インタビュー

「小さくはじめて長くつづける」。 江津湖と人がつくる、出会いの場。〜江津湖Living10回記念 座談会レポート〜

2024年5月19日。熊本市の上江津地区でマルシェ、音楽、アートを楽しむイベント「江津湖Living」10回目が開催されました。2018年5月の初開催以来、江津湖キャンプ、江津湖クリーン、江津湖シネマ…とさまざまな視点から“江津湖の魅力”を発信し続けてきたのが、「くまもと江津湖魅力化推進協議会」のみなさんです。

江津湖Livingが地域にもたらした小さな変化、都市部における公園の役割、「楽しみながら続ける」ことの大切さやこれからの可能性など。協議会メンバーである株式会社コムハウスの田中誠一社長、小辻ゆりさん、ダイスプロジェクトの橋爪の3人で、わいわい語った60分の記録です。

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10回目を迎えた「江津湖Living」。思い思いに自宅のリビングのようにくつろぐ姿が印象的です

▽第1回目開催後のインタビュー記事
みんなの湖が“リビング”になった。 おだやかな春の日を振り返る〜江津湖Living振り返りレポート〜

まずは10回続けてみる。そこから、見えてきたもの。

福永 今年5月に記念すべき10回目を迎えられたとのことで。それぞれにいまの率直な思いを伺ってもいいでしょうか。

田中さん(コムハウス 以下、田中) いい意味でも悪い意味でも、続けることの大変さは実感しています。それでも、今回が10回という節目で強く思ったことは、「大変だけど、やっぱり続けてきてよかった」ということなんです。自分たち(コムハウス)はここ(上江津湖)が働く場所でもあるので分からない部分も多いんですが、「上江津湖周辺の印象が変わりました」という声をいただくことが多くて。日常的にこのみずうみ周辺を利用していただくというのは当初の目的のひとつだったので、やはり嬉しいですね。

福永 わたしの周りでもそういう声多いんですよ。

田中 うん、ちょっとずつですけどね。イベントのあとも、なんかこのあたりが余韻に浸っている感じがするというかね。そういう空気感はある気がします。

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記念すべき第10回目の関係者の皆さんと記念撮影

小辻(コムハウス 以下、小辻) たしかに、イベントをはじめた2018年以前と比べて、特に週末はご家族連れのご利用が増えてきた印象です。お店に立っててると、ピクニックとかをしてゆっくり湖畔でくつろいでらっしゃる方がいるのが見えるんです。やっぱりこの環境はいいなあと。

福永 もともとは熊本地震の経験をもとに、江津湖から、地元熊本がもっと元気に魅力ある街になるようにというテーマを掲げてスタートされました。そんな江津湖Livingの魅力のひとつが、熊本にゆかりのあるすてきな出店者さんたちだと思っていて。これは公募ではなく、運営からのお声かけで決めているんですよね。

小辻 そうなんです、熊本に実店舗を持ってらっしゃる方に限定してお誘いしています。前回でマルシェ出店が25店舗くらいかな。「自宅のリビングのようにゆっくりくつろいでもらいたい」がテーマなので、数を増やしてあまりギュウギュウに詰め込みたくなくて。音楽、アートと一緒にのんびり食事を楽しんでもらいたいので、そういう“空気感”を一緒につくってくださる方々とご一緒できているのがしあわせですね。

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協議会メンバーである株式会社コムハウスの小辻ゆりさん

橋爪(ダイスプロジェクト 以下、橋爪) 2016年4月に熊本地震が発生し、11月に田中さんから相談を受け、その翌月から毎月の会議がスタートしました。それが、のちの「江津湖テーブル」(定例会議)につながっていくんですね。2017年6月に協議会を設立してからは、毎月定例会後の清掃活動を始めました。そして、まずは来春(2018年)のイベント開催を目指してみようと。そういう、みんなで毎月会議をして集まって、掃除をして…という“小さな動き”を熊本市が注目してくれて、イベント開催につながっていったんだと思います。普通、公園というのは民間事業者が簡単に使うことのできない場所なので。

