皆さん、「まちづくり」に興味はありますか?そして、それは誰がすることなのか、考えたことはあるでしょうか。「まちづくりは行政がやってくれるものじゃないの?」いえいえ、そんなことはないんです。
今、佐賀県武雄市では、市民主体のまちづくりを進めています。なんでも、市民が中心になって高架下にスケボーランプをつくったり、駐車場でナイトマーケットをしたりして、数千人の方が集まったのだとか。2020年に「まちなか公共空間デザイン調査研究業務」として実施されたこの取り組み。携わった4人の方々に、想いや背景、「市民主体ってどういうこと?」「どんな工夫をしたの?」と、根掘り葉掘り聞いてみました。
今回インタビューにご参加いただいたメンバーはこちら。
- 武雄市役所 ハブ都市・新幹線課 大野さん、金岩さん(画面中央右)
- 株式会社ダイスプロジェクト 岸本さん(中央左)、本多さん(下)、天野さん(右上)
聞き手はフリーライターの森恭佑でお届けします。
駐車場を夜市空間に、高架下をスケボーパークに。4日間で7,000人が集まった2つの実証実験がもたらしたもの
武雄市は今、2022年の新幹線開通という大きな転機を迎えようとしています。来街者が増えることが予想されるなか、JR武雄温泉駅周辺にある公共空間をもっと生かそうと、2020年度に高架下や公園を活用した2つの実証実験を行いました。
第1弾は「武雄温泉千年夜市」。武雄のまちなかを舞台に大規模なナイトマーケットを出現させました。会場は、普段は駐車場として使われている旧市庁舎跡、在来線高架下、中央公園などの公共空間です。2日間で4,500人もの人が集い、武雄に賑わいのある夜市空間が実現しました。
第2弾は「武雄ストリートパーク」。新幹線高架下に現れたのは、特設スケボーパークでした。スケボー教室、ドッグラン、ストリートファッションや飲食の店舗が出店し、雨にも関わらず2日間で2,800人が来場。ワークショップでアイデアが生まれ、参加者がそのまま中心となって実行委員会を組織しながら、武雄に新しいカルチャーシーンを誕生させました。
森 すごくたくさんの方が訪れていますよね。実施してみての反応や成果などはいかがでしたか?
大野さん(武雄市役所)(以下、大野) 今までの、行政が主体となって行うイベントとは全く違うものになりました。行政主催になると、地元の皆さんのために開催するという目的になるので、ターゲットが市外の観光客や若者向けになることが少なかったり、出店をお願いするのは地元のお店がほとんどだったりします。今回は市民の方と民間の方がメインになって企画を考えて、「市民主体」で実施をしたんです。やり方が異なると、訪れるお客さまもこんなに変わるんだと驚きましたね。
森 たくさんの若者が集まっていますよね。武雄といえば、2013年に蔦屋書店とカフェを併設してリニューアルオープンした武雄市図書館や、御船山楽園のチームラボが人気ですよね。
金岩さん(武雄市役所)(以下、金岩) その2つを目的に来られる方は多いですね。でも、昼間に図書館に行ったあとに、夜開催されるチームラボの展示を見に行こうと思うと、「夜まで過ごす場所がなくて、時間がぽっかり空いてしまう」という声もあったんです。本当は、魅力的なスポットは他にもたくさんあるんですけどね。まちなかでこういう取り組みを行うことは、観光で来られた方の滞在時間を伸ばすことや、まちにある他の素敵なスポットを見つける機会にも繋がったのではないかと思います。
天野さん(ダイスプロジェクト)(以下、天野) 若いお客さまも多かったんですけど、ストリートパークの会場でおじいちゃんがスケボーを見物していた姿もあって、新鮮だな〜と。幅広い世代が遊びに来てくれたのも、実証実験の成果の一つだと思います。
大野 実は、今までスケボー愛好者の方々は、街中でおじいちゃんおばあちゃんが過ごす公園では煙たがられることもあったんです。だから、別の場所にパークを作ることでトラブルは解決されていたんですけど、それって「共存」ではなくてただ「分断」していただけで。本当の意味で若者のカルチャーが受け入れられていた訳ではありませんでした。
森 なるほど。そんな若者たちに、大好きなスケボーをまちなかで表現できるステージを用意できたのは素敵なことですね。
大野 まず、彼らはボランティアスタッフとして積極的に参加してくれました。真面目な一面を見て、大人たちも見直したんではないでしょうか。ストリートパークでは子どもたちに優しくスケボーを教えるシーンも垣間見れたり。彼らのおかげで実証実験は成功したんだと思います。
「市民主体」はどうして必要?武雄市民のオープンで前のめりな個性を活かして
武雄市では、2017年から始まった市民参加型シティプロモーション「私はたけ推し!」など、まちづくりに対する市民の主体性を上げるようなアプローチを続けてきました。
森 新しく注目を集めた若者の存在は大きいですね。ところで、どうして武雄では「市民の主体性」に重きを置いているのでしょうか?
