佐賀の日本酒といえば、いまや全国の日本酒ファンにも注目されています。そんな「佐賀酒(さがさけ)」を、知識やスペックで語るのではなく、もっと自由に楽しもうというユニークなセミナーが開催されました。
佐賀の地酒の楽しみ方を発見する体験型セミナー「佐賀酒学」。お酒を覚えたての若者や日本酒に詳しくない初心者も肩肘張らずに気軽に楽しく味わう時間。そのセミナーのようすを、レポートします。
佐賀の酒と味覚を楽しむ、型破りなセミナーのはじまり
会場となったのは、佐賀市愛敬町にある「IK Japan Craft(アイケージャパンクラフト)」。佐賀酒を中心に全国の日本酒を堪能できる、お酒好きにはたまらない一軒です。
本編が始まる前の待ち時間、参加者の手元には嬉しいサプライズが配られました。会場の名物・佐賀県産米を使った土鍋ご飯の「おにぎり」です。まずはお腹を落ち着かせて、いよいよ本編がスタートします。
元気に現れたのは、本日の講師・キノハチ先生。福岡県八女市の蔵元「喜多屋」に所縁があり、海外へ渡った後、現在は日本酒の先生として独自の視点で日本酒の魅力を発信する活動をされています。
「今日は、日本酒を3倍楽しくする、たった2つのことを教えます。今日は日本酒の『裏ラベル』の数字や専門用語はいったん横に置いておこう。今日は全部忘れてしまって大丈夫!」
日本酒のことを深く探求する上で、精米歩合、アルコール度数、酒米の銘柄といったスペック(成分や特徴)は大切な要素。しかし、裏ラベルに並ぶそれらの情報は、日本酒に詳しくない人にとって時に「難しさ」を感じさせてしまう壁になることも。まずは知識の壁を取り払って、もっと気楽に楽しんでほしい、というキノハチ先生の言葉に、緊張した空気は一気に和らぎました。
まずは、シュワシュワとはじけるスパークリング日本酒「冬のうたかた(東鶴酒造)」で乾杯。
その1:その土地の「食」と「酒」は地続きである
キノハチ先生が掲げた最初の秘訣は、「食文化を知ること」。
例えば四国。愛媛、香川、高知、徳島の4県は、それぞれ獲れる魚も味付けも全く異なります。「カツオを食べる高知には、カツオに負けないキレのある酒。鯛茶漬けを愛する愛媛には、出汁に寄り添う酒が生まれるんです」とキノハチ先生。
では、佐賀の食といえば、なんでしょう?
キノハチ先生の問いかけに、参加者からは「イカ!」「ラーメン!」「海苔!」と佐賀の名産品が次々に上がります。
「そう、佐賀の海苔は香り豊かで口どけ滑らか。有明海の6〜7メートルもの干満差が、アミノ酸たっぷりの旨味をつくります。今日はそんな佐賀の「食」を、日本酒と一緒に味わってみましょう」
今回、佐賀酒と合わせるアテとしてテーブルに並んだのは、佐賀の食卓に欠かせない精鋭たち。
丸秀醤油の天然醸造「自然一だし醤油」と「十穀味噌」、有明海の恵みでもある三福海苔の焼海苔「一番摘み 潮彩」。さらに、酒蔵が多い土地ならではの副産物を活かしたMIFUKUAN(川原食品)の「柚子クリームチーズ粕漬」。
あえて料理として完成されたものではなく、素材や調味料そのものをお酒と合わせていく。シンプルだからこそ、お酒の甘みや香りがどう変化するのかがダイレクトに伝わる、真剣勝負のテイスティングが始まりました。
「美味しい、という言葉をどんどん使ってください。甘口・辛口なんて言葉は今日は禁止です!」
醤油のコクが酒の旨味を引き立て、酒粕の香りが次のひと口を誘う。専門用語で頭をひねるのではなく、舌が感じる「相性の良さ」に集中する時間は、まさに大人の食育!