福永 異例ということですね。

橋爪 自治体からの注目度や関心が高いということは、協議会のメンバーにとっても、出店者にとっても、誇らしいことだなあと思っています。江津湖Livingって、民間の大きな公共事業ではないじゃないですか。とても小さいプロジェクトで、当初は「江津湖から熊本を元気にしていきたい」という思いだけでスタートした。イベントの大きさ・小ささというのはもちろんひとつの指針だと思うんですけど、「小さくてもできることを続けていく」っていうのが本当に大事だと思っていて。実績ができると、その思いに賛同する人や協力者が増えていく。そして共感する人が仲間になってファンになる。そうすると、賛同・支持の輪が広がって、長く続けていける。江津湖Livingは、熊本市にとっても、対外的に誇りとなるようなプロジェクトに育っていると感じています。

田中 キャンプ・防災スクール、シネマやクリーンイベントなど、活動開始から3年で江津湖プロジェクトを仕組み化し、ブランド化するところまでもっていけたんじゃないかなと思っています。でもまずは、自分たちが楽しむこと。やっぱり楽しいから続けているんです。イベント当日は地元の学生さんたちにも仲間になってもらって、準備から撤収まで、みんなで汗かいてやってます。毎回天気予報とにらめっこなんで、もうこんなプレッシャーいやだ!とか何だかんだつぶやきながらね(笑)。

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江津湖は熊本市の水のシンボル。江津湖LivingではSUP体験が好評

時代の空気感を大事に、「らしさ」を生かした関係性をデザインする。

福永 お客さまからの声や反応などから感じるものはありますか?

田中 実際イベントに来られた方が平日の江津湖で子育て支援のマルシェを企画されたり、県外からもよく視察に来ていただいたりしていると聞きますね。

橋爪 熊本だと「Knowledge(ノウレッジ)」のたまな地域デザイン協議会とか。何かを“仕掛けよう”とする人たちにとっては、江津湖Livingが「自分たちの地域でも何かできないか?」と考えるきっかけになっているんですよね。

小辻 前の店舗でもマルシェは開催していましたが、ここまで色んな方を巻き込むものはできなかったですもんね。それはやっぱり、私たち(コムハウス)がこの場所に出会ったのが大きいですね。

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前回のインタビュー同様、江津湖のそばの「コムハウス」でお話をお聞きしました。窓からのぞく緑に癒されます

福永 ただ、おいしい・楽しい・うれしいだけの1日じゃない。「江津湖で何してあそぶ?」という問いをポップに変換しつつも、環境とか、地域とかをちょっと考えるソーシャルな文脈をもつプロジェクトとしても、江津湖Livingは独自性が高いなと思っていて。でも、田中さんのその「やってみよう! よし、やる!」のマインドは一体どこからくるのですか…?

田中 う〜ん。ないですよ、いや…でもずっとあるかな(笑)。

福永 ないんだ(笑)。

橋爪 (笑)。でも公園の利活用については、最初から言われていましたもんね。

福永 日本全国で、こういう公園の使い方のデザインとか民間の方も巻き込んだあたらしい使われ方・取り組みがかなり広がっているなと感じていて。橋爪さんにお聞きしたいのですが、これってどういう背景があるのですか?

橋爪 まずは、2008年からの人口減少。公共空間をもう税金で維持できなくなってきているんですね。民間の方々が江津湖Livingのように公園を生かしてくれると維持していけるけど、そうじゃない地方の公園ってごろごろあるじゃないですか。そういう背景があるなかで、市街地の公園ならまだしも、郊外の公園だと、よっぽどちゃんと思いがあるとか、事業として制度を考えられないと維持していくのが難しいと思っています。

そんな社会的背景と主催者の思い、民間のニーズがしっかりハマっているのがこの上江津湖の例。僕は、日本全国でもかなりめずらしいサンプルだと思っています。たまたま公園の隣に土地を持ち、建物を建てて、事業をやられていて。そしてその代表がエネルギーやネットワークのある形で取り組んでいると。ひかえめにいって、その連携が超すごいと思っています(笑)。誰でもやれることじゃなかった。

福永 なるほど。江津湖Livingでの取り組みは、江津湖だからできたことで、全国的にも先進的な事例なんですね! 田中さんは、10回目を迎えた江津湖Livingの現在地ってどう捉えてらっしゃいますか?