大野 武雄の観光資源といえば、温泉や陶芸があります。でも、温泉や陶芸のまちって、他を探せばいっぱいある。武雄の魅力を“市民の皆さんと”もう一度捉え直して、差別化を図る必要がありました。まちなかの公共空間をうまく活用して魅力づくりを行うために、「ここで何をやりたいか?何ができるか」を模索していった結果、着地したのが2つの実証実験だったんです。
天野 まちの魅力って、行政が「これがうちの魅力ですよ」と宣言してつくられるものではないですもんね。そこで暮らしている市民の納得感や愛着があってこそだと思いますし、市民が魅力づくりに関われることはとても素敵なことだと思います。武雄市さんは、市民と観光客が交わるようにしたいと仰っていますよね。
大野 はい。旅行の形は、団体から個人に変わってきましたよね。仲間と遊んで盛り上がるだけではなく、「現地で誰と会うか」が大事になってきている気がするんです。たまたま居合わせた人と仲良くなって、その思い出が「また来よう」という思いに繋がったりするじゃないですか。例えばそんなコミュニケーションの様子が、公園の風景の一部になったらいいなと思っています。だから、市民がもっと街中にいて、観光客と触れ合うようなまちづくりをしていきたい。そのためには、地元の人も楽しめる居心地のいい公共空間でないといけないんです。
森 そんな課題意識があったのですね。ダイスさんは、武雄の皆さんにどんな印象を持たれましたか?
本多さん(ダイスプロジェクト)(以下、本多) 私たちは普段福岡にいるので、いわゆる「よそ者」です。抵抗感を持たれてもしょうがないと思いますが、武雄は観光地だからか、ウェルカムな雰囲気を感じました。実証実験でアンケートを実施した際も、普通なら10人に声をかけて1人答えてくれたらいいほうなのに、武雄の皆さんはむしろ自分から「答えようか?」って言ってくれたりして(笑)
天野 皆さんアイデアがたくさんあって、かなり前のめりな印象もありますね。
大野 以前、市民の皆さんと「それ、武雄が始めます。」というキャッチコピーを作った時もその姿勢を感じました。ワークショップで武雄の歴史を学ぶ中で、明治維新の時代から最先端の技術を取り入れていたことを市民の皆さんも認識しています。そして、自分自身も新しい世界を切り拓いていけるような人間になりたい、とも口々に仰っていて。この頃から、行政がお膳立てをするのではなくて、「市民の皆さんが何をやりたいのか」に耳を傾けて、一緒にチャレンジしていこうよ、という意識になっていますね。
対話を通してまちの未来を描きながら、「実証実験」という場で再現してみる
市民がアイデア豊富で積極的な特性があったとはいえ、3,000〜4,000人規模のイベントを市民主導で成功させたのは大きな功績です。その鍵はどこにあるのでしょうか。
森 事の始まりは課題意識からだったと思いますが、お話を聞いていると、武雄の皆さんはワクワクしながら楽しんでまちづくりに関わっているように感じられますね。
金岩 最初に千年夜市を企画するにあたって、「こんなに楽しいイベントだったらワクワクする」「もっとまちを明るくしていきたい」という気持ちで臨んでくれたようです。そして実際に一度やってみると、運営の楽しさも実感できたみたいで。それが原動力になって継続できていますね。
天野 今回、一緒に企画を作ってくれた千年夜市(※註)さんたちも、すごく楽しそうに市民を巻き込んでくれましたよね!最初にみんなで作り上げたい光景を見せてくれて、「一緒にやろうよ!」という感じで。
(※註)「千年夜市」について
「旅とローカルの交差点」をテーマに、アジアのナイトマーケットをモチーフ とし、旅行者も地元の人も気軽に遊びに行ける新しい夜の遊び場づくりを実施。福岡の中心部にある清流公園で2013年からはじまった取り組みは、各地をナイトマーケットに変え、新たな出会いと刺激、そして明かりを灯し続けています。 https://nightmarket.jp
