インタビュー

“見えない世界”と会話できる社会を求めて 〜後編〜

“見えない世界”と会話できる社会を求めて2014.4.1(tue) up

子育てにもつながる魔女の世界

会場には女性だけでなく男性も多くいらしていたこの日、男女にとって興味深い、家族のあり方や子育てのお話が飛び出しました。

「魔女は、そもそも“お母さん”なんです」。そう笑顔で語る角野さんのドキッとする言葉に、会場中が興味津々です。
母親が家族を守り、愛する者に健やかに生きてもらいたいというのが魔女のはじまり。「“魔女的なもの・母なるもの”の存在は世界中にあり、人間以外の“見えないもの”と会話ができる人達なのだ」というお話に、これまで、魔女に対してもっと“魔”なイメージを抱いていた私は、なるほどと気づかされます。

ということは、現代に生きる母親たちも、”魔女”的な存在だということ。でも、現実社会で生きる母親たちの中で、“見えないもの”と会話する余裕のある人は、なかなかいないのではないかな。そう思っていると、そのことが、今の日本の子育てにも影響しているというのです。

目黒さん 「今、日本中の家族が良い大学に行くための“教育家族”になっている。それはすごく良くない傾向だと思っているんです。 “6歳までは神のうち”っていう言葉もあるように、せめて小学校に入る前までは、英語とか数学のような人間の知識以外のものに触れてほしいんです。自然や神話的な世界である昔話とかね。だから、 “見えないもの”がたくさん出てくる児童文学というのは、子どもにとってすごく大切なんです」

角野さん 「それは私も全く同感です。今の子ども達は数字で人間の価値が計られる世界に生きていますよね。そうではないことに心を伸ばし、見えない世界と語り合うことをもっと大切にしていった方が、伸び伸びと感性豊かな子どもに育ってくれると思います」

大親友である角野さんと目黒さんをつなぐのは、”子どものための仕事”です。『魔女の宅急便』シリーズ全6巻や『おばけのアッチシリーズ』など、数々の児童文学を書いてこられた角野さん。子ども達やお母さんたちのために全国にチルドレンズ・ミュージアムをつくって活動されてきた目黒さん。お二人がこれまで力を注いでこられたこととは、誰もが想像力を働かせて、”見えない世界”と会話する、ゆとりのある社会をつくることなのだと感じました。

おちゃめで才気あふれる角野さんと、ちょっと毒もありユーモアたっぷりな目黒さんの掛け合いで、いくつもの笑いが沸き起こったあっという間の一時間半でした。楽しい時間の中でいつの間にか、大切なメッセージをたくさん受け取ることができた第三回“美JYO会”。次回も楽しみです。

最後に、会場に来られていた方に感想をうかがいました。

百崎さん 奥の深いお話に感動しました。いくつになっても子どもの心を失わないことが大切だとあらためて感じることができ、また子育てについてのお話にも共感しました。これまでの自分の生き方・やってきたことは良かったんだと素直に思えました。
首藤さん 「キキは毎日、今日はどんな人に出会えるのか、何が起こるのかワクワク楽しみにしているような子」というお話をうかがって、私は接客業をしているので、自分も、朝はそんな気持ちでドアを開けて出かけているのかな? と思い返しました。もっと日常の出来事に敏感になっていきたいという学びの場となりました。

トーク後にはサイン会。角野先生と近い距離でお話できる貴重な時間とあって、行列はなかなか途切れませんでした。

◆角野栄子さん 公式ウェブサイト□http://kiki-jiji.com/hoge/

( 取材・文・撮影/田原春香)

プロフィール

角野栄子女史・児童文学作家 1935年東京生まれ。早稲田大学卒業。アニメーション化された『魔女の宅急便』で野間児童文学賞、小学館文学賞、IBBYオーナリスト文学賞など、他作品でも受賞多数。2000年には紫綬褒章を授与された。『アッチコッチ ソッチのちいさなおばけシリーズ』(ポプラ社)全23冊など、数多くのロングセラー作品を持つ。
目黒実氏・九州大学大学院特任教授日本に初めてチルドレンズ・ミュージアムの概念を導入し、3つのミュージアムと1つの科学館を設立。グッドデザイン賞を受賞した「絵本カーニバル」、「子どもとともにデザイン展」など多数プロデュースを行なう。京都造形大学客員教授、NPO法人絵本カーニバル代表、財団法人子ども未来研究センター代表理事。

 

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