田中 いまの家づくりやカフェもなんですけど、僕は常に「何かをつくってそこで人が喜んでくれると満足」みたいな感じなんですよ。江津湖Livingもまったく同じ。そういう意味でいうと、空間も、体験も、「らしさ」につながるデザインはもっと極められるのかもとは思いますね。

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協議会メンバーである株式会社コムハウス社長の田中誠一さん

小辻 それでいうと、マルシェと音楽とアートがテーマなので、ワークショップなどのアート文脈にもっと力をいれたいなと思っています。

田中 ほんと、やめるのは簡単なんですよ。たとえばコムハウスのことだけでいうと、会社の利益を協議会の協賛ってかたちにして、しっかり活動する。その延長にあるプロジェクトでお客さんが笑顔になる。自分たちがいま働いている場でもある上江津湖が、なんかみんなにとって気持ちいい場になっていく。そういう一連の流れを会社の目の前で見れるってまずないと思うんですよ。これは本当にすごいことだなと。だから、会社をここで続ける限りは、維持していけたらいいなと思っています。

福永 ええ。

田中 僕は江津湖Livingをはじめるときに一つだけ決めたことがあって、それは「社員に負担をかけない」ということでした。ただ最初は学生さんたちの手伝いもなくて、初回から社員がフル稼働だったんですけど(笑)。イベント翌朝の朝礼で、「このイベントに関われたことがしあわせでした」って言ってくれたスタッフがいたんです。それを聞いて、一緒に働く仲間がそんな風に考えてくれるなら続けられるかもしれないって思ったんですね。でも最近は…こわくて聞けてないです!(笑)

小辻 わたしはもう、10回で終わると思ってて。それを目標に歯を食いしばって頑張ってたんだけど(笑)、スタッフたちが「まだ続けますよね?」ってにこにことしてる。じゃあ…次もあるんだって(笑)。

田中 いやいや10回で終わるとか言ってないたい! あるよ。

福永 さすが! あるんですね。先ほども言ったんですけど、みずうみのそばって気持ちいいなとか、また次の週末ここに来てみたいなとか、 熊本ってすてきだよなみたいな。そういう“ここち”をつくれる民間イベントって尊いなあって思っていて。そんな風に10回重ねてきたつながりやノウハウは、今後どのように生かされそうですか?

橋爪 準備から運営までの一連のプロセスが、Livingメンバーのなかにだいぶ蓄積されています。そこからさらに、Living以外でも上江津湖をすてきに使ってくれる新たなコミュニティが生まれると、公園としてもさらに素晴らしいし、江津湖推進協議会としての活動の趣旨としてもすごくいいなあと。いまのメンバー以外の広がりをどうつくって、どう支援していくのかという可能性のフェーズに入ってきたのかなと思います。そこは、そういうコミュニティリーダーを協議会がバックアップしつつ、主体的にやっていただく流れにつなげられると、さらに活動に広がりが出てくるなと。無理なく続けられる可能性。課題でもあり、大きな可能性ですね。

福永 決められたゴールがないから、自分たちが楽しいこと、みんなにとって心地いいことを考えつづけることができるのかもしれないですね。みなさんはずっと、遊びながら進みつづける方たちだと思うので…いち市民として、これからも楽しみにしています!

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第11回の開催日が10月20日(日)(予備日10/27(日))に決定したそうです!詳細については、江津湖Livingの公式サイトやインスタグラムで随時更新とのこと。引き続き、アナバナも応援して参ります!

公式サイトhttps://ezuko.love/
Instagramhttps://www.instagram.com/ezuko_living/

(取材/福永あずさ、写真/江津湖魅力化推進協議会提供,編集部)


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