岸本さん(ダイスプロジェクト)(以下、岸本) 千年夜市さんは魅力的な場づくりを続けてきたノウハウがあって、うちにはいろんな自治体さんと一緒にプロジェクトをやってきたノウハウがありました。一緒に作り上げていくにあたって、お互いの視点で丁寧に対話を重ねましたね。公平性が求められる自治体の事業ではあるけれど、イベントのクオリティを保つためには譲れない部分があることなど。お互いの得意分野を良い形で発揮しながら、企画として世に出る前にしっかりとステップを踏みました。
天野 最初は千年夜市さんが中心となって、お手本として型を示してくれました。2回目の実証実験であるストリートパークでは、地元の人の関わり度が高まりました。中心的なメンバーになる方もいれば、当日のお手伝いだけ、という方もいて、各々の参加しやすい形で関われたことも良かったと思います。
森 まずは千年夜市で成功体験を積んでから、武雄ストリートパークでさらなるチャレンジへ、という流れだったのですね。良い形で連携していますね!
岸本 ダイスも、千年夜市さんも、そして武雄市役所さんも、割と仕事に対するスタンスが似ている気がするんですよね。せっかくやるなら楽しくやろうぜ、という感覚がうまく噛み合っていると思います(笑)自治体と民間が協働でプロジェクトを実施するにあたって、大事な点かもしれません。
大野 特に我々が意識したことといえば、なるべく市役所職員の姿は見せないようにする、ということ。トラブルがあった時はもちろん責任を取りますが、ワークショップも最初の挨拶くらいで済ませて、後は会場から姿を消していましたね。職員がいる、行政の企画である、ということを意識して欲しくなくて。
森 確かに、行政主催のイベントって職員さんが総動員されてるイメージがあります。
大野 職員が当日のスタッフとして関わるのは、ほんの数名だけに留めることができました。職員はむしろお客さんとして会場に遊びに行くくらいで良いんですよね。福岡からも出店者が来ていたので、来場者も民間のイベントのように感じていたと思います。
本多 出店者についてですが、今回は地元事業者からの公募ではなく、幅広く募りました。こちらがぜひ来て欲しいと思う店舗には直接お声がけをしたり、応募があった事業者には選考を実施したり。イベントではなく「実証実験」という名目だったからできたことですね。
大野 従来は、公平性を保つために地元の店舗のみを対象にした抽選、ということになりがちです。ただ、今回は「どういう空間づくりをすれば、どんなお客さんが来てくれるのか」を調べるという目的がある。地元の方にはご理解いただきながら、いつもとは違う雰囲気づくりに努めました。
「市民主体」を増やしていく。同じ夢を思い描く仲間と出会う土壌づくり
2つの実証実験をきっかけに、「武雄千年夜市実行委員会」は民間の力のみで発足。そして、ストリートパークの出店者の1人だった古着屋「SPINNS」さんは、商店街の空き物件に店舗を構えることにまで発展しました。
森 ストリートカルチャーのお店が新しくオープンするなど、とても良い流れでまちに影響が出ていますね。
金岩 SPINNSさんには若者だけじゃなくて、近所のヤンキースファンのおじいちゃんも来ているらしいです(笑)まちにおしゃれな空間が増えると、ジャージだったおじいちゃんも、おしゃれをしてお出かけするようになりますよね。
天野 SPINNSでは若い男の子が店長をやっているんですが、同世代の子達にとっても刺激になると思います。自分もお店を開きたいと思った時に、参考にできる運営モデルがあることは心強い存在になりますよね。
森 そんな輪が広がっていくと素敵ですね。昨年の実証実験に続いて、武雄市では新しい取り組みが始まっていると聞いています。
大野 実証実験を通して、公共空間の活用には規制やルールがあることが見えてきたと思います。では実際に、今後も継続的に活用してもらえる人がいるのかを、探していきたい段階です。そのためにもアイデアを募ったり、情報交換をしたりできる「武雄で始める学校」という市民大学のような取り組みをスタートさせました。そこで生まれた繋がりを母体として走り出していって欲しいという想いを込めています。まちの活用方法について、できるだけ敷居を低く、気軽に学ぶつもりで来て欲しいですね。
森 参加される皆さんに対して、どのように向き合っていきたいですか?
