インタビュー

みんなの湖が“リビング”になった。 おだやかな春の日を振り返る〜江津湖Living振り返りレポート〜

熊本市はまちなかに「湖」を持っています。1年を通じてさまざまな表情を見せてくれるオアシスであり、水のまち・熊本を象徴する代表的なスポット・「江津湖(えづこ)」。たとえば湖と聞いて思い浮かぶのは、滋賀県の「琵琶湖」、山梨県の「山中湖」、青森県の「十和田湖」…。観光資源としての要素が強いそれらと違い、江津湖は、市民の“暮らし”と密着しているのが特徴です。平日の夕方はカップルたちのデートスポットになり、休日は家族連れでにぎわいを見せ、日がな湧水を汲みに来る人が後をたたない、小さな湖です。

そんな市民の憩いの場江津湖で、2018年5月5日(土)、熊本市の上江津地区でマルシェ、音楽、アートを楽しむイベント「江津湖Living」が開催されました。発起人・主催は、「くまもと江津湖魅力化推進協議会」の皆さん。2016年の熊本地震発災後に、復興支援の一端として、熊本の人たちを笑顔にする活動をしたいと発足しました。

協議会のメンバーは日頃から江津湖を愛してやまない皆さんたちです。共催は熊本市造園建設業協会(一般社団法人)で、熊本市とも細かい打ち合わせを重ねて実現できた、大満足の1日。「江津湖をリビングに」という想いに賛同された熊本市内外の企業や個人から協賛をいただき、イベントが実現。アナバナは、今回、広報チームのサポートとして「協力」という形で携わらせていただきました。

今回は江津湖魅力化推進協議会のみなさんに、開催の思いとこれからの活動の展望についてお聞きしました。聞き手は、江津湖そばに事務所を持ち、湖畔のラーメン屋さんをこよなく愛するフリー編集者の福永あずさです。

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今年初めて開催された「江津湖Living」。 江津湖を気ままに感じながら、思い思いにくつろぐ人々でいっぱいです(撮影/haco 平田克広)

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江津湖そばにオフィスをかまえる「コムハウス」で お話をお聞きしました。窓の向こうに広がる緑が気持ちいい!

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江津湖は熊本市民にとって“心のオアシス”! 「街のすぐ近くにある湖」と説明すると、県外の方は驚かれるんですよ(撮影/haco 平田克広)

当日の様子は動画でもご覧いただけます。穏やかな日差しのなかでそれぞれがくつろぎ、緩やかに楽しむ様子がひしひしと伝わってくるようです。

「江津湖じゃないみたい!」
いつもの場所が、その日はちょっと違って見えた

福永 まず会発足の経緯からお聞きしたいのですが、協議会にはどのようなメンバーがいらっしゃるのでしょうか?

田中さん(コムハウス)(以下、田中) 主に、熊本市内の事業者や個人の、有志で立ち上がりました。健軍カレー51(広告会社)、コニチワ(WEB制作会社)、ハーツライジング(アメリカ車専門ショップ)、個人で参加してくれている方、そしてコムハウス(住宅メーカー)とアドバイザーとして、ダイスプロジェクトさんが入っています。

福永 地震後に発足されたのですね?

田中 地震発災から6ヵ月くらい経った頃でしょうか。まだまだ建築業界が混乱の最中だったのですが、
「何か自分たちにできることはないか」とずっと思っていまして…。福岡の橋爪さん(ダイスプロジェクト)に相談に行ったのが始まりでしたね。

福永 なるほど。地震から半年というと、やっと少し身辺が落ち着いてきて、自分以外のことに目を向けられるようになった頃だったかもしれません。

田中 まさにそのとおりです。熊本地震から2年2ヵ月が経った現在も、県内の住宅メーカー・工務店さんたちは、住宅復興の整備に追われている状態ですから。
私たちも地震後は、特に被害の大きい益城町のために何かできることを…と思っていたのですが、本業もありますので、特段大きなイベントをするという予定ではありませんでした。そんななかで、「もっと身近なところに目を向けよう」というところに着地し、普段からマルシェなどを開催していたこともあって、「江津湖」がキーワードに上がってきたんです。

橋爪さん(ダイスプロジェクト)(以下、橋爪) プロジェクト自体は、2017年5月頃には、大体の方向性が「江津湖」に固まりつつありました。市民の皆さんにとって身近な「江津湖」の魅力を広くアピールすることで、さらに熊本を誇りに思い、元気になってくれるんじゃないか。
そんなキッカケづくりの目的としてイベントを開催してはどうかという話になりました。協議会としては月に1度会議を開きまして、そこでイベントの細かい内容や役割分担を決めていった感じです。