「シュガーロード」が佐賀酒のDNAを作った
なぜ佐賀の酒は、これほどまでに芳醇で旨味が強いのか。その答えは、歴史と地理の中にありました。
キノハチ先生が示した地図には、長崎街道(別名:シュガーロード)沿いに密集する酒蔵のプロット。江戸時代、長崎から砂糖が運ばれたこの道沿いでは、贅沢な砂糖を使った甘い味付けの料理が発展しました。
「料理が甘くなれば、合わせる醤油も甘くなる。そして醤油が甘くなれば、酒もそれに負けないガツンとした旨味を持つようになる。佐賀酒の力強さは、この土地の歴史が作った必然なんです」
全国的に酒蔵の数が減少傾向にあるなか、佐賀県は多くの酒蔵が今も元気に暖簾を守り続けている稀有な地域です。その大きな支えとなっているのが、佐賀県民の圧倒的な「地元愛」。
「例えば居酒屋で地元の酒が選ばれる割合を調査すると、他県では3割程度に留まることもあるなか、佐賀では実に7〜8割という高い数字が出ることもあるんです」とキノハチ先生。
この驚異的なデータには、会場からも「そんなに!」と驚きの声が漏れました。単に有名な銘柄だから飲むのではなく、隣近所にある酒蔵を、自分たちの宝物として日常的に楽しんでいる。そんな県民一人ひとりの「推し」の積み重ねが、佐賀酒の力強いブランドを支える土壌となっているのです。
その2:「推し」に例えて、日本酒で遊ぶ
後半は、さらにユニークな企画「日本酒で遊ぼう」。
用意した佐賀酒を、自分の好きな有名人やキャラクターに例えてみましょう。
「お酒のことを学ぶのではなく、お酒で遊ぶんです。江戸時代の庶民も、お酒を擬人化して遊んでいたんですよ」とキノハチ先生。
「このお酒は、おしゃれでちょっと気が強い女子大生かな」
「こっちは、すっきり爽やかだけど芯がしっかりしている生田絵梨花さん!」
「これはもう、レディー・ガガのようなパワフルさ!」
次々と飛び出す自由な表現に、キノハチ先生も「それ、すごく伝わります!」と太鼓判。
難しい専門用語を使わなくても、自分の「推し」に例えるだけで、そのお酒の個性が立体的に浮かび上がってきます。
知識としての「数値」を覚えるのではなく、感性で「性格」を捉える。そうやってお酒を一つの人格としてイメージできるようになると、自ずとその隣にふさわしい「パートナー(料理)」が見えてくるから不思議です。
「この性格のお酒なら、あのお刺身に寄り添ってくれそうだな」
「こんなにパワフルな子なら、しっかりした味付けの料理が隣にいてほしい」
そんな想像力が膨らんだところで、キノハチ先生から実践的なアドバイスが飛び出しました。
「モテる大人の飲み方とは、スペックを語ることではありません。お酒の性格を理解した上で、『あの料理に合いそうだね』と、食欲を刺激する会話ができる人こそが本当に格好いい。スペックを暗記するより、相性を想像する楽しさを共有してほしいんです」
知識でマウントを取るのではなく、目の前の一杯をどう楽しむか。その豊かな想像力こそが、日本酒をもっと自由にする鍵なのだと、参加者のみなさんも深く頷いていました。
「佐賀ん酒はうまかば~い!」を合言葉に
セミナーは、この日一番の笑顔とともにこの言葉で締めくくられました。
「佐賀ん酒はうまかば~い!」
裏ラベルにこだわらず、目の前の一杯を「誰か」に例えてみる。産地に思いを馳せながら、地元の醤油や海苔と合わせてみる。そんな少しの遊び心があれば、日本酒はもっと身近で、もっと自由なものになるでしょう。
今回の「佐賀酒学」で配られたのは、知識という名の教科書ではなく、日常を豊かにする「遊びのチケット」でした。あなたも今夜、気になる「佐賀の一本」を手に取って、誰かに例えて遊んでみませんか?
<この日のラインナップ>
◎佐賀酒
・冬のうたかた スパークリング(東鶴酒造)
・純米吟醸 松浦一(松浦一酒造)
・純米酒 虎之児(井手酒造)
・能古見 特別純米(馬場酒造場)
・聚楽太閤 特別純米酒(鳴滝酒造)
◎つまみ
・自然一だし醤油(丸秀醤油)
・十穀味噌(丸秀醤油)
・柚子クリームチーズ粕漬(MIFUKUAN)
・一番摘み 潮彩 焼海苔(三福海苔)
(取材・文:編集部、写真:カメラマン/西澤 真喜子)











