インタビュー

“見えない世界”と会話できる社会を求めて 〜前編〜

“見えない世界”と会話できる社会を求めて2014.3.31(mon) up

角野栄子さんにお会いしました(第3回美JYO会にて)

アートカフェ『Cafe Edomacho』オーナーであり、アーティストのYURIさん。アナ話でも取材させていただいた彼女は、カフェを通して色んな出会いをプロデュースしています。
(YURIさんの記事はこちら
今回は、YURIさんがカフェで不定期でひらいている“美JYO会”をレポートします。“美JYO会”とは、第一線で活動する方々をゲストに招くトークイベント。ふだんなかなか会えないあの人のお話を、とても近い距離で聴くことができる刺激的な会です。3回目のゲストは、『魔女の宅急便』の原作者である児童文学作家の角野栄子さんと、チルドレンズ・ミュージアムをはじめ子どものためのさまざまな活動をされている九州大学大学院特任教授、目黒実さんでした。YURIさんの進行のもと、ワクワクする貴重なお話がつぎつぎに飛び出しました。
2話に分けてお届けします。

ふたりの美JYO、九州で出会う

会は、今回の対談つながったお二人の出会いの話からはじまりました。
きっかけは今から2年ほど前。福岡県田川市にある田川美術館で角野さんとYURIさんは出会ったといいます。原画展のため訪れていた角野さんと、美術館内でのワークショップの講師として出向いていたYURIさん。お二人の共通点は、なんと”ブラジル”でした。

角野さんにとっては作家としての原点。YURIさんにとっては幼少期から身近で、今のアート作品にも影響を与えた場所が”ブラジル”なのだそう。

なるほど。たしかに、YURIさんの作品には、鮮やかな配色とはじけるような明るさが見られますが、角野さんの原点が”ブラジル”というのは少し意外な気もします。それにしても、「最初の出会いが九州の田川」というのがちょっと嬉しかった、根っからの九州人の私です。

話は角野さんがブラジルへ渡ったときのお話へ。

戦後の日本は、今のように自由に海外へ行くことができない時代があり、25歳の角野さんは、2ヶ月間の船旅を経て移民としてブラジルへ渡りました。そこから2年間、ブラジルで暮らします。文化も言葉もわからない土地で、「言葉とは?」「コミュニケーションとは?」と必死で考えた経験から生まれたのが、作家・角野栄子の処女作『ルイジンニョ少年、ブラジルをたずねて』でした。

もちろん、はじめは上手く書けなかったのだそう。くり返し書いていくうちに、「書くことがものすごく好きなのだと気がついた」という角野さん。処女作の出版が35歳のとき。そこで「書くことが好き」だと気がついてから、なんと7年間は誰にも見せず、一人で作品を書き続けていたといいいます。
「同じ事をくり返しても嫌にならないのは、それが好きだから」。自分の好きなことに気がつくセンスと、そこに飛び込んでいける冒険心、一人打ち込み続ける強さなど、お人柄がよくわかるエピソードに感服です。

ブラジルにヒントを得た?! 『魔女の宅急便』

はじまりは満月の夜。主人公のキキは「魔女になる」と覚悟を決め、黒猫のジジと旅立ちます。魔女として一人立ちするべく、さまざまな試練に立ち向かう少女の、可愛らしくもたくましく生きる姿が描かれている『魔女の宅急便』。舞台は、コリコという架空の町ですが、角野さんがこれまで暮らしてきた、ブラジルや東京の“下町”の風景がベースになっているそうです。ブラジルの人たちの会話のテンポや人柄なども、登場人物の描写に活かされているのだとか。

“ファンタジーでありながらもリアル”な生活の描写や、いきいきとした登場人物たちに魅了された『魔女の宅急便』ファンの私ですが、そんなところに原点があったと聞いてびっくり。また改めて、本を読み返してみたくなりました。

物語の中に登場する魅力的な人々の生活の中には、“日本的な伝統”も描かれているというのもまた、興味深いお話です。『魔女の宅急便』には、コミュニティ内での持ちつ持たれつ、助け合いや思いやりなど、失われつつある日本の美意識が息づいています。
そうした感覚は、私自身がふだん大切に思っている価値観のひとつですが、なかなか上手く表現できていないことでもありました。角野さんの物語では、子どもも大人も受け入れやすい描写で、自然に語られている……あらためて、”物語”というものの強い力を感じました。

物語を書く”こととは

「キキには、こんな女の子であってほしいという行動をとらせようとするんだけど、それだと物語がガクンと面白くなくなるの。だから観念して、一人の生きている人として書いてあげるんです」と、キキの性格について語ってくださった角野さん。『魔女の宅急便』の主人公キキは、どこかでご自身の一部という感覚がありながらも、角野さんとは別の人格として描いているのだそう。“舞台を立体的に想像しながら書く”ことで、「物語の世界が見えるように立ち上がってくる」といいます。

「物語の中に、読む人が入り込んで遊んでほしい。何かを学ぼうというのではなくて、遊んで、そこでまた自分の物語を作ってくれたら。そんな風に私の物語を受け入れてもらえると幸せです」 “物語を書く”ということは“自分とは違う人の生きる世界を生み出す”ということ。角野さんのお話をうかがって、あらためて感動しました。

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