い切るようにしていますね。
稲刈りのワークショップのようす
捌いたイノシシの皮も余さず使用する。
シェアハウスの活動2:エネルギーを作る
山内 エネルギーも自分たちで作ろうとしているんですね。
畠山 そうなんです。太陽光パネルの発電機を作るワークショップを行いました。天気の良い日は庭に持ち出して、発電しながら仕事をすることができます。
山内 使う電力すべてをまかなっているんですか?
畠山 それはとても無理ですね。携帯電話やパソコンくらいならまかなえますが。大切なのは、自分たちが普段使っているエネルギー量を作るのに、どれだけ労力がかかるかを知ることだと思うんです。これだけ大変なら「節電しよう」という気にもなりますし、身の丈にあった使い方がわかってきます。地域での電力自給を目指した活動をしている市民グループ「藤野電力」さんの言葉を借りれば、「家庭菜園のように電力を作る」。すべてをまかなえなくても、自分で作り出すことに楽しみがあるんです。
山内 冬の暖房はどうしているんですか?
畠山 薪を燃料にして床下を温める韓国式の床暖房「オンドル」を設置しています。韓国から先生と宮大工さんを呼んで、ワークショップにして、たくさんの人に手伝ってもらいながら完成しました。熱を発生させるという点では電気よりも効率がいいですし、身体もしっかりと暖まるのでオススメです。
私の一冊
『わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり─ 』
畠山千春 著木楽舎
「まだまだ新米猟師の私が、猟を始めたきっかけや悩んだこと、試行錯誤、失敗など、始めた時にしか感じられない心の揺れ動きを書いた本です。ブログはたくさんの人に瞬時に届いて便利ですが、興味のある箇所やインパクトのある写真だけが広まってしまい、私が伝えたかった真意がうまく伝わらなかったと感じたこともありました。本なら、私の考えを初めから丁寧に伝えていけるので、出版できたことは私にとって大きな一歩だと思います。ただ、命の現場は、自分が行かないとわからないことが9割。もし本を読んで興味を持っていただけたら、ぜひワークショップにご参加ください」