金岩 基本的に今までと大きく変わりません。私たちも団体の一員として関わっていきたいと考えています。皆さんがまちをどうしていきたいのか、タネを見つけていつか花開くように水を撒いていく時ですね。
大野 ダイスさんや千年夜市さん、市民や市役所など、それぞれにできることがあると思っていて。私たちにできることは、予算を使ってハード整備や規制緩和をすること。ですので、私たちが勝手に考えたものでハイどうぞ、ではなく、市民や事業者の皆さんが本当に望むものを、丁寧に探っていきたいです。
森 新幹線の開通も目前に迫って、いよいよ変化の実感が湧いてくる頃。それぞれの役割があって、お互いができることを持ち寄っていくことが大切ですね。
岸本 まちを変えるには1人では無理だけど、みんなが集まればできるんです。今回の実証実験で武雄市民の皆さんもそれを実感したはずです。ただ、音頭を取る人になるのはなかなかハードルが高い。まずは「少し手伝いたいな」と思ってくれるだけで十分なので、そんな人たちと一緒に手を取り合っていきたいですね。
本多 自治体さんと協働してプロジェクトを進めるときは、意識のレベルを合わせることはすごく大切ですよね。今回、武雄市さんがたくさん交渉してくれたおかげで企画が実現しました。自治体さんの協力なしではなし得ないことがたくさんあるなと思っています。
岸本 実証実験が賑わっている様を見ながら、大野さんや金岩さんとも口を揃えて「武雄のまちをもっと盛り上げたいよね」って話していて。僕たちも含めて、当事者たちが同じ夢を思い描けていることが、とても良い関係だと思うんですよね。ここでさらに市民にも火がついていけば、本当にそうなるかもって気持ちになるはず。数年後に、武雄の通りで浴衣を着てそぞろ歩きながら「そういえば千年夜市が始まりだったかもね」なんて会話が飛び交う風景があれば嬉しいですね。
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前のめりな市民の個性が後押しして、さまざまな活動の火種が見え始めている武雄市。行政の力、民間の力、そして市民の力それぞれが噛み合って、大きなムーブメントとなっていきそうな可能性を感じます。
コロナ禍で延期になっていた「武雄千年夜市」は、今年の年末に開催されるそうです。温泉や図書館だけじゃない、新しい武雄の魅力に触れてみてください。武雄で何かを「始める側」になるのも楽しそうですよ!
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- 武雄温泉千年夜市
【 名称 】武雄 千年夜市 〜X’mas to Countdown2022〜
【 日程 】2021年12月24日(金)〜12月26日(日)、12月30日(木)〜12月31日(大晦日) 5日間
【 場所 】武雄温泉中心部(メイン会場:中央公園&まちなか広場、提灯ライトアップ:温泉通り)
【 時間 】15:00~21:00 ※12/31のみ翌0時すぎまで
【 内容 】提灯夜景、スケートボードエリア、飲食出展、物販出展、縁日エリア、ステージ
【 主催 】武雄 千年夜市 実行委員会
【 お問合せ 】公式LINE https://lin.ee/QSqAzWE MAIL info@nightmarket.jp /電話 090-5489-5747(松岡)
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アナバナを運営するダイスプロジェクトでは、取組んだプロジェクトについてご紹介するトークイベントを実施しました。「⺠間の主体性を育むまちづくり」というテーマで、武雄の取り組みのほかにもご紹介しています。
当日のアーカイブ動画はこちら:https://youtu.be/qBiWTemiFE4
(撮影 勝村祐紀)