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協議会は熊本地震発災から約6ヵ月後に立ち上がりました。 「身近な存在である“江津湖”の魅力をアピールして、 熊本の人に元気を届けたい」という思いからイベントを企画(撮影/haco 平田克広)

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メンバーは住宅メーカーや飲食店などさまざま。 江津湖を愛してやまない方たちばかりが集まりました!(撮影/haco 平田克広)

福永 なるほど。メンバーの皆さんの役割分担はどのような感じだったのでしょうか。

田中 出店関係者へのお声かけや手配、協賛企業さんへのお声かけと取りまとめ、SNSやプレスリリース、チラシ制作などの広報、当日の会場デザインや運営・企画など、細かく担当を振り分けました。


福永 運営費はどのようにまかなったのですか?

田中 まず、実現したい内容を整理して運営費を試算しました。その後、開催趣旨に賛同してくださる企業や個人の方々を募って、収支を組み立てたという感じです。今回賛同いただいた方々には本当に感謝しかありません。この活動を継続していくことで、皆さんに恩返しをしていけたらと思っています。

福永 あくまでイベントは「入り口」であって、いつもと違う角度から、江津湖の魅力を市民の皆さんに提案されたかったということなんですね。熊本市民にとって昔から江津湖は本当に身近な存在で、日常に自然と溶け込んでいる場所ですよね。とはいえ、今回の「SUP」だったりグランピングだったり、「江津湖ってこんな使い方ができるんだ!」と非常に驚きました。

すぐに予約でいっぱいになったという「SUP体験」の様子。江津湖でSUP! と意外な遊び方に通りすがりの方も興味津々でした

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江津湖をリビングに見たてた新しい“魅せ方”で、 上江津湖一体が癒しの空間に。「江津湖じゃないみたい!」 「いつもと違って見える」といったおどろきの声が多数(撮影/haco 平田克広)

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(撮影/haco 平田克広)

田中 イベントに来られた方も、「これが江津湖なの?」って驚かれていましたね。
小さな頃は身近だったけど、改めて来る機会が減っていた方が、「イベントのあとに江津湖によく来るようになりました」という声なんかも聞けて、とても嬉しかったです。

米野さん(コムハウス)(以下、米野) 「江津湖じゃないみたい!」という声は本当によくいただきました。「海外のマルシェみたい」という声も聞きましたね。実際私たちも参加してそう思いましたし。
自分たちが参加しながら、癒されて、ずっと感動していた感じです。橋爪さんが最初に「江津湖は本当にいいところですね」って言ってくださったのが嬉しくて、普段から江津湖の良さは実感しているつもりだったのですが、改めていいなぁと思えました。

福永 確かに、子ども連れや学生さんなんかはよく江津湖にいるイメージがありますが、20代〜30代の女性がしょっちゅう江津湖に行くかと言われると…ちょっと微妙かもしれませんよね。熊本市民にとっては、そばにあるのが当たり前すぎるというか。そんな方にとっては、今回のイベントをとおして、本当に新しい江津湖の楽しみ方を発見することができたでしょうね。

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広報を担当した米野さん(コムハウス)。「江津湖のすぐ近くで仕事をしていますが、改めて本当にいいところだと実感できました」と語ってくれました

福住さん(コムハウス)(以下、福住) 「家のリビングで過ごすような感覚で江津湖を
満喫してほしい」という思いから、会場にはテーブルやソファを設置
しました。江津湖がみるみる「リビング」に変わっていく
様子を実感できて、本当に海外みたいだと思いました。

小辻さん(コムハウス)(以下、小辻) 私は普段から江津湖には行く方で、特に子どもが小さいときには、下江津の広木公園とかによく連れて行っていたんですよね。ただ、この上江津湖周辺で子どもを遊ばせるイメージがリンクできなくて、駐車場や立地の面からも、ここだとどうだろうって、ちょっとマイナスな見方だったんですよね(笑)。
でも実際やってみたら木陰も多く、湖も浅瀬なので安心で、子連れのお母さんたちにもとても喜んでもらえました。

福永 そうですね。確かに広木公園は駐車場も広くて一般的な認知度が高い気がしますが、「上江津湖広場」と聞いただけだと、「どこで遊ぶんだろう?」となってしまいそうですよね。

小辻 そうなんです! でも今回のイベントをとおして、上江津湖、下江津湖、どちらもじゅうぶん楽しめる空間だということがわかったのが大きな収穫でした。

 

3000人が思い思いにくつろぐ空間に。
形を変え、季節を超え、プロジェクトは続いていく

福永 当日は3000人が来場し、大盛況だったとお聞きしました! イベント全体を通して、どのあたりが見どころでしたか?

小辻 SUPは早々に予約が埋まって、大盛況でしたね。ヨガも人気でしたし、マルシェも人気のお店は30分で売り切れ…!

米野 今回は「マルシェと音楽とアート」がテーマでした。会場のいたるところで音楽ライブが開催されていたり、ライブスケッチがあったりしたのが良かったですね。

福永 協議会の会議は今も月に1度続けられているとお聞きしました。プロジェクトはこれで終わらず、今後も続けられるご予定ですか?

橋爪 続きますよ、たぶん永遠と(笑)

一同笑

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田中社長(コムハウス)は今回のイベントの発起人であり中心人物。 震災後の混乱が続くなか、率先してプロジェクトを立ち上げました

小辻 今回は本当に多くの方のご協力があって開催できたイベントなので、この想いに賛同してくださった方の輪が広がれば、もっと広く江津湖の魅力を伝えることができますよね。

福永 来場者の方はどういった方が多かったんですか?

小辻 やはり親子連れが多かったですね。

米野 あとはワンちゃんを連れた方も多かったです! すぐ帰る方が意外と少なく、皆さん長居されていたのが嬉しかったです。

小辻 年齢層は本当に幅広かったですね。近隣の方も多かった印象です。

橋爪 あとはオシャレな方が多かった〜(笑)! ただ公園に散歩に来るというより、ちゃんとオシャレな格好をして、江津湖を楽しんでいる方が多い印象でした。

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(撮影/haco 平田克広)

田中 熊本人は、しゃれとんしゃ〜ですから(笑)。あと外国の方も多くて、絵になっていましたね〜。

福永 そう、熊本人は、しゃれとんしゃ〜ですもんね(笑)。話を聞くと本当に大成功だった感じですが…逆に大変だった点・苦労された点はありましたか?

小辻 初めてだったので、やはり準備段階は大変でしたね。自社でやるマルシェとは違い、関わる人の数がとにかく多かったので、確認・確認の繰り返し(笑)。

田中 もう家族間でも色々大変でしたよ! 天気のことで何べんケンカしたことか! 「雨だったらどうする」、「暑すぎたらどうする」っていちいち(笑)。全員のFBグループのやりとりで険悪な雰囲気になりましたよ、ほんとに(笑)。
※田中さんと小辻さんはご夫婦です。

一同笑

小辻 だって出店担当だったから、心配するたい!(怒)

福永 さて、気をとりなおして…(笑)。今後の取り組みで考えられているものはありますか?

田中 早速秋に2回目を開催できればと思っています。今回がすごく楽しかったんで、またしたいなという気持ちが大きくて。秋の江津湖はまた違った景色が見られそうでいいなぁと。内容は、またこれから詰めていくんですけどね(笑)。ただコンセプトは毎回変えてもいいかなと思っています。たとえば、秋は「キャンプ」をテーマにするのも面白いなと思っているんです。「災害に強いまちづくり」を軸に、テントの貼り方、タープの貼り方などを実践するのなんかもいいと思います。
生産者さんを招く「ファーマーズマーケット」のようなものもいいなと。

小辻 周辺の学生さんたちに参加してもらうのも良さそうですね。地域と関わることで、熊本愛が深まる気がします!

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江津湖リビング第2回開催決定!

インタビュー後に、うれしいニュースが入ってきました。第2回目の開催日が10月28日(日)に決定したそうです!詳細については現在協議中とのこと。2回、3回と継続していく中で、江津湖の風景も魅力的に変化していくことでしょう。引き続き、アナバナチームも応援してまいります!

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(インタビューを終えて)
小さな湖を自宅の“リビング”に見立てた「江津湖Living」。
これまであまりスポットが当たらなかった上江津湖広場を会場に、音楽を聞いたり、アートを楽しんだり、木陰のソファで休んだり…思い思いに江津湖の良さを満喫している人々の姿が印象的でした。
その出発点は、地震で傷ついた熊本の人たちを元気にしたいという協議会の皆さんの想いからはじまったもの。「身近な場所の魅力を再確認する」「身近な人と過ごす時間を大事にする」。
大きな災害を経験した私たちだからこそ、小さな世界を大切にする喜びを、今までより尊く感じられる気がします。
次の開催は10月28日に決定! 大切な人を誘って、しゃれとんしゃ〜な格好して出かけましょう!
(取材/福永あずさ、写真/編集部,haco 平田克